第10話 妹の才能
母親に強く抱き締められて窒息死手前から逃れた俺は、背後から妹にイチャイチャ冤罪をかけられた。まったくもって失礼だ。
1つ年下の妹、マリア・フェイグラム。マリアはブロンドヘアーのセミロングで毛先が少しウェーブしている。天真爛漫で歓談好きな少しお生意気な少女。おしとやかさも見えず貴族令嬢らしからぬ立ち振る舞いだ。まぁ、俺も人のことは言えないが・・・で、この妹様は俺を兄として敬ってはいない。何かと俺にちょっかい出してきて、俺と遊ぶというより俺で遊んでいるようにしか感じない。
ちなみに、この世界の人間族は黒髪が珍しいとのこと。俺の家族も俺以外は全員茶髪。まあたぶん、俺の場合は前世が影響していると思う。魂ごとこの世界に来ているしな。だから顔は前世の時の面影はある。
話が反れたが、マリアが生まれた時、凛の可能性も考えたがどうも違うようだ。特に性格が全く似てない。他にも思い当たる友人とか当てはまらなかったので、彼女はこの世界の人であり転生した人ではないと判断した。
今頃、凛はどうしているのだろうか? この世界に来ているのだろうか? 転生前に神様に聞きたかったけど、時間がなかったようなので残念ながら諦めた。
「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん、ママとイチャついてないで私と遊んでよ~」
そう言って、俺の腕を掴み引っ張ってくる。
「だから、イチャついてないって!」
「ほんとにぃ? でも、ママに抱きしめられている時、ちょっと喜んでいたでしょ」
「な! 何を言い出すんだマリア! そんなことあるわけないだろう」
若干痛い所をつかれ焦る俺。しかし、本当に4歳児か? 感受性が大人すぎやしないか?
「あら、あら~ マリアったらおませさんね~ もしかしてお兄ちゃんにやきもちかしら?」
首を少し横に傾け、顔に手を当て微笑みながらマリアに話しかける母上。
「そんなことないもん! デレっとしたお兄ちゃんがキモいだけよ。」
キモいって・・・妹よ、さすがにお兄ちゃんは心が折れそうだよ。
「分かった。僕が悪かったから、今からお兄ちゃんと遊ぼう」
これ以上、妹に口撃されたら心がポキッとなるから気を紛らわすことにした。
「それで、何して遊ぶ?」
「そうそう、お兄ちゃんに見てもらいたい事があるの!」
嬉しいことがあったかのよう、にこやかに話すマリア
「へぇ、何か良いことでもあったのかな」
「うん!ちょっと見ててね」
そういうと、少し俺から放れて空に手を掲げた。まさか・・・
「う~ん・・・」
マリアの手先で、空気が小さく渦巻いてきているように見えた。
「もう少し・・・う~ん」
さらに数秒後、マリア周辺に風がなびき少し唸る音が聴こえた。すると手先に風が集約していきサッカーボールくらいの円を描き高速で回転していた。
「よし、完成。いけっ! エアスマッシャー!」
近くにあった木に狙いを定め、野球のピッチャーかの如く豪快にその風魔法を投げ放った。
『ザシュッ』
見事、木の枝葉を刈り取った。
「おお! マリア、凄いじゃないか! いつの間にこんな事できるようになったんだ」
本当に驚いた。ついこの間まで、マテリアライズすら上手くできなかったというのに。
「えっへん!」
腰に手を当て両脚広げ、どうだ! と言わんばかりのドヤ顔決め込んでいた。
「あらあら~ マリアったら、無詠唱でこんな強力な魔法使うなんてママびっくりよ~ 無詠唱で魔法発動なんてAクラス以上の冒険者か上位の宮廷魔導士しか見たことないわ~」
なん・・だと・・・詠唱無しじゃ普通は魔法は使えない? そんなの神様から聞いてなかった。マテリアライズできたら普通に魔力伝達するんだけどな。
「ねぇ母上、詠唱っていつするの?」
「大地や大気から恩恵を受ける時よ~例えば~」
マテリアライズの時だ。
母上は少し腕を伸ばし、掌を空に向けた。
「大地なる母よ_我に生命の根源となる_潤いの恵みを授けたまえ」
すると、母上の掌から水が溢れてきた。
「簡単なものなら、今のような感じね~」
知らなかった・・・
「じゃあ母上、今のを無詠唱でできる?」
「え~ 無理だと思うわ~ 念じるだけじゃ想いが上手く伝えられないから~」
魔法のスペシャリストじゃないとできないという訳か。それか天性なものか。
「もしかして私、才能ある?」
「ええ! 世界一の魔法師になれるかもね~ ママ嬉しいわ~」
そう言って、マリアの頭を撫でる。
「えへへ~ どう、お兄ちゃん。将来は私が養ってあげるわよ!」
はい、上から目線いただきました。
「ふん! 僕だって鍛錬して大人になったら最強目指すんだからな! 僕がマリアを養ってあげるよ」
「じゃあ、どっちにしろ私はお兄ちゃんとずっと一緒だね」
そういうとマリアは俺にしがみついてきた。
あれ? なんだかこれマリアに嵌められた感じがする。
「あら、あら~ 本当に仲良しね~ どっちかが結婚してくれないと、孫の顔が見れないわ~」
「ママ、大丈夫! 私がお兄ちゃんの子供を産むから!」
「ぶふっ! マリア、お前何言ってんだ! 僕たち血の繋がっている兄妹なんだぞ。結婚も子供もダメだよ」
「ええ~ なんで~」
変に大人ぶってるくせに、こういう時は子供そのものだな。
「そういう決まりだからよ~マリア」
「じゃあ大人になったら、その決まり覆す!」
興奮気味に拳を握りながら鼻息を荒くしてる、将来がとても不安な妹。
まあ、4歳児が言うことだし成長したら『お兄ちゃんなんて大嫌い』っていうんだよ。きっと・・・
「あら、そろそろお夕飯の支度しなきゃだわ~」
もうそんな時間か・・・今日はこれくらいにして、ご飯食べたら制御の仕方について改めて考えよう。
――――――――――――
夕食後・・・書斎
今日の出来事を思い出し整理した。俺と妹の違い・・・無詠唱で魔力を具現化。2人とも可能。具現化した魔法を制御し解き放つ。俺は不可で妹は可能。
「やっぱ制御か・・・」
あの時マリアは風魔法を具現化した時、別段制御に苦しんでいることは無かった。魔法完成までの集中力を高めるために、全力を尽くしていたと思う。
「そもそも具現化した時の魔力放出量が桁違いなんだよな・・・」
魔術書を読みながら
「ん? ちょっとまてよ。魔力は大地や大気から自然に溢れ出ている。この魔力の源・・・ややこしいから魔素でいいか。そして、個人の魔力保有量によって具現化した時の個人差が生じる」
これまで散らばっていたパズルのピースが一気にはまっていく感じがした。
「そもそも魔素量って基本一定だよな。個人の魔力量の差で変わるなら、大きければ大きいほど魔素を魔力に変換するのに時間を費やすはず。なのに、俺は無限ともいえる膨大な魔力を大した時間も費やさず放出できる。ということはだ・・・MRする時に触媒である
今までは魔法を発動させてから制御しようとし、MS自体には何もしていないというか神様から単に触媒として魔法を具現化させると聞いていたから、気にも留めていなかった。
しかし、この仮説ならMSの増幅を制御できれば最初から規模の小さい魔法を発動できると考察した。MSに直接思念を送れば、魔力量調整することは可能なはず。後は、最初のMS中に発動したい魔法のイメージを明確に捉えられれば、より強力な魔法を具現化できるようになる。
「MSはブースターの役割もあるという事だな。よし、早速実験してみるか!」
高揚した俺は立ち上がり、準備をしようとした。だが・・・
書斎の扉が急に開く。
「お兄ちゃん、まだ寝ないの? 私、眠いからもう寝ようよ~」
突如マリアが現れた。この時、俺の脳内に選択肢が出現した。
『1.妹と寝る 2.マリアと寝る 3.クレアと寝る』
おい! 寝るしかないじゃないか! しかも1と2は同じ! それと3は絶対除外だ!
・・・というか、いつの間にかもう深夜に差し掛かる時間になっていたので、今日は我慢して寝ることにしますか。
「お兄ちゃん? 早く寝ようよ」
「分かった、分かった。今行くから」
俺は本を閉じ書棚に戻し、妹と俺たちの部屋に向かった・・・
「それじゃ照明切るぞ」
「うん」
俺は照明を切って瞼を閉じる・・・
・・・・・
・・・・
・・・
眠れない・・・気分が高揚しすぎて全く眠気がこない。暗くぼんやりと映し出される天井を見つめる。まさかな・・・こんな単純なことに今まで気づかないなんて。横で静かに吐息を吐きながら眠りについている妹を見る。
「こいつのお陰かな」
今日、マリアの魔法を見なければ、気づかなかったかもしれない。改めて考えることもしなかっただろう。
「感謝だな」
まだ、理論上の空想であって実際に試してはいないが、確信めいた感はある。俺は少し微笑んでマリアの頭を起こさないよう優しく撫でた。
「う~ん」
急にマリアが寝返りを打ってきた。
『ドスッ』
「ぐはっ!!」
俺の方に寝返りを打ってきたマリアが豪快に俺のお腹を蹴り飛ばしてきた。
「うぅ・・・ゲボッ・・ふぅ、ふぅ」
一瞬息が止まったぞ。しかしこいつの寝相の悪さは、ちっとも治らんなぁ。ああ、痛ぇ・・・ほんと一緒に寝るのやだ。
早く、朝にならないかな。妹の寝相を直し、妹に背を向け瞼を閉じる事にした。
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