第3話 腐れ縁vs妹

 朝の登校。今日はいついかなる時も俺の隣で不動のポジションをとっている妹の姿はない。品行方正?である我が妹は主席入学であり、早々に生徒会役員に抜擢され今は生徒会長である。そんな彼女は本日生徒会の用事で先に登校している。


「ふぁぁぁぁ」

 朝早くたたき起こされて、一緒に来てとさんざん駄々こねてきたのだが、それを拒否すると泣くわ喚くわで寝起き早々MPカスッカスにされたので、もう一回寝たい気分だ。


「はよ~蓮」

 突如背後から声がかかる。友人の『風間 蒼汰』だった。幼少のころからの付き合いなので、幼馴染というか腐れ縁と言った方がはやい。


「珍しいな。一人か」

「ああ、おはよう蒼汰。凛は生徒会の用事で先に行ったよ」

「それで、1人なのにアンニュイな気分だったんだな」

 さすが、察しの良い腐れ縁である。長年付き合っていると顔色一つで状況が分かるというものだ。


「妹がいなくて寂しくて恋しくて、いてもたってもいられなく・・・でも会いに言ったら周りに、あぁやっぱりか! と言われたくないから我慢してアンニュイな気分になっているんだよな。さすがシスコン兄貴! かがみだわ」

 っと、ニタニタしながらもの言う蒼汰。


「断じて違う!」

 一瞬でもやつを誉めたことを猛烈に後悔した。

  【腐れ縁度-2】


「まあ、そう怒るなって、冗談だよ。本当は一緒に行こうって駄々こねられたんだろ?」

 なんだ分かっているじゃないか腐れ縁よ。先ほどの怒りはどこぞ彼方に消えた。

  【腐れ縁度+2】


「まあな。朝5時に起こされた。拒否したらそこからもう泣くわ喚くわで大変だったよ」

「相変わらず凛ちゃんはぶっ飛んでるなぁ」

「これも兄の宿命だな。というか、こんなに妹に愛されているんだから、もっと感謝すべきだと思うぞ」

 それを聞いた俺は、『はぁ』とため息をつきながら応えた


「あのな蒼汰・・・これが毎日続くと、感謝という言葉が恐怖にすり替わるのだよ!」

 過去の出来事を鮮明に思い出し、若干身震いする。


「お前には彼女いるんだから、もし俺がされていることを毎日されたらどう思うよ?感謝できるか?」

「・・・・・ひくわー」

「だろ」

「でも、まぁ、何だかんだでお前は凛ちゃんのことを優先するよな」

「なん・・・だと」

 俺が凛のことを優先している?何をバカなことを言うんだと思った。


「なんだ、気づいてないのか? まぁ、気づいてないならいいや」

 本当にそうなのか?いろいろ深く考え込むが、その答えは今出ることはなかった。


 そんな、友人同士のありふれた会話を弾ませながら校門に差し掛かった時、門の隅から声が聞こえた。


「あっ、お兄様」

 俺はすぐに気づき凛に声をかけようとしたが、蒼汰は凛の存在に気づかず間髪入れずにおれに話しかけてきた。


「やっぱ、蓮に彼女がいないから悪いんだよ」

「!!!!!!!!!」

 俺は驚愕した。


「!!!!!!!!!」

 凛も驚愕し怒りをあらわにした。


 なんということか、蒼汰は凛の前で絶対に言ってはいけないパワーワードをぶっこんできた。


「おっ、おい、バカ蒼汰!」

 これは非常にマズいと感じ蒼汰に口封じをしようと、とっさに蒼汰の口を手で塞ごうとしたが、その寸前でよりにもよってかわす蒼汰。


「ちょっ、いきなりなにすんだよ」

 何かおかしなことを言ったか?そう怪訝な表情でうったえてきた。ブンブンと顔を大げさに振る。言葉にしたいが、俺の左後ろにピタリとついている妹の怒り狂ったオーラのおかげで言葉を発せない。

 蒼汰も気づきそうなものなのだが、どうも兄である俺にしか感じ取れないヤバい気配を出している妹・凛。これも暴走した特殊能力の一環なのだろうか?末恐ろしい妹である。


「とにかく、一度つくってみろよ。絶対に世界が変わるから。なんなら水奈経由で紹介してやろうか?」

 水奈とは蒼汰の彼女である。


 冷や汗をかきながら俺は必死に首を『ブンブン』と横に振り続ける。だが、なにやら俺の様子が少しおかしいと感じ取った蒼汰は、変に勘ぐりさらに妹が怒り狂うワードをさらにぶっこんでくる。


「なんだお前、さっきから顔色悪いけど、まさか妹にビビっているとかじゃないだろうな?」


『今、まさに、その妹が俺の左斜め後ろにいることに気づけよ! バカ蒼汰!』

 と。心の中で叫んでいた。


「あ・・・う・・・・」

 妹の強烈なプレッシャーで思うように声が出せない。


「まあいいや、とにかく一度、水奈に聞いてみる」

 蒼汰はスマホに手をかけた。


「!!!!!!!」

 あぁ、もう手遅れだな。


 俺はもう観念したその時、背後からおぞましいものがうごめいた。


『ガシッ!』

 蒼汰の肩に何か力強いものが『メリッ…メリッ』とえぐり込んできた。


「アガッ! っつぅ、いてぇなおい」

 とっさに後ろに振り向く蒼汰。だが、その時蒼汰には何か黒めいたものが動いているようにしか見えなかった。しかし、その溢れ出す黒いオーラが淀んでかすかにしか見えなかった影がはっきりと視認できた瞬間、蒼汰の顔面がみるみる青ざめていく。


「お~は~よ~ございますぅぅぅぅ、そ・う・た・さ・ま」

 おぞましいオーラが漂う黒い影から、満面な笑みで蒼汰に話しかける凛。


「!!!!!!!」

「あっ、あれぇ、凛さんじゃないですか~ ご機嫌麗しゅう」

 なぜ、貴族口調だ。蒼汰よ。 


「いつから、そこにいらっしゃったのでしょうか?」

 ぶるぶると震えだす蒼汰。

「うふふふ~ あ・な・た・が~ やっぱ蓮に彼女がいないのか悪いんだよ。のところからですわ!!」

 ニコニコと穏やかに話していた凛が言葉進むにつれ鬼の形相になっていくさまと、ただでさえ大きな黒いオーラが大気圏をも突破しそうな勢いで天高々に一気にあふれ出していた。


「キシャァァァァァァ」

 凛に鬼武者が降臨した。


「ぬわぁぁぁぁ、殺されるぅぅぅ」

 身の危険を感じ、半泣きでガクガク震え身震いしながらも俺を置き去りにしとっさに逃げる蒼汰は、とても情けなかった。もしパーティ組むならあいつとは絶対に組むべきではないと異世界妄想に浸っていた。絶対に勝てない相手だと分かったとき、一目散に逃げるからだ。


「蒼汰ぁぁ!待つのじゃぁああ!!」

 凛は逃げる蒼汰をすかさず追いかけた。


『いや、凛さんほんと何者? 言葉使いまでおかしくなっているよ』

 俺は、唖然としてしまう。


「兄者を誘惑する不埒な蛮族は万死に値する!!」

 鬼の形相で大声で叫びながら追いかける妹に対して俺は


「仮にも生徒会長なんだから、節度をわきまえて品のある行動をしてもらいたいな」

 身の危険が去り安心しきった俺は、冷静に妹を酷評した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ・・・」

 蒼汰の断末魔の雄叫びが聴こえてきた。


 その後、教室に向かった俺は通常モードに戻った凛に、純度100%のとばっちり説教をくらったのはいうまでもなかった。

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