第12話 回避不可の招待状
あれから11年の歳月が流れた。俺は16歳になり、身なりは前世の頃と大して変わらない風貌になった。まあ、魂年齢は33歳なんだが。
とはいえ、現世の1年とこの世界の1年は結構周期が違う。日計算だとこの世界は255日で1年。現世みたくうるう年とかはない。1日は現世と大差ない感じはしている。時間の概念がないので感覚的にだが。だから、これまで違和感なく生活できていたのかもな。これが夜は4時間で昼が20時間とかだったら調子が狂う。
さておき、今日はギルドからの依頼で魔獣討伐の任に当たっている。対象は脅威度Bのブラッドベアー1体。数人パーティで討伐するのが定石だが、俺の場合は単独でも容易で討伐可能だ。
討伐対象生息付近に到達し、索敵魔法を使用する。
「エリアサーチ」
ここから北西約200
小さい頃から、この森はよく来ているので地理は把握している。
「いた」
気づかれないよう、木陰に隠れ様子を伺う。
「距離約30Mか。ここからの魔法攻撃は木や枝が邪魔して狙いが定まらないな・・・だったら丁度良い、今練習中のアレを試してみるか」
最近覚えたての超加速魔法を。
「気取られていないな。よし・・・アクセルバーストLv.4」
腰元に小さな球体の魔法を発動し、それに手を触れる。すると、その球体が小規模爆発を起こし、予め1方向に指定した爆風を利用し目的地までの超高速移動が可能になる。火と風を併用した魔法である。
ただ、1回では途中で減速し距離を詰められないから、スピードが減速する前に、もう1度同じ魔法を発動させる。
「もういっちょ」
前方に発動させた球体に触れる。加速したスピードを殺さず、
目前でブラッドベアーがこちらに気づく。が・・・
「遅い! アイシクルランサーLv3」
戦闘態勢に入られる前に、1本のつらら型の槍を具現化しブラッドベアーの心臓部を躊躇なく突き刺す。
「グァァァァァァァァ」
ブラッドベアーが断末魔の叫びを上げ、その後まもなく息絶えた。
「ふう・・・討伐完了。でも今のは及第点だな」
2回目のアクセルバーストの時、発動が若干遅れた。その少しの遅れで反応速度が極めて速い相手ならカウンターされる可能性も十分にある。一瞬の気も許されない、常に命懸けの戦いだ。
あのスピード域で完璧なタイミングの連続発動はそう簡単にはいかないか。
「まだまだ練度を上げなきゃだな」
魔法を難なく制御できるようになってから、ありとあらゆる魔法を行使できるようになった。毎日の鍛錬、近くの森や山に魔獣討伐の日々・・・おかげで町周辺に生息している魔獣では、よほどの数で囲まれない限り苦戦はしなくなった。
ギルドに討伐完了報告に出向いた後、屋敷に戻り玄関先で一息ついていると・・・
「レン、ちょっといいか?」
休憩中、玄関扉が開き父上が話しかけてきた。
「父上、何か用事ですか?」
俺の父親、ジオル・フェイグラム。フェイグラム領の当主であり民からも慕われている不正なこと嫌う誠実な人物だ。
「お前に相談というか頼み事があるのだが・・・」
なんか、歯切れが悪いな。嫌な予感がする。
「実は、お前が最近この地域の魔獣を無数に討伐しているのが、国王の耳に入ってしまってな」
「はい?」
目が点になった。何故だ? 俺の討伐はギルドで外部に漏れないよう厳重に管理していたはずなのに。
「どこで情報が漏れたのですか?」
「少し前に、王国騎士団が視察でこの町に来る途中、1人の青年がBクラス相当の魔獣を見たこともない強力な魔法で討伐していたのを偶然見ていたらしい。それが、人づたって国王にまで知られ、この町のギルドマスターが国王直々に召集され事実を確認したらしい」
「マジか・・・」
まさか、騎士団に見られているなんてな。周囲に気を配っていたつもりだが、魔獣に没頭しすぎてサーチに気づけなかったか。うかつだ・・・後で、ギルマスに会いに行って話を聞きに行こう。
「知られたものは仕方ないけど、それで国王様が何か言ってきたのでしょうか?」
「ああ、お前を是非にでも王国に招待したいということだ」
「なん・・だっ・・・てえええ」
棒読み。
「招待って、勲章を授与するとか?」
「いや、そうではなくて王国に設立している王立ソルシエール学院に入学してもらいたいと申し出てきている」
『ガタッ』
うん? 玄関扉の方で何か物音がしたが、今はそれどころではない。
「ソルシエールって王国一の魔導士養成学院じゃないですか。そこに私がですか・・・」
王立ソルシエール学院とは、種族を問わず魔法の素質があり、特に優れている人が入学できるエリート中のエリート。卒業後は宮廷魔導士や司祭。冒険者の魔法師としても重宝される。
でも確か、この世界って魔法の素質は女子が多く、フィジカルやテクニカルの素質は男子が多いと聞いている。
女子ばかりじゃないのか? ちょっと不安。
しかし、学院生活は異世界ものあるあるの1つだが、俺自身はあまり興味がないんだけどな。どちらかというと王国周辺にいる魔獣討伐に明け暮れたい。それに、言っては悪いけど学院レベルじゃ俺にとってお遊戯みたいなものだからなぁ。
「それって拒否権は?」
「ない!」
はい! 即答頂きました!
「・・・・・ふう、父上のお立場もあるでしょうし、仕方ないですね」
「すまんな。物分かりが早くて助かるよ」
う~ん、せっかく王国に行くなら、やっぱり王国周辺のダンジョンや魔獣生息地域が気になるな・・・
「父上、1つお願いがあるのですが」
「なんだ? お前の意思を無視して行ってもらうのだから、できる限りの事はするぞ」
「この町のギルドのように、王国のギルドマスターに口添えお願いできますか?」
「・・・お前の事だから言うと思ったぞ。それだけで良いのか?」
「はい」
「そのくらいら問題ない。ここと同じように取り計らおう」
「ありがとうございます」
「ただし、やりすぎてはいかんぞ」
おぅぅ、釘刺された。
「はい・・・できるだけ自重します」
とりあえず、OKかな。
「ああ、もう1つお願いがありました」
「ん? なにかね」
「学院にはフィ・・・」
願い事を言う時だった。
突然、扉が大きな音を立てて開かれた。
「ちょっと待って、お父様!」
マリアだ。
また、余計なことを言わないだろうなあ・・・
「どうしたマリア・・・何かあったのか?」
「何かあったのか? じゃ、ありませんわ! その学院に私も行きますわ!」
言ったわぁ・・・言わなくていいのに言ったわ~
「いや、マリアよ、その学院は16歳からじゃないと入学できないのだよ」
「それなら飛び級ですわ! 私の実力なら可能かと思いますが」
「いや~ その・・しかしだなぁ・・・」
困惑する父上。まあ気持ちは分かる。
「おい、マリア。お前、どうして学院に行きたいんだ?」
「ふん! そんなの決まっているわ! 兄さんを監視するためよ」
はぁぁぁ? 監視ぃ・・・何を言い出すんだ。俺が何か悪いことでもしてるっていうのか。
「どうせ連れて行くんでしょ。フィオを」
・・・・・・正解です。マリアさん、それを今父上にお願いしようと思っていたところだよ。
「ああ、父上が了承してもらえたらな」
「フィオをか・・・う~む、ジュナに聞いてみないとな」
なんだ? 何か都合が悪いことでもあるのか?
ちなみに、フィオとジュナというのは、5年前にメイドとして雇い入れた親子だ。当時、経緯に何かあったみたいだが詳しいことは聞いていない。フィオは俺と同い年だ。
どうやらマリアはフィオを連れて行くのを気に入らないらしい。1人だけ置いて行かれるのが嫌なのか?
「最近の兄さんはフィオと事あるごとにイチャついてばかり。2人だけで王国に行ったら・・・もう想像がつくわ!」
一体、どんな想像しているのか・・・はぁ。
「おい、まて聞き捨てならんぞ。フィオは俺のお世話係で何かと面倒を見てもらっているから、連れて行けば色々と助かると思ってのことだぞ」
「私もフィオにお世話されているけどね。兄さんと私じゃ全然対応が違うのよ。そうよねぇ、フィオ」
「えっ、あ・・あの・・・・」
いつの間にか玄関の陰に潜んでこちらの様子を伺っていた、フィオが慌てふためいて現れる。その後にジュナさんも出てきた。
ジュナさんが、父上の前で姿勢を整え直立する。
「ご主人様。フィオをどうかレン様とご同行させてくださいませ」
「構わないのか?」
「はい。レン様のそばにいる方が安全だと判断いたしました」
そう言って、父上に頭を下げるジュナさんだった。
安全? どういうことだ?
「おっ、お母さま・・・」
「フィオいいわね。しっかりとレン様にお仕えするのよ」
「は・・はい、分かりました。お母さま」
「なら、私も同行確定ね」
「お・・おい、マリア。私はまだ許可は出しておらぬぞ」
頑張れ! 父!
「お・と・う・さ・ま」
マリアは父上を呼びあげ、真剣な表情で無言の圧力をかけた。
「・・・分かった。分かったよ、マリア。お前もレンと行ってくるがいい」
父、あえなく敗北。
「ありがとう、お父様」
破顔一笑の表情で感謝を示すマリア。
ふう・・・これからどうなることやら。
まぁ、王国は人口も多いし転生者の情報を何か掴めるかもしれないから、行くこと自体は悪くはないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます