第22話 魔法実習
今日は魔法実習ということで、特待生全員が闘技場に集まっている。特待生(Sクラス)は8名。女子6名、男子2名。
いや、男子は1名! どう見てもエミリオは見た目が女子だ。だが、これを口に出すとエミリオが泣き出し、マリアに怒られるから胸の内に秘めておこう。
凜はともかく、シリア・エミリオとは友人になったが、残り2人はまだ話したことがない。
名前も・・・知らないな。自己紹介していたはずだが、凛のこと考えていたから記憶に残っていない。それで先生に注意されたんだ。
まあ、それがきっかけでシリアとエミリオと仲良くなれたのだから、良しとしておこう。
さあ、今日は集中していこう。また先生に注意されたら本気でトイレ掃除させられる。それはマジで勘弁だ。
「実習って何やるのかな?」
シリアがつぶやく。
「さあなぁ・・・脅威度Aクラスの魔獣を倒せとか?」
「いや、そんなの無理だから! 殺されちゃうわよ」
「ぼ、僕は回復しか能がないので、せめてスライムがいいなぁ・・・」
スライムすら倒せないように見えるのは俺だけだろうか。
「脅威度Aなんて、兄さんくらいしか倒せないでしょ。私は兄さんやフィオの手助けがないと到底無理ね」
「ん~凛なら、行けそうな気がするんだけどな」
「えっ、あの主席様が? 何、あの子のこと知っているの?」
「いや・・・知っているというかなんというか、只者じゃない感じがするんだよね」
実は、俺の現世の妹だとは言えない。怒るとどす黒いオーラ出して戦闘力がとてつもなく跳ね上がるのだぞ!
「ちょっと待って・・・あなたたち脅威度Aの魔獣を倒したことがあるの?」
「ああ、何度か」
「ええ、あるわね」
「はい。レン様、マリア様と協力して」
「・・・・・・」
シリア、エミリオも声が出ず放心状態になった。
「え~と、ほんとあなたたち何者? 常識飛び越えているのですが」
「いや、まぁ、そのなんだ・・・いろいろあってだな。というか、3歳くらいから毎日魔法鍛錬していたから、そのおかげさ」
「レン君たち、凄いです・・・」
エミリオが尊敬の眼差しで俺たちを見つめていた。
「それに比べて僕なんか・・・」
あれ、急に自己嫌悪に陥ってらっしゃる。これはイカン!
「エミリオは回復魔法が得意なんだろう? それでこのSクラスに入れたのだから凄いと思うぞ! 魔獣を倒すだけが全てじゃないんだ。エミリオのような優れた回復術士がいるから、俺たちは安心して強敵にも立ち向かう事ができるんだ。もし、大けがしたら回復頼むからな。エミリオ!」
エミリオの肩を掴んで、サムズアップした。
「レン君・・・ありがとう。僕、頑張る! レン君を絶対に助けるから!」
サムズアップした手をガチリと握りしめられ、なんだか瞳がときめいてらっしゃる。
「兄さん・・・やっぱり」
「レン様・・・」
「えっ? えっ? 2人はBでLなの?」
「違うから! もうこのくだりは勘弁してくれ!」
「ちょっと、あなたたち! もうすぐ教官が来るというのに、静かにできないのかしら」
凜が、怒り気味に吠えてきた。
「ごめんね~リンちゃん。もう五月蠅くしないから、そんなに怒らな~いで」
シリアは凜に近づき両肩に軽く触れ、ウィンクしながらにこやかに謝った。
俺がやったら、確実に殺されるだろうな。
シリアは王女にしては、人懐っこく親しみやすい。第3王女だからだろうか? 王女という責務に縛られず、自由奔放に育てられたような感じがする。単にそういう性格なだけかもしれないが、好感は持てる。
「ええ、お願いしますね」
シリアの人懐っこさに、若干気圧されているような・・・照れているような感じで、軽く咳払いをしてその場から放れた。
その際、俺を睨みながら。
「全員集まっているな」
ディアナ教官が参られた。
「早速だが昨日言った通り、実践形式の魔法訓練をする」
「各個人で、戦闘を行ってもらうが、対戦相手は・・・脅威度Aのナイトメアヘッジホッグだ」
「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」
全員きれいに揃った。色んなトーンの『えっ!?』が聴けた。
おいおい、マジでAかよ。しかもナイトメアヘッジホッグって、背中から無数の
「・・・冗談だ」
「・・・・・・」
超絶真面目な顔して、冗談ぶっこんできやがった。絶対に言わないキャラだと思ったのに。
何、そういう人なの? しかも、冗談言った後も表情が微動だにしない。色んな意味で恐ろしい人だ・・・
「まあ、全員が攻撃系魔術士ではないからな。エミリオは他の生徒の戦闘を確認し、回復が必要なら自分の判断で魔法を使え。それがお前の課題だ」
「は、はい」
「あとは・・・ラトゥーナは支援系だったな。エミリオ同様、支援が必要な生徒がいれば自己判断で魔法を使え」
「了解しました」
あの子は、ラトゥーナっていうのか。覚えておこう。藤色で三つ編みツーサイドダウンヘアーで眼鏡をかけている。
おそらく魔族だな。種族までは分からないが耳が少し尖っている。
真面目そうな感じの子。スタイルは・・・うん、素晴らしい! 太っているというわけでなく、胸・お尻・太ももは良い塩梅でムチっとしている感じ。分かっていただけるか?
うん、目の保養になりました。ありがとう・・・しかし、何やら背後からビリビリとくる視線を感じるが気にしないでおこう。
「フィオも支援で・・・回復も使えるのだったな。2つになるが、状況をよく判断して支援と回復をうまく使い分けて行動しろ。お前なら慣れているだろう? この程度なら」
「・・・人数が多いのでどこまでできるか分かりませんが、これまで培った経験をお見せ致します」
「フィオ、俺のことは気にせず他の6人を集中して見てやってくれ」
「あら、私も大丈夫よ。だから5人ね」
マリアも自信満々で応える。
「承知しました。でも、ご無理はなさらずに」
フィオは一礼して配置についた。
「残りは攻撃系だな。各自、こちらで確認している実力の範疇内で適度な相手を用意してある。では、アタッカーは邪魔にならないよう散開しろ」
「はい!」
俺たちは散らばり、相手が登場するのを待っていた。
「さて、どんな奴が出てくるのかな」
少しワクワクしていた。実力の範疇内と言っていたから、そんなに弱い奴は出てこないはず。俺の実力をどこまで把握しているのかは分からないが、学院長との戦いはデータに残してあるはず。あれを参考にするのならB程度か・・・と、俺は予測していた。
「来た!」
俺の近くにある闘技場の入り口から、何やら大型の魔獣が現れた。
「・・・・・・は?」
おいおいおいおい、マジでナイトメアヘッジホッグじゃねぇか!
俺は
「学院長からのお達しでな。お前は特別だ。あと、学院長からの伝言だ・・・『レン君の為に素敵なプレゼントを用意したよ。私からの入学祝だ』だそうだ。随分気に入られているなお前」
「・・・・・・」
今頃、面白がって笑っているんだろうな! 後で、学院長室に乗り込んでやる。
「ま、安心しろ。その魔獣に猛毒はない。魔導演算プロセスで猛毒は消去してあるからな。他の魔獣も即死に関わるものは消去してある。あと、己の相手以外には標的にならないよう設定してあるから、自分の相手にだけ集中しろ」
便利だな魔導演算って・・・理屈はさっぱりだが。
とにかく、やるしかないか。毒がないならさほど脅威ではない。あとは、どの程度の威力まで高めるかが問題かな。
このクラスの魔獣になると、魔法耐性も高く、並の魔法では傷すらつけられない。Aランク冒険者でも単独討伐は至難の業だからな。支援魔法や肉体強化が重要になってくる。
そんな魔獣を俺1人で簡単に倒してしまったら、ここにいる連中はどう思うだろうか?
きっと稀有な存在として見られるだろうな・・・それが、良い意味か悪い意味かで捉えるのは本人次第だろうが。
あれこれ考えているうちに、Nヘッジホッグは俺に向かって突進してきた。
「手加減している余裕はないか・・・」
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