第21話 クラスメイト

 あれから2日後、始業式が行われ学院生活が始まることになった。現世の頃の記憶がない凛との接触は虚しくも失敗に終わった。

 好意を持たれるどころか嫌悪感をむき出しにしてくる始末。これから先、どうやって凛と打ち解けあっていくか思案中だ。


 最初は別人かと思ったが、やはり本人だと確信はしている。なぜなら17年間一緒に過ごした、かけがえのない絆が俺たちにはある。リン・レイシアは間違いなく俺の妹、草薙凜だと心・・・いや、魂がそう訴えかけてきている。

 それにあの時、魂の波動を送り込んだ際の苦しみよう・・・波動を送るだけで苦しむなんて考えられない。何かしら別の要因が作用したに違いない。それを紐解いていかなければ、凛とはこれからも仲違いしたままだろう。


「何が原因なんだかな・・・」

 特待生の教室で、俺は凜を見ながら考え込んでいた。


「・・・そういう訳で、明日は全員の実力を図るため、実践形式の実習を行う」

「・・・フェイグラム」

「・・・・・・」

「おい、レン・フェイグラム! 聞いているのか?」

「!?」

 不意に呼ばれて、教壇の方に振り向く


「今、私が何を言ったか聞いていたか?」

「えっ・・・いや、すいません、少し妄想の世界に羽ばたいていました」

 普通に謝罪するのもアレなんで、真顔でアホなことを言ってみた。


「お前・・・もしかしてバカなのか? いや、でもバカを特待生にするほど学院長の目は節穴ではないはず・・・」 

「いえ、バカではありません。学院長の目利きは素晴らしいの一言です!」

「・・・まあ、いい。だが、お前がいくらVIP待遇といえ、次ボケっとしてたら校内すべてのトイレ掃除をさせるからな!」

「了解です! 以後、気を付けます」

 明日からは、まじめに取り組もう。


『クスクス』

 周りから笑い声が聞こえる。


 凜も俺を見ていたが、視線が合うとすぐにそっぽを向かれた。

「フン・・・バカな男」

 小声で言ってるつもりかもだけど、近いから聴こえてるよ~ それともワザとかな~


「それでは、今日はこれまで。レン・フェイグラム、明日は実習だからな。忘れるなよ」

「はい~」

 早速、教師に目をつけられた。

 彼女は、特待生専属の教師で名は【ディアナ・トリアーノ】ここの卒業生で、教職員になる前は名高き冒険者だったらしい。

 背は高くスレンダーで目は鋭く、隙を見せるとサクッと刺されそうな雰囲気を醸しだしている。


 さて、今日は終わりだが、これからどうするか・・・凜と接触しようにも無策では、また何言われるか分からないし、あのナルシスト気取りな兄貴が出てきたら面倒極まりない。

 少し考え事をしていたら、いつの間にか俺の周りに人が集まっていた。


「ねえ、ねえ、レン君だっけ? ちょっといいかな」


「えっ・・・ああ、構わないよ」

 この子は、一昨日の入学式で軽く会釈してきた金髪ツインテール娘。明朗活発な感じで、ただ、どこか気品が漂う雰囲気がある。

 それに、かなりカワイイ顔立ち! ツインテールがよく似合っている。あと、出るとこは出ている・・・うん、御立派!


「んん、レン様・・・」 

 横にいたフィオが、何やら殺気立っているのは気のせいだろうか。


「先ずは、自己紹介からね」

 そういって、彼女は姿勢を正し雰囲気が一転した。


「お初にお目にかかります。私、エルシュタイト王国が第3王女【シルメリア・エルシュタイト】と申します」

 先ほどの軽い口調から、如何にも王族らしき立ち振る舞いと言葉使いに唖然とさせられた。


「!? 王女様!」

「あれま」

「あわわ」

 俺たち3人は、口が開きっぱなしになった。


「まさか、貴方が王女様だったなんて驚きました」

「ああ、いいよいいよ軽口で! 王女様とかなんかむず痒くなるし。普通にシルメリアでいいよ。仲の良い人からは、シルとかシリアって呼ばれてるわ。好きに呼んでちょうだい」

「ああ、君がそれで構わないのなら。じゃあシリアって呼ばせてもらうよ。それで、俺に聞きたい事って?」

「ええ、さっき先生があなたの事をVIPって言ってたから気になって。特待生ってだけでも、すでにVIPのようなものだし、ニュアンス的にそれ以上の何か・・・かなと思ったの」

「ああ、それはだな・・・」

俺は、マリアとフィオに目線を送った。


「隠していてもいずれは分かると思うし、話しても良いんじゃないかしら。ただ、このクラスの人たちだけね」

「私もマリア様と同意見です」

「そうだな。分かった」


 俺は、入学の経緯を掻い摘んで説明しようとした・・・


「あ・・・あのぅ」

「うん?」

 なんだか、申し訳なさそうな感じの声が聞こえてきた。


「君は・・・」

「あっ、ぼ・・僕は【エミリオ・グノシアス】って言います。い、一応、回復魔法が得意です」

 物凄くオドオドしてるな。奇麗な水色のボブカットで小動物的な感じの可愛いらしい娘だ。おまけにボクっ娘ときましたか!

 次から次と美少女の登場で、気分が高揚していた。


「あの・・・レン様。何やら勘違いをなされているご様子なので、恐縮ではございますが一言だけ申し上げます」

「勘違い? 何をだい?」

 満面の笑みでフィオに聞く


「エミリオ様は男性ですよ」

「・・・・・・えっ?」

 俺だけ時間が停止した。


「だからエミリオ様は、だ・ん・せ・い、なのです!」

「おいおいフィオ、何を言っているんだ! エミリオはどう見ても女性・・・」

 エミリオの顔を見る・・・女の子だよ、どう見ても。

 エミリオの胸の辺りを見る・・・女の子だよ? でも凹凸が目立たないかな。

 エミリオの太もも付近を見る・・・ズボン履いてるね。きっと男装が趣味なんだよ!


「エ、エミリオは女性で男装しているだけだよね?」

 まだ信じられず、何が何でも女性ということにしてしまいたい自分だった。


「あの・・・僕は紛れもない男性です。ごめんなさい・・・ごめんなさい」

 二度謝り、少し泣きそうになっていた。


「おおう・・・そうか、正真正銘の男の子だったのか」

『バコンッ』

「あいた!」

 後ろから、頭をはたかれた。


「こらっ、兄さん! エミリオ君にちゃんと謝りなさい! 泣かせてるじゃないの」

 妹に怒られ叩かれる、情けない兄を晒してしまった。


「エミリオ・・・君は顔も仕草も女性らしく、あまりにも可愛すぎて勘違いしてしまった。本当にすまない」


「そ、そんな・・・レン君に、可愛いって言われたら、僕・・・」

 顔を真っ赤にして、両手で顔を覆いつくし、身体をクネクネしている。


 おいおい、そういうところが女性そのものだということに気づいているのか? エミリオ君。


「アハハハハ」

 シリアが大声で笑いだす。


「いやぁ、レン君面白いね! あと、マリアさんもフィオさんもレン君との絡み合いが最高だよ」

「私の事は呼び捨てでいいわよ。私も遠慮なくシリアと呼ばせてもらうから」

「私も呼び捨てにしてください、シリア様。私はレン様の従者なので」

「OK分かったわ! 2人ともこれからよろしくね。エミリオもね」

「は、はい・・・よ、よろしくお願いします」


「それで、その・・・レン君がこれから話すことは、僕も聞いてもいいのかと思って・・・」

 そういや、エミリオの女性疑惑ですっかり忘れてた。


「ああ、構わないよ」


 かなり脱線したが、今度は本当に入学までの経緯を2人に話した。


「・・・へえ、そういう事があったんだ。学院長の推薦で試験パスなんてね。しかも、その学院長を倒すなんて相当強いね。確かにVIPだ」

一応、俺たちが冒険者だとか、魔法が異質な事は伏せておいた。


「レン君、凄いです。尊敬します!」

 俺の手を握り、目を輝かせながら俺を見つめている。

 そんな顔で俺を見ないでくれ。変な気分になってしまうではないか。

 あと、手を握るな! 俺・・・顔赤くなってないよな?


「兄さん、なんだかドキドキしてない? まさか、そっちもイケる口なの?」

「そっちもって何だよ! 俺は至ってノーマルだ!」

「?」

 エミリオは理解していないようだ。


「レン様・・・学院長だけでなく、エミリオ様まで・・・範囲広すぎませんか? 広範囲は魔法だけでお願いします」

「ちょっ、フィオ! だから学院長は違うって何度も・・・エミリオも違うからな!」

「ちょっと、学院長ってどういう事? レン君、もしかして学院長とアブノーマルな関係? ウソー」

「違う! 冤罪だ! シリアまで真に受けないでくれ。俺は無実だ! 健全な16歳の青年だー」

「アハハハハ、君たちといるとほんと楽しい! 王室じゃ、こんな愉快な事ないからね。これからの学院生活が楽しみでしょうがないよ」

「もうやだ・・・」


 俺は、泣いていた。女って怖い・・・

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