第26話 対暴走魔獣戦①
暴走し制御不能となり破壊しか方法がないという、とてつもなく厄介な事態に巻き込まれたレンたち。脅威度もAからAAに上がったとレンは言う。
暴走したナイトメアヘッジホッグは、未だ強烈な魔力を放出し続け咆哮を上げている。しかし、その咆哮が静まるとレンたちを見るや否や攻撃態勢に移った。
「まずい、アレが来る! だが今ならまだ間に合うか・・・」
速やかに魔素を取り込みマテリアライズする。
「マテリアルシールドLv6」
ナイトメアヘッジホッグがポイゾニックキャノンの発動準備態勢に入ろうとしていたので、レンが咄嗟に前進し仲間全員を庇うほどの巨大な障壁を具現化させた。
と、同時に無数の砲弾が発射されるが、全て障壁に衝突し大きな衝撃音が鳴り響く。その後、爆発した砲弾から皮膚に掠るだけでも猛毒に侵されるほどの毒々しい液体が障壁に飛び散った。
「これを直撃したらかなり危険ですね・・・」
「ああ、毒耐性あっても直撃はマズいな」
そんな中、1人だけ別なことで驚いている人物がいる。
「なんですか、あなたのそのデタラメな大きさの障壁は・・・」
リンが不機嫌そうに問いかける。
「こんなの、まだ序の口だ。折角、隙をつくったんだ。今のうちに攻撃してきたらどうだ? その自慢の大鎌で」
ポイゾニックキャノン後はインターバルに入るので、全弾回避できればチャンスとなる。
「フン! 言われなくても今から行きます」
リンが攻撃準備に入ろうとしたが、既にマリアが魔法の発動準備が整っていた。
「ヒートスティンガー!」
戦い慣れているマリアは一早く行動し、この隙を逃さなかった。巨大な炎を圧縮し威力と貫通力を高めた魔法が、ナイトメアヘッジホッグに向けて一直線に飛んでいく。
さすがに、今回は詠唱など唱えている余裕もなく無詠唱で発動させる。
「グァァァァ」
命中するが、貫通どころか軽微な損傷のみ。
「想像以上に硬いし燃えないわね」
「それなら、これはいかがですか」
一足遅れたリンが、大鎌を大きく振りかぶり突進していく。
「せいっ!」
厄介な砲撃を止めさせる為、無数にある筒を狙う。
『キィィィィィン』
「なっ!?」
筒を刈り取るどころか、傷すら与えられない。
「一族の秘宝と言われるダーク・ツェペリオンで斬り落とせないなんて・・・なんて硬さでしょうか」
その直後、ナイトメアヘッジホッグは重い巨体を素早く回転させ、呆然としているリンを尻尾で攻撃しようとしていた。
「危ない! 凛!」
「えっ?」
しかし、気づいた時には遅かった。
無惨にも尻尾がリンに命中する。
「キャァァァ」
防御もできず、まともに食らったリンは吹き飛び、受け身も取れず床に叩きつけられた。
「ぁぁぁぁ・・・ぐっ・・・がはっ」
吐血するリン。内蔵破裂の致命傷を負った。
「いかん、エミリオ緊急回復だ! フィオはエミリオたちの護衛を頼む!」
「は、はい! 行きます」
「了解です」
2人は、レンの指示を受け素早く行動した。
「グォォォォォォン!」
ナイトメアヘッジホッグが雄叫びを上げ、ポイゾニックキャノンを発射しようとしていた。
「くっ・・・今からじゃ広範囲のシールドが間に合わない」
そう判断したレンは、素早く発動可能で照準を狂わせる魔法を行使しようと考えた。
「間に合え! オシラトリィウェイブLv2」
地面に手をつき、詠唱速度優先でナイトメアヘッジホッグの足元を軽微な振動波で揺らした。
上手く態勢が崩れ、立て直す間もなく砲撃が発射された。
ベストなタイミングで振動波を発動できたので、あらぬ方向に砲弾が飛んでいき、辛うじて被弾ゼロで済ますことができた。
「爆発した後の猛毒液は躱すか防いでくれよ」
「OK! さすが兄さん! 愛してるわ」
ウィンクし投げキッスをするマリア。
そして、何か閃いたような顔つきで俺に話しかけてきた。
「良いこと思いついたの」
「何をする気だ?」
「見てのお楽しみよ! 兄さん、少しだけ動きを止めるか減速は可能かしら?」
「分かった、お前の魔法を発動させるくらいの時間稼ぎは可能だ」
そう言うと、マリアは無言でうなずき詠唱し始めた。
エミリオは、依然としてリンを治療している。かなりのダメージで瞬時の回復は見込めないようだ。
そして、ナイトメアヘッジホッグは何かを察知したのか、フィオの方に向き突進を始めた。
「させるか! ディーセラレイターLv4」
フィオが先ほど使用した、世界でも数人しか使用できないほど高難度の減速魔法だが、当然が如くレンも使える。というか、そもそもレンがフィオなら取得できると思い伝授した。
レンの場合はユニークスキル”スイッチ”での制御が可能で、レベルが高いほど減速率が向上する。Lv4だと70%減速。しかも、減速魔法を持続させるのに詠唱し続けなくても可能。
動きが著しく遅くなったナイトメアヘッジホッグは、フィオのいる場所に向かうのを諦めたのか、その場に立ち止まる。
すると、ナイトメアヘッジホッグの口が大きく開かれ、強大な魔力が集約していく。
「なっ・・・あれはヤバい」
レンはマリアの方を見るが、あの砲撃が放たれるまでには間に合わないと判断し、すかさず魔法詠唱し始める。
「やれるかどうかわからないが、弾き返すしかない」
レンは集中しマテリアルシードをブーストさせ、一気に魔力を高める。
「これを突破されると、全員死にます。そんなことは絶対にさせません!」
一方、狙われているフィオは焦燥感に駆られながらも、全身全霊で何重もの障壁を作り出して砲撃に備えている。
砲撃の準備が整いつつあるナイトメアヘッジホッグの口内の魔力が大きく光り輝き放たれようとしていた。
「これは、さすがに見ていられる状況じゃないな」
ディアナは危険だと判断し、フィオの所に加勢に行こうとしていた。
≪女神エレクトラ様、お願いします・・・どうか私たちを守ってください≫
自分より遥かに大きいな魔力の前にして、やれるべきことはやったフィオは、もう祈ることしかできなかった。
「アクセルブーストLv3」
レンは超加速でフィオの前に立った。
「レン様!」
「大丈夫だ、フィオ。絶対にお前を傷つけはさせない!」
レンの右腕から5層の魔法陣が構築され、全身に膨大な魔力で覆いつくされ手先に魔力が集約されていく。
「これが、レン君の本気なの・・・」
「学園長が言っていた通り規格外の魔力だな」
「こんなに大きい魔力は見たことないです。それに、こんなにも純度の高いマテリアライズは初めて見ました。とても鮮やかで美しい魔力・・・」
安全圏でこの戦いを見ている生徒たちとディアナはレンの魔力に魅入られていた。
「ねえ、ラトゥーナ。純度の高いマテリアライズってなんなの?」
「う~ん、どう説明すればいいのか難しいですけど・・・魔素を魔力に変換するのは、誰もが100%変換できるわけではないのです。魔法の資質や恩恵を授かる魔力量が人によって差がでます。私はそれを色で認識することが可能で、マテリアライズの変換率が低いと淡白な色。高いと鮮明な色で見えます」
「へえ~そうなんだ。知らなかったわ。それで、レン君の魔法の変換率が100%に近いっていうわけね」
「いえ、あれは100%を優に超えています。」
「マジで!!」
「ええ・・・何をすればこの様なマテリアライズができるのか見当もつきません」
「レン君、本当に同い年なの・・・」
そんな外野が騒いでいる中、ナイトメアヘッジホッグから強烈な特大光線が口から放たれた。
「させるかよ! レイダストリアLv8」
集約されていた魔力を一気に解き放ち、極大な閃光魔法が放たれる。
光線と閃光魔法の衝突後、耳を塞ぎたくなるほどの大きな衝撃音が生じ、その場で拮抗を保っている。
「ぐっ・・・なんて威力だ。この魔法で圧しきれないなんてな。暴走するだけで力が跳ね上がりすぎだろ・・・凜じゃあるまいし」
このレイダストリアは、現在レンの発動可能な魔法のうちでも最強クラスの魔法。しかも、限界に近いLv8にも拘わらず。ちなみに、レンが2歳の時に領地を襲撃しに来た脅威度Aのドラゴンを一瞬で葬り去り、山を吹き飛ばした時の魔法よりはるかに凌ぐ威力。それを以ってしても、容易に撃ち負かすことができないナイトメアヘッジホッグの光線は凄まじい威力だと物語っている。
互角で拮抗を保っている状態だが、レンの魔力が僅かに衰えてきて圧されてきた。
「レン様、このままでは・・・」
「くぅ、大丈夫・・・だ。まだ、余力は残してある」
「本当ですか? 無理してませんか?」
「ああ・・・」
実のところ、結構ヤバい状況だったりする。フィオの手前、不安がらせてはいけないと思いウソをついていた。これ以上、魔力を高めようなら暴発の可能性があり、そうなるとフィオや治療に専念しているエミリオと瀕死状態の凛まで巻き込んでしまう。これ以上、粘られると絶体絶命のピンチに陥ってしまうだろう・・・しかし、そう思っていた矢先、左側の方から強い魔力が感じ取られた。
「ごめん兄さん、待たせたわね。こいつで終わりにしてあげるわ!」
マリアは、右手を天に掲げた。
ようやくマリアの魔法詠唱が終わり、発動準備に差し掛かった。
「いでよ!
瞬時に数えることが不可能なほどの数の火犰尽散がマリアの頭上に具現化していた。
「なんて数だ・・・」
フィオに加勢しようと思ったが、レンが来たことによりその場に留まったディアナが口ずさむ。
「狙うのは砲撃筒よ! 突き刺され、火犰尽散!」
砲撃筒をめがけて、無数の火犰尽散を投げ放った。
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