第17話 新居

 戦いの後、学院長に夕食をご馳走してもらった。

 それから俺たちは、寮に案内されリビングでくつろいでいた。


「いい家ね。家具も揃っているし、きちんと掃除もされているわね。居心地が良さそうで何よりだわ」

「ああ、そうだな。3年も暮らすのだから快適に過ごせそうで良かったよ。フィオ、キッチンは使いやすそうか?」

「はい。火の使い方や水の出し方とかは、お屋敷と同じですので問題ありません」

「それは、良かった! それなら、ここでも毎日フィオの美味しい料理を食べられるな」

 フィオの料理は絶品だからな。料理スキルがあるならきっとレベルはカンストだろう。

「はい。レン様に喜んでもらえるよう、美味しい料理を作りますね」

 フィオは嬉しそうに微笑んでいる。

 一方マリアは、私は?と言わんばかりの表情をし、冷ややかな目で俺たちを見ていた。


 この世界はもちろんだが、家電というものが存在しない。電気自体が存在しないからな。電気の代わりに魔工石で対応していた。

 魔工石とは、魔力伝達可能な石に各属性の魔力を込め、数年~数十年の間、稼働可能にする魔導技術を施された石だ。魔導加工石、略して魔工石だ。


「明日は入学式か・・・」

「特待生って何人いるのかしら?」

「さあな、まあ何十人もいないとは思うけど」

「学院の詳細を見たのですが、各学年で100人前後の生徒数が在籍し、そこからD・C・B・A・Sのクラス分けされるみたいです。特待生はSになりますね」

「あと・・・女性が7割以上です」

「やっぱりか・・・」

 ほとんど女子高みたいな感じじゃないか。居心地悪そう。

「あら兄さん、なんだか嬉しそうね」

「何をほざいてやがりますか! この顔が嬉しそうに見えているのですかね、妹よ」

「ええ、今日はどの娘と楽しい魔法プレイをしようかな。と妄想していたのでしょ」

「するか! つか、魔法プレイってなんだよ?」

「レン様・・・・」

 フィオが怪訝な目で俺を見ている。またフィオが情緒不安定になったらどうするんだ。

「男で特待生って、きっと兄さんだけだから女子に注目されるわよ」

「そういう注目はいらないのだけどなあ・・・」

「まあ、兄さんに近寄る不埒な輩がいれば、私が排除するけどね」

「おいおい、穏便にしてくれよ」

 マリアは凛みたいなことを言うな。現世の妹、異世界の妹も、どうして俺を束縛しようとするのかねぇ。

「わ、私もレン様を魔の手からお守りします!」

 あれ? フィオもなぜか意気込んでいる。

「フィオ、私たちで兄さんを監視するのよ!」

「はい!」

 2人はがっちり握手した。

 意気投合しちゃってまぁ、もう突っ込む気力もない。

「はあ・・・」


「さて、今日は疲れたし、そろそろ寝るか」

 俺はソファから立ち上がった。

「そうね、寝ましょうか」

「はい。私はお片付けしてから就寝させて頂きます」

「分かった、いつも片付けありがとうフィオ」

「2人ともお休み」

「ええ、お休み兄さん」

「お休みなさいませ、レン様」



 自室に入り、ベッドに寝転ぶ。

「学校か・・・」


 現世の頃の学園生活の記憶が蘇る。あの頃は毎日のように凛に振り回され苦労が絶えなかった。ここでもマリアに振り回されるのだろうか?

 流石に凛ほど強烈じゃないが、マリアも一癖あるから怖いな。フィオが良い緩衝役になってくれたら助かるけど・・・


 そういや、学園内ですれ違った黒髪の女性。何者だろう・・・ 

 一瞬凛かと思ったが、そうだとしたら俺に気づくはず。向こうは見向きもしなかったから違う可能性が高い。でも、あの感覚は・・・

 真由羅先輩の可能性もあるかな。この2人は転生しているのは確実。この世界に来ているかどうかは不明だが、俺の魂がこの世界に来ていると訴えかけてきているような気がしていた。


「ふぁ・・・」

 魔力をかなり使ったから、身体が重いな。そろそろ寝ないと明日に支障をきたしそうだ。


『コンコン』

 ドアがノックされる。

「ん? どうした?」


 扉が開く

「兄さん・・・」

「どうしたマリア、何か用事か?」

「・・・用事というか、兄さん慣れない所で1人じゃ寂しいだろうから、一緒に寝てあげようと思って」

「はい?」

 全然、寂しくないのだが。

 暗がりでマリアの表情が掴み取れないが、間違いなく強がっているな。だがここは、突っぱねてみるか。

「俺は寂しくないから1人で大丈夫だよ。だから、気を使わなくても大丈夫だ。さぁ、マリアも部屋に戻って寝な」

 俺は、マリアに背を向けて寝る態勢に入った。

「・・・・」

 無言で部屋の入り口で立ち止まっていたが、一歩前進して扉を閉める。

 そして、そのままベッドに向かってくる。

「なぜ、こっちに来る? 1人でも大丈夫だと言ったろう」

「兄さんのバカ! 朴念仁!」

 俺を罵倒して、許可なく俺のベッドに侵入してきた。

「おい、無理やり入ってくるなよ」

「フン」

 つれなくして怒ってらっしゃる。

「ったく、成長しても怖がりは治らないな」

「手、繋いで」

「仰せのままに」

 これ以上、突っぱねると面倒極まりないので、素直に俺は手を繋いだ。

「ねぇ、兄さん」

 不貞腐れていた顔が、少し安心した顔なり俺に問いかけてきた。

「なんだ?」

「これから、何があっても私の事嫌いにならないでね」

「?」

 突然、意味深なことを言ってきたので、すぐに返答できなかった。

「どうした、マリア。これからお前に何か起きるってことなのか?」

「いいから答えて」

「・・・・・」

 俺もマリアも目を背けず真剣に見つめあう。

 そして、俺はそっとマリアの頭に手を置き軽く撫でる。

「マリアは、俺にとってたった一人の妹で家族だ。嫌いになるはずがない。たとえ何があろうともだ! だから、俺に嫌われるとかそんなこと気にしないでいつものお前でいてくれたら良いよ。それと、もしお前が何か窮地に立たされるようなことがあったら、何が何でも全力で絶対に守るからな。覚悟しとけよ!」

「そう・・・ありがとう」

 その一言を言って、マリアは安堵したのかそのまま眠りについた。


 正直、前世の記憶がある分、完全に妹とは認識しづらいのだが、マリアと共に過ごしてきた15年間はまぎれもなく事実だ。大切な妹には間違いない。何があっても俺は守る。例え世界が敵になったとしてもだ。

「ずっと、お前の味方だからな」


『コンコン』

 また、扉がノックされた。

「フィオか? どうした?」

「はい・・・あの、お願いしたいことが」

「とりあえず入ってきていいよ」

 扉が開く

「失礼します」

 フィオは寝間着に着替えており、よく見ると枕を抱いている

「もしかして・・・」

「あの・・・1人だと心細くて、それで・・・その・・・」

 慣れない場所で、1人だと不安になるのだろうな。ましてやフィオは何か抱えているのだから。

「いいよ。こっちにおいで。というか、もう先客居るから」

 俺は、苦笑いしながら言い放つ。

「え・・・あっ、マリア様居たのですね」

「ああ、フィオとは少し意味合いが違うけど、怖がりだからね。慣れない所で1人だと落ち着かないんだろう。今はぐっすり寝ているよ」

「俺が真ん中に行くから、空いたところにどうぞ」

「はい。ありがとうございます。レン様」

 ベッドに入るフィオ。結構、ギリギリだな。これじゃ寝返りうてないか。

「ごめんなさい。窮屈になってしまって」

「構わないよ。フィオが不安で寝れない方が、俺にとっては辛いから」

「レン様・・・」

 フィオがそっと手を繋いできた。

「寝れそうかい?」

「はい。レン様のお陰で」

 にっこり微笑むフィオ

「それじゃ寝よう。お休み」

「はい。お休みなさい」

 お互い、瞼を閉じ就寝についた。



――――――翌日・朝


「じゃあ、行くか」


 俺たちは朝食をとって、入学式に赴くことにした。

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