異世界転生編

1章 強者への道

第9話 胎動

 何かが聞こえる・・・まどろみの中で誰かの呼ぶ声がして、遠のいていた意識が戻る。緩やかに目を開けると20代くらいの若い男女が朗らかな笑顔で俺を見つめていた。転生先の両親だろうか? となれば、俺は生まれて間もないの赤子なのだろうな。何か言葉を発しようとも口が思うように動かない、身体も思うように動かせない。神様が言っていた通りだな。前世の記憶があっても物心つくまでは思い通りにはいかないと。


 どうやら、今は泣く事しかできないらしい。また、意識が朦朧としてきたので、なすがままに身をゆだねた・・・



 5年後――


 あれから5年か・・・無病息災で成長した俺は、今日も魔法制御の鍛錬をしていた。


「制御がこれほど難しいとはなぁ」


 俺が居住しているところはアルスガルド大陸の西側に広大な領土を持つ『エルシュタイト王国』内に点在する領地の1つ『フェイグラム』に住んでいる。その領主の嫡男として生まれた。

 領主と言っても王国から遠く離れた、農業が盛んな地方の町だ。父親の爵位は子爵。住民からの評判は良く、俺自身も町の商業区に赴いた時は結構挨拶される。貴族と言っても英才教育だのマナーとかもそれほど厳しくはないので、毎日魔法鍛錬に勤しんでいる。


「ぬん!」


 手を前に掲げ、壁をイメージして魔力を込める。だが・・・


「おわっ!」


 2階建ての家くらいの高さまでそびえ立つほどの魔力障壁を生み出していまい、おまけにジェルのように柔らかくとても役に立ちそうにない。


「これじゃだめだ・・・」


 膨大すぎる魔力量のおかげで制御が全くと言ってよいほどできていない。これほど難しいとは思わなかった。マテリアライズは問題なくできたが、その具現化した魔力の調整が恐ろしく難易度が高い。

 例えば、指先に炎を出すとしたら拳くらいの大きさが一般的らしい。だけど俺の場合は、同じ要領でやると大玉転がしで使われる球体くらいの大きさになる。これを縮小させるのが半端なく容易ではない。

 なので、狭い所や不意に魔法を行使すると大惨事になりかねない。魔法書で制御法の記述はあるが、巨大化したものを縮小化する方法は記されていなかった。だから自分でどうにかするしかない。


「根本的なやり方が違うのかな?」 


 そもそも最初から縮小して具現化すること自体、いまだ成功したこともないしな。


「あ~わかんない~」


 俺は大の字になって芝生に大胆に寝転ぶ。


「・・・・・・今日も良い天気だ」


 そういやこの間、妖精さんが近づいてきて触れてみようと人差し指を差し出したら、何か画面のようなものが出たな。あれ、何だったんだろう? もう一度やってみるか。空に向けて人差し指を掲げてみる。


『ブォン』


 スイッチが入ったような音がした。


「出た! え~と・・・これは俺のステータス画面じゃないか!」


 驚いた。さすがにこれはないだろうと思っていたけど実在するとは・・・ありがたい。



―――――――――――――――――――――――――


名前:レン・フェイグラム   年齢:5歳 男性

呼称:地方領主の嫡男 

魔力保有量 ∞      


レベル 10

HP    280/280

MP    640/800

TP    195/210

物理攻撃力 80

魔法攻撃力 600 暴発(48000)

物理防御力 52

魔法防御力 163

敏捷    31

技量    47

運     78


適正属性 

 剣 A  槍 —  斧 —  鎌 —  杖 S

 火 S  水 S  風 S  土 S  光 SS  闇 A

熟練度

 剣 E  槍 —  斧 —  鎌 —  杖 D 

 火 D  水 D  風 E  土 E  光 D  闇 E 

スキル

 Mシールド(E)MP20  エリアサーチ(D)TP10

ユニークスキル

 ステータスビジョンTP5

 Mバースト(SSS)MP640・HP224(MP全消費・HP80%消耗)

パッシブスキル

 ゼウスの加護  ??????


――――――――――――――――――――――――――


 

 う~む、基準がさっぱりだから良いのか悪いのか分からんな。ただ、MPが多いのと魔力暴発させた時の威力がずば抜けているのは理解した。数値でみると参考になる。暴発と言えば、あの時のこと思い出すな・・・ 


 そう・・・実は2歳の頃、この領地に突如危険度Aクラス相当の1匹の魔獣が襲来して危険に晒された。在中している王国騎士やギルドの冒険者も歯が立たず家屋や農作物も焼かれ、後ほど詳しく耳にした話では非常にまずい状態だったとのこと。住民は避難し町が燃え盛る中、ついに町の最奥にあるこの領地にもその魔獣が飛来し壁を突き破り俺たち家族を襲おうとした。


 その時、父親が身を挺して家族の盾になろうと前に出ようとした。さすがにこれはヤバいと思い、俺は抱きかかえられていた母親から藻掻き如何にか脱出し、急いで母親の場所からできるだけ離れた。すかさず大声で泣き叫んで魔獣の注意を引き付けた。案の定、魔獣は俺に反応し遠吠えを上げ攻撃しようとした。

 当時、ようやく歩けだし少し話せるようになった俺だったが、魔法なんてまだ使ったことはなかった。神様に念を押されていたからな。だが、その時はそんなこと言っている場合じゃなかった。躊躇していたら自分も家族も『死ぬ』と悟ったからだ。


 俺は、速やかに魔獣に向けて手を掲げ集中しマテリアライズした。掲げた手から徐々に魔力が集約していくかと思ったら、光り輝く超巨大な魔力の塊が一気に放出した。その時俺はあまりの大きさに唖然としたが、直後全身に衝撃が走り強烈な痛覚や虚脱感で意識が朦朧とし、維持するなんてとてもできそうになかった。なので、魔獣めがけてこの魔力の塊をぶっ放した。辺り一面、眩い光に覆われそこから俺の記憶はない。どうやら力を使い果たして倒れていたようだ。


 その後、息絶えたかと思われるくらい、ほとんど身動きもせず10日ほど目覚めなかったのこと。あまりの威力で魔獣は瞬殺、解き放たれた魔力の塊は魔獣を消滅させても衰えず、徒歩で3日はかかる山に衝突し大爆発したと聞いた。実際にその吹き飛んだ山の一部はそのままの形で残っている。

 それを見たうちの両親はあまりの衝撃でトラウマになり、それ以降俺に魔力を使わせようとしない。だから、今こうして鍛錬しているのも気が気でないとのこと。現に今、母親が少し大きめな木に潜んで目を離さず俺を見張っている。


「見つかってないと思っているんだろうな」


 エリアサーチでバレバレであることも知らずに。


 あとこれ、今見ている画面はユニークスキルに登録されてある。となると俺専用か・・・誰でも見れるわけじゃないんだな。他の人のを同じように見れるのか後で試してみよう。しかし、適正属性がすごいな。さすがチート能力だけはある。まだ全然活かせてないが・・・進展しない魔法制御に思い馳せ自分の胸に手を当てる。静かな鼓動とほのかに温かさを感じる。


「虹色のマテリアルシード・・・」


 この心臓の中にあるのだろうか?神様は魂に宿ると言ってたな。魂=心臓って訳でもないから、そういう事じゃないんだろうな。気にしても答えなんて出ないから、さらに画面の下に目を向ける。


「ん?このパッシブのゼウスの加護ってなんだ? ・・・つかどっちのゼウスよ」


 あの時、冗談半分? で自分はゼウスと口にしたあの神様の事なのか、それとも本物の最高神のゼウスの加護なのか? 前者だったら・・・ちょっと嫌だな。

 

 なんとなく画面のゼウスの加護に触れてみると、画面が切り替わり詳細が映し出された。


「変な加護じゃありませんように・・・え~と、なになに」


 状態異常、精神異常の耐性値+60%を付与。3日に1度だけ即死攻撃を無効化。神への信仰心が高いほど効果値は上昇する。


「使える加護、来ました! でも、信仰心? 祈ればいいのかな。それで効果値が上がるならお安い御用さ」


 ??????が気になるけど、そろそろ・・・


「母上、いつまでも隠れてないで出てきたら?」


 いい加減、ずっと見られてるのもこそばゆくなってきたから母親を呼び寄せる。


「あら~ 気づいていたのね~ レン」


 そう言って、のろりのろりと俺に近づいてくる。


 彼女の名はクレア・フェイグラム。母親で俺を溺愛し何かにつけて束縛しようとする。実年齢より若く見え、穏やかで包容力があり、さらに美人でスタイルも抜群ときた。前世の記憶がある分、母親と認知しがたく変に意識してしまうから、できるだけ近づきたくはない。


「レン、今日はもう終わり?」


「そうだね、母上が心配そうにずっと見ているから集中できないよ」


「だって~ またあんなことがあったらもう心配で心配で~ お母さん居てもたってもいられなくなるのよ~」


 そう言って、俺を抱きかかえて力いっぱい俺を抱きしめる。


 !? クレアさん、その大きなお胸で顔を埋められたら息ができなくなってしまわれるのですよ! と、俺は懸命に藻掻く。


「ん~ん~ 母上苦しい! 僕窒息しちゃうよ」


 ほんと、その無駄にダイナマイトなボディで『ムギュ!』はやめてくれ。俺のダイナマイトが着火してしまう。


「あら~ごめんなさい。レン、大丈夫~?」


「ぷは~ 死ぬかと思った。もう勘弁してよね」


 母親に抱き締め殺されかけて、ため息ついていると、後ろの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あ~ お兄ちゃん、またママとイチャイチャしてる!」


 誰がイチャイチャだ。窒息死されかけていたんだよ!

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