第4話 文芸部の先輩
放課後・・・
授業も終わり部活や帰宅、みなそれぞれ自分の目的に向けて教室から散開していった。帰宅部の俺は帰ることもせず、ただ1人教室の窓から見える校庭で部活に勤しんでいる生徒たちを眺め物思いにふけていた。
帰りたくても凛の生徒会の業務が終わらない限り帰ることはできない。そう、下校は必ず一緒に帰宅することになっている。これを破ると人生が終わりかねないことが起こりうるので絶対にしない。
今日は特に生徒会の業務が長引くとのこと。なんでも文化祭が近づいているので、その内容を数日中にまとめなくてはいけないらしい。まだまだ時間はあるので、読みかけていたお気に入りの小説でも見ようかとカバンに手をさしかけたとき、不意にポケットに入れてあるスマホが鳴り響いた。
「ん? リアンか」
リアンとはメッセージツールで、今は誰もが使用しているアプリ。カバンから手を放しスマホ取り出し確認する。
「真由羅先輩からだ」
【高宮 真由羅】 3年生で容姿はスクエア型の眼鏡を着用し、少し大きめの高めに結んであるシニヨンヘアーな髪型。スタイルも抜群で色気漂うかなり美人な先輩。性格は後輩を弄ぶお姉さま的な感があり、蓮もよく弄ばれている。
文芸部の部長なのだが、主体としているのは一般的な文化ではなくアニメ・漫画主体の文化に興じている。もともとは普通の文芸部だったのだが、この高宮真由羅が大のアニメオタクであり3年生が引退した時、高宮1人になったのをきっかけにあろうことか部自体を魔改造してしまったのである。
そして現在も在籍1名のままで好き放題やっている。だが、1名では部として存続できないので実質はアニメ・漫画研究会と登録されているが、表記だけは文芸部としたままになっている。本来ならば表記だけでもダメなのだが、真由羅がゴリ押しして今に至る。その経緯は現生徒会長の凛が大いに絡んでおり、当時はかなり揉めたという話だ。
なので、凛と真由羅は非常に仲が悪いというか、凛が唯一勝てない相手で一方的に嫌っている。いわゆる天敵だ。顔を合わす度に口喧嘩が絶えない。真由羅が凛を挑発し、凛が怒りそれを真由羅が軽くあしらうという構図。
その真由羅先輩と俺の関係はというと、本来俺は自分の趣味を誰にも言わず隠していたのだが、偶然彼女とぶつかり偶然持ち歩いていたお気に入りの小説本が床に落ちて発見されバレたというベタな話である。俺が1年生時の冬の出来事。
「ん~と、内容はと」
『やあ、蓮君、こんにちは。まだ帰宅してないなら久しぶりに部室に来ないかい?良いものを手に入れたんだよ。』
それを見て普通に高揚した。良いもの?真由羅先輩の良いものにはハズレがない。これは何があっても行かなくては。と気分高々に返信を返す。
『こんにちは、真由羅先輩。まだ校内にいます。すぐにでもお邪魔します!』
返信すると、すぐに既読がつきさらに返答が来る。
『良かった。待っているよ!』
早速、お邪魔することにし、やや勇み足で部室に向かう。
・・・コンコン、軽く扉をノックする。
「はい、どうぞ~」
扉を開け、挨拶する。
「お邪魔します。真由羅先輩こんにちは」
「うん、こんにちは」
「それで早速ですが先輩。良いものを入手した物とはいったいなんですか?」
早く知りたいので、やや興奮気味に催促してしまう。
「んふ~、えらく気が早いじゃないか。そんなに楽しみなのかい?」
少しニヤついた先輩を見て、一瞬嫌な予感はしたがスルーして即座に返事する。
「そりゃもちろん! 先輩にハズレはないですから!」
息巻く俺。
「ん~どうしようかな~」
「もったいつけないでくださいよ」
ニヤリと微笑む真由羅
「じゃぁ、蓮君が~ 私に身も心もあつ~くなれる口づけをしてくれたら見せてあ・げ・る♪」
突然、とんでもないこと口走った真由羅にあっけに取られたが、冷静に今の言葉を思い返すと、みるみる顔が赤面していった。
「ちょ・・・先輩、突然何を・・・言い出すんですか?」
身体は硬直し、真っ赤に頬が染めあがった俺は少々錯乱してしまっていた。
「あら? 私、何かおかしなこと言ったかしら?」
淡々と、少しいやらしい微笑みを向けながら言葉返す真由羅。
「どうしたの? 蓮く~ん? 押し黙ってぇ・・・そんなに私に口づけするのが嫌なの?」
話しながら、ゆっくりと蓮に近づく真由羅。
「嫌と、いうわけじゃないですけど・・・」
真由羅のなまめかしい雰囲気に押され、後ずさる。
「ないですけど?」
更に詰め寄る真由羅。その2人の距離5cm。
更に下がろうとするが、すでに扉付近まで下がっていたのでこれ以上逃げられない。
「・・つっ・・・その・・・」
この時、俺は錯乱しながらも頭をフル回転させ、どう対処するか必死に考えた。
『いったい何を考えているんだ? またいつものおふざけで俺をからかっているに違いない。でも、いつもより何かが違う感じがする。ニヤニヤしながらも少し顔が赤くなっているような? だが仮にだ。このまま拒否して期待値の高い良い物を見られないのは自分としては最悪解だ! じゃあキスするのか? もしキスして例の物が見れたとしても、これがもし凛にバレたらどうする? いやまて、どうしてここで凛が出てくる? そんなに妹が怖いのか? いや怖いけど、今はそれを考えるべきではない。しかし、近づいて先輩の顔を見るとやっぱりキレイだな。この止まらないドキドキの8割はこの整った美しい顔に違いない。罪づくりな先輩め! 本当にキスしていいのか? 先輩はどう思っている? きっとできないと考えているに違いない。だったら意趣返ししてでもキスするべきだ! 男を見せろ蓮! 好きでもないのにキスするのはいけないことだが、俺は真由羅先輩のことは嫌いじゃない。むしろ好き寄りの好きだ! よし決めた! GO!』
この間、僅か0.5秒。さすが学年次席、頭の回転は驚異的なスピードである。
「本当に良いんですね?」
「えっ?」
『ガシッ!』
返答も待たずに、俺は両手で先輩の肩をつかむ。
「!?」
真由羅は不意に肩をつかまれ動揺する。
「先輩…」
「ちょっと、蓮君」
ビクつきながらもほのかに先輩の頬が赤く染めてきて、ちょっと照れている気がする。まんざらでもない様子。
『イケるっ!』
そう感じた俺はゆっくりと、やや震えながらも真由羅の顔に近づけ目をつむる。真由羅も顔を赤らめ蓮の腰に両腕を絡め目をつむる。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
口と口が触れ合う、あと数ミリという時に
『ブルルル、ブルルル…』
静寂な密室で突如スマホのバイブ音が鳴り響く。二人は驚き目を開いてしまい見つめあう。
「着信来てるよ蓮君」
「ああ、そうみたい…」
若干震えている手でスマホを取り出す。液晶ディスプレイを確認すると、これまでの高ぶった感情が突如、氷点下50℃の世界に放り込まれた気分に陥った。
「凛からだ」
「あら」
しかたなく着信に応答する。
「もしもし」
「あっ、お兄様。電話の応対が遅かったですけど、今どこに居ますか?教室に向かったらいなかったので探しています」
「えっ? 今は…その…申し上げにくいといいますか」
マズいと思った。文芸部に居るとは決して言えない。言えば地獄確定だ。
「お兄様、なにやら歯切れが悪いですね。いったい何をしているのですか?」
少々イラついているようだ。
どう返答しようと悩んでいると
「蓮君は~今文芸部にいるよ~ん、凛ちゃん♪」
「なぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何を口走っているんだあんたは。と驚愕した表情でうったえる。
「!!!!! その声は高宮真由羅!」
『ブチッ』
即座に通話がきれた。ついでに、凛の頭もキレた音がした気がする。
マズい!ものすごい勢いでここに乗り込んでくるに違いない。
『逃げなければ・・・』
すでに脳内でエマージェンシーコールが鳴り響いている。俺はすぐさま扉に手をかけようとした。
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