第11話 アウェイク


 翌朝・・・まだ屋敷内は物音なく静まり返っている。きっと寝ているのだろう。俺は、早速昨日の理論を試すことにした。


「上手くいってくれよ。先ずはシールド出してみようか」


 イメージは想像しやすい物から・・・鉄の盾でいこう。大きさと硬さを思い浮かべ魔素を集める。


「うん、魔素がMSに取り込まれていくのが分かる」


 その後、すぐに具現化させないようMSに思念を送り制御してみる。


「・・・・ああ、そうだ。いつもここで一気に爆発してたんだ。それで膨大な魔力が具現化して制御不能になる」


 何とか抑え込んでみる・・・が、思っていた以上にきつい。MSが魔力をありったけ増幅させようとしている。


「ぐぐぐぐ・・・胸が熱くて息苦しい」

「抑えろ・・・抑えろ・・・」

 そう念じ続けるも、一向に増幅が収まろうとしない。

 何故だ? 間違っているのか? 

 立っているのも辛くなるほど苦しさが増す。


「うぐぅ・・どうすれば・・・いいんだ」


 分からない、この理論が違うのか・・・いや、これが間違っているとはどうしても思わない。何か見落としているかもしれない。


「考えろ・・・考えるんだ」


 とはいえ、もう限界に近い。このままこの状態を維持しようものならMSがオーバーヒートして爆発してしまうかもしれない。そのくらい危険な感じがする。


 額から汗が噴き出て、手足も震えが止まらない。

 もし、見落としている事があるとすれば何だ? 今の状態を何かの比喩で考えてみることにした。


 車のエンジン・・・MSをエンジンとして捉えてみる。


 ① キーを回して稼働させる ②ギアをドライブに入れアクセルを踏む。

 これで車は動き出す。今の俺の状態はアクセル踏んでいるのに車が前進しない状態。アクセル踏みながらブレーキも踏み込んでいる状態か。

 これを前進させるには、単に踏んでいたブレーキを放せばよいだけ。でもそうすると、アクセル踏みっぱなしだから、勢いよく車が前進してしまう。下手したら事故るな。


「・・・感じるものはないな」


 ギアをニュートラルに切り替えたら、アクセル踏み込んでいても止まるかな。でも、それはどういう状態なるか想像つかない。運転したことないからな。

だが、今俺は『切り替え』って言葉が引っかかった。


 切り替え・・・切り替え・・・


「・・・スイッチ」


 俺の脳内で何かが弾けた気がした。


「スイッチ・・・スイッチだ!」


 答えが分かったような気はしたが、ただ漠然にスイッチだけでは意思伝達は不可能。


 気づいたはいいが、もう危険水域を超えているような気がする。心臓の鼓動が非常に激しい。


「もう少し、もう少しなんだ・・・耐えろ、俺」


 こういう時こそ焦るな。スイッチだと何がある?

 ・・・・いろいろありすぎて纏まらない。

 いや、何のスイッチより、どういうスイッチが必要か考えてみる。

 俺が求めているのは、ON・OFFじゃない。これは制御にはならないからな。

 制御・・・スイッチ・・・強弱か!


 身の回りにあった、強弱のある家電は・・・


「扇風機!」


 ①扇風機の強のボタンを押して稼働させる ②勢いよくプロペラが回転する。

 今の状態だと、①の前にプロペラを工具で無理やり停止させている感じ・・・


「くぅぅ・・はぁ・・はぁ・・くっ・・胸が張り裂けそう・・・」


 この比喩が合っているなら、工具を放したら暴発。扇風機の電源を切ったら魔力消失・・・なら答えは1つ!


「正解は・・・扇風機の風力を弱めるだ!!」


 その時、俺の中で何かが切り替わった。あれほど苦しくて、死をも予感してたが、今は驚くほど落ち着いてきている。


「そう・・いうこと・・だったのか・・・」


 ようやく・・・ようやく制御することができた。感動に浸っていると、なんだか視界がぼやけてきた。


「俺は、泣いているのか?」


 自然と涙が出ていた。無理もないか、魔法制御し始めて約2年だもんな。ようやくスタート地点に立つことができたんだ。こんなに嬉しいことない。

 でも、まあ結構ヤバかったかな。あのまま気づかず無理やり耐えて続けていたら、本当に胸が破裂していたかもしれない。

 しかし、見事なほど思い違いだった。MSを制御するのは正解だったが、それを抑えれば可能だと思い込んでいた。まさか扇風機から正解を導けるとは・・・現世の文明ありがとう! 

 威力が強いなら抑えるのじゃなく弱める事だった。だから俺はあの時、咄嗟にMSに切り替えの思念を送った。ようは扇風機同様、スイッチを取り入れた。簡単に弱・中・強みたいな。


「でもこのスイッチはもっと細かく調整したら、かなり効率良くなるぞ」


 例えば、そうだな・・・シールドの拡大調整を10段階のスイッチをMSに設定したら、守りたい仲間の人数や仲間の密集状況に応じて小範囲~広範囲に切り替え可能だよな。MP消費量も変わってくるだろうし。あと、魔法によって段階を増減させるのも悪くないかもな。


「ヤバい、色んなことができそうだから楽しくなってきた」


 今の俺は物凄くニヤけているんだろうな。


「そうだ、感激のあまり妄想に浸ってシールドを発動させるの忘れていた」


 深呼吸し一息つく・・・


「マテリアルシールド」


『ブウォォォォォン』


一般的な盾の大きさと同様のシールドが目前に出現した。


「よし! 成功~ 硬さはどうだ?」


軽く叩いてみる。


「鋼のような硬く澄んだ音がする。思っていたより響くな。でも強度は鉄以上はあるかな。想像通りで何よりだ」


 これで、思うように魔法が使える。


 一仕事終えたような気分に浸り、芝生に寝転ぶ。


「ふう・・・・」


 これから本格的に魔法を取得し実践を経験して、大切なものを守れる力を手に入れよう・・・凛や真由羅先輩は、今頃どうしているのか。2人とも転生しているならこの世界に来ているかもしれない。会いたいな・・・

さすがに疲れたのか、俺は心地よいそよ風に当てられながら眠りについていた。


その時、誰かが木陰から俺を見ていることすら気づかずに。


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