第18話 空白の16年
「ほんと女子ばっかりだな」
校門に差し掛かり、周囲の様子を見て俺は少しうなだれた。ちらほらと男子が見受けられるが、あまりにも女子の比率が高い。
それと、先ほどから何やら注目を浴びている。すれ違うたびに視線がこちらに向けられていた。
「やたら視線を感じるのは何故だ? 俺たち目立ってる?」
「兄さんが、あまりにも格好良すぎるからではなくて?」
マリアが、ニヤニヤしながら俺をからかってくる。
「それはない!」
「おそらく、この服装のせいではないでしょうか?」
「服装?」
俺は、自分の服装を見る
「あっ・・・」
そういうことか。俺たちの服と周囲にいる生徒とは色が違う。俺たちの服はベースが赤・・・というより鮮やかな真紅でどこか高級感がある。
一方、今見かけている生徒は深い青・・・ロイヤルブルーに似た色合いかな。あと、俺たちの学生服には青色の制服にはないエンブレムが胸の辺りに刺繍されている。
「もしかして俺たちの制服は特待生用なのか・・・」
「おそらくね」
そら、注目浴びるか。特待生は全生徒の10%切るらしいし。
「見世物だな」
「ちょっと恥ずかしいです」
「まあ、いいじゃない。どうせ見られるなら腕組でもしようかしら・・・兄さん」
「ほんとやめてください! ごめんなさい」
「ちっ」
こらっ妹よ、舌打ちするんじゃない! 仮にも貴族なんだから。
「まぁ、気にしても仕方ないか。とりあえず会場に行こう」
俺たちは入学式の会場である、式典用のホールに向かった。
会場に到着すると、既に結構な数の新入生が入場しており、ざわめいていた。
「席は決まっているのかな?」
何か目印はないか周囲を見渡す。
「レン様、あちらに特待生用の席があるようです」
「ありがとうフィオ。さっそく行こうか」
席に向かい歩いていると、ここでも注目を浴び、ヒソヒソと話声が聞こえてくる。もちろん、何話しているかまでは分からないが。
「ねぇ、男子が特待生って聞いたことある?」
「ううん、ないわ」
「賄賂?」
「どうだろ・・・でも試験会場では見かけてないよね」
「男子で特待生の実力があるなら、実技試験で目立ちそうな気はするけどね」
「でも試験の時、ひときわ魔力の高かった人いたよ。女の子っぽい可愛い感じの男の子」
「そうなんだ・・・でもそれ、あの人じゃないよね」
「うん、ほんと何者だろうね」
俺たち以外3人の特待生が先に座っていた。特待生の椅子が前後2列で計8脚並んでいる。
前列に3人座っていたので、俺たちは後列の空いている席に座った。
その時、前列に座っていた金髪ツインテールの女の子が、俺たちに気付くと軽く会釈してきたので、俺も軽く会釈した。
その後、教職員が開式の辞を経て、学院長の辞が行われている。
入学式か・・・高校の入学から17年・・・早いものだ。夢物語だと思っていた異世界に転生し、その異世界でまた学生生活を送るなんてな。
この世界に来て16年間、転生者とは未だ誰とも出会えてない。神様は学校に残っていた全員は救えなかったと言っていた。誰が生きて誰が死んだかすら分からない。蒼汰も部活で学校にいたはず。あいつは生きているのか? それに、いったい誰が俺を狙ったのか? 何のために・・・
「続きまして、新入生代表挨拶・・・」
「リン・レイシア」
「!?」
今、なんて言った? 凛って聞こえたのは気のせいか?
俺は、檀上を歩いている女生徒を見た。
あれは昨日、すれ違った女性だ・・・間違いない。
そして、その女生徒が演台に立ち正面を向く。
「!!!!!」
言葉が出なかった。16年前、現世で妹との思い出がフラッシュバックした。
ウソだろ・・・凛だ。現世の妹だった凛だ。あの顔立ち、話し方が凛そのものだ。
「生きていた・・・」
誰も聞こえないほどの小声でつぶやいた。すると、視界がぼやけてきた。
あれ、俺泣いているのか・・・そうか・・・そうだよな。凛が生きていて、ようやく再会できたんだ。
泣くに決まってるだろ。
16年だぞ。
いつも俺のそばにいて、俺のことになると猪突猛進・傍若無人で呆れかえるほど俺を困らせる。
バカだけど憎めない・・・
大切に思っているから憎めない。
凛も同じ気持ちだろうか?
魂が熱い。凛の魂も感じているだろうか?
俺がここにいることに気づいているのだろうか?
今すぐ話したい。そばに行って抱きしめたい・・・
色んな感情が溢れ出てきて、もうどうしたらいいか分からなくなった。
顔を上げているのが辛くなり、俯いて泣き声が出そうなのを必死で堪えていた。
「レン様・・・」
「・・・・・」
「・・・・レン様!」
「!?」
声がした方向に振り向く・・・フィオだった。
「レン様、どうかされましたか? 何度も呼んだのですが」
「え・・あ、いや・・・大丈夫だ。少し感傷に浸っていただけだよ」
「何かこのような式典で辛いことがあったのですか? 目が赤く、顔色も良くないですし・・・心配です」
心配そうに俺の顔を摩るフィオ。
「大丈夫・・・ほんと大丈夫だよフィオ。心配させてすまないな。それより・・・」
周囲を見渡すと、いつの間にか式は終わっていた。
「終わってたんだな」
俺は、気分を切り替えようと思い深呼吸した。
「兄さん、そろそろ行かないと」
「ああ・・・」
立ち上がろうとした時、俺は思い出した。
「凛」
そうだ、凛に会いに行かなきゃ。いても立ってもいられなくて、俺は駈け出した。
「えっ?」
「ちょっと、兄さんどこ行くの!」
「悪い、急用ができた。先に行っててくれ」
俺は会場を出て、何処にいるのかも分からない凛の行方を捜した。
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