第19話 記憶の彼方
「どこだ・・・どこにいる」
あれからどのくらいの時が流れたのか分からないが、学院内やその他の施設を探し廻ったが一向に見当たらない。
入学式が終わって、すぐに行動できていたら呼び止められたかもしれないのにな。終わったのも分からないほど意識を深く閉じてしまっていたようだ。
「もう帰ったかな・・・あっ」
今日のところは諦めてマリアたちと合流でもしようかと思った時、あることに気づく。
探索魔法が使えることに。
「はぁ・・・なぜ気づかなかったんだ」
ため息をつき、自分のバカさ加減に呆れてしまった。
凛の気配は把握しているから、エリアサーチを使えば居場所はすぐに分かる。こんなことも気づかないほどに動揺し、冷静な判断ができていなかったのだろう。
冒険者の名が泣くぞ、レン・フェイグラム。
「早速・・・エリアサーチ」
反応があり、今はその場所で立ち止まっている。
「居場所は・・・校舎内か」
ここからでも、その校舎は見える・・・が何階にいるかまでは把握できない。となると、立体のサーチが必要だな。
ちなみに、エリアサーチは決められた範囲の上空からの視点で対象物の視認が可能。
「ディメンションサーチ」
最上階にいる。屋上か・・・今は急ぐ、爆風魔法で瞬時に行くか。
俺は誰もいないのを確認してから、魔法で跳躍した。
屋上に着地し、周囲を見渡す。
「いた・・・」
凛は手すりに手をかけ、遠くの空を眺めていた。
心臓の鼓動が早くなる。
緊張している。
16年ぶりだからな。
なんて声をかけようか迷ってる。
だが、ここで立ち止まっていても仕方がない。
目をつむり、大きく息を吸い込みゆっくりと深呼吸をした。
「よし、行くか」
凛のいる場所に近づいていく。1歩・・・また1歩・・・この1歩がこの世界と、自分だけ切り離されている感覚に陥るほど刻が遅く感じた。
そして、凛のそばに近づく。だが、凛はこちらに気が付かない。
それほど、何か思いつめた悩みでもあるのだろうか? 彼女は哀愁漂う表情で空を眺めていた。
「あの・・・・リン・レイシアさん」
俺は、勇気を振り絞って凛の名前を呼んだ。
「・・・・・」
声に気づいた、彼女が振り向く。
「はい・・・どちら様でしょうか?」
「!!!」
至近距離で凛を見たら言葉に詰まった。現世の凛と瓜二つまでとはいかないが、双子と言っても納得するくらい似ている。
やはり、彼女は凛の転生した姿だ。間違いない。
だが、俺を見て何の反応もない。気づいてないのか? それとも・・・
「? あの・・・」
「ああ、突然声をかけてすまない。君に少し確認したいことがあってだな、今大丈夫か?」
「ええ、構いませんけど」
「ありがとう。まずは自己紹介、俺の名はレン・フェイグラムといって・・・」
「レン・フェイグラム!」
その時、とても穏やかで何処か儚げな表情をしていた凛が俺の名前を聞いた途端、その表情が険しくなった。
「ああ・・・俺はレンだが、急にどうした? 何か険しい顔つきになっているけど。俺たち初対面だよな」
この世界ではな。しかし、いったいどうした。予想しなかったことが起こりつつある。
「ええ、あなたとは今日が初めてですが、その名前を聞くと無性に苛立たしい気分になります」
頭を手で押さえて、僅かに首を左右している
「おいおい、訳分からんぞ・・・それより凛、俺を見て何か感じないか?」
「いきなり名前で呼び捨てですか・・・ええ、感じますよ。余計にイライラしてきました」
あれれえ、これはマズいかも。それに、俺を見ても懐かしがる感じが全くしない。むしろ憎悪が込みあげている。凛じゃないのか?
「草薙って言葉に心当たりはあるか?」
「草薙?・・・・いえ知りません」
「君には昔兄がいたけど、覚えているかい」
「はい? 昔も何も兄は今いますけど、その質問に意味を見出せません」
この世界では、凛に俺じゃない兄がいるのか。なんだろう・・・少し疎外感。
「前世の記憶とかは?」
「前世? 私は生を授かった以前の事なんて知るはずもありません。むしろ、私に前世なんてあったのかしら? という感じです」
「・・・・・凛じゃないのか?・・・いや、でもそんなことって」
「さっきから何を言っているのです。私はリンです。妖魔族、族長の長女リン・レイシア! 訳の分からないのはあなたです、レン・フェイグラム。それと私を名前で呼ばないでください。あなたに呼ばれると、何故か本当にイライラしてきます」
「・・・・・・」
なんてことだ、彼女は凜じゃない。こんなに容姿も声も仕草も似ているのに。現世の記憶もない、俺の思い違いだったのか・・・
まさか、転生したきっかけで記憶喪失になった可能性もある?・・・分からない。
でも、初対面のはずなのに俺の名前を聞いて苛立つのは腑に落ちない。別人ならこんな状態にはならないはず。
何かある・・・俺はそう判断した。
「凛・・・」
「だから、名前で呼ばないでもらえますか!」
俺は応えず、凛にさらに近づき両肩を掴んだ。
「ちょっと、いきなり何をするのですか! 離してください」
「凛、お前は俺に触れても何も感じないか? お前に宿る魂は何も感じていないのか?」
この世界では血が繋がっていない赤の他人だが、魂は消滅することなく今の身体に宿っている。
ならば、魂と魂が共鳴しあえれば何かしらの変化が起きるはず。
俺は魂を介して凛に念を強く送ってみる。
「いい加減に、離してくだ・・・うっ」
突如、凛が苦しみだした。
「胸が・・・急に苦しく・・・なに・・これ・・・あなた・・・なに・・を・・したの」
「お、おい、凛どうした。大丈夫か?」
こんなに苦しむとは予想外だ。一旦、念を止めようとした、その時・・・
『ヒュン』
「!?」
魔力反応! 攻撃魔法が俺を捉えている。危険を感じ、俺は咄嗟にその場から離脱した。
氷の矢が、床に突き刺さる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
俺から離れた凛はその場に崩れ落ち、両膝・左手が床につき右手で胸を押さえながら荒い呼吸をしている。
「誰だ!」
周囲を見渡すと背後から1人の男が、こちらに歩いてきた。
「僕の愛する妹に手荒なことをしないでくれるかな。レン・フェイグラム・・・思わず、殺しそうになったじゃないか」
「・・・・・・」
愛する妹だとぉ、こいつがさっき言っていた兄か。
突然現れた、凛の兄と名乗る男。
この男との出会いが、異世界での俺の人生を大きく左右することに、この時は知る由もなかった・・・
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