第2話 どうしても長旅になる 京都から高知へ

 葉山はやまは急いで京都駅に向かった。京都駅には何度も来たことがあり、駅の構内には慣れていた。少しの時間で、サンドイッチと紙パックのコーヒーを買って新幹線に乗る。席についてやっと一息つく。

 何とか今日中に高知までは帰りたいと思った。そして何より疲れていた『岡山駅まで眠りたい……』スマホのアラームをかけて眠る。動き出す新幹線、見慣れた京都の風景が過ぎ去っていく、 「Welcome to the Shinkansen……」と、いつもの車内放送を聴きながら眠ってしまった。


 峰岸葉山みねぎしはやまは高知県土佐清水市というところに住んでいた。そこは高知の南西部の漁業と観光の町。高知の南端、四国の南端であり足摺岬あしずりみさきがある。海と山、自然に恵まれた穏やかな町。


 葉山はやまは小さい頃から不思議な女の子として、近所の人たちから珍しがられたり、気味悪がられたりしていた。彼女には何か人には見えないものが見えているらしい。

 それに気が付いた祖父母は家の近くの神社の知り合いなどに言ってみたが、神社の人も、「そういうのは専門じゃないから……」とやさしく断られた。 

 そのうち噂が拡がったのか、県内外のいろいろな人から、「何か悪いものにかれているかもしれないので見てほしい」などと依頼があったり、「私のところへ弟子入りを……」などと似非えせ霊媒師れいばいしのような人が声をかけてきた。祖父母もこれには、おかしな人たちの格好の餌食になってしまうと思い、彼女のことを周りに言わなくなった。


 中学、高校と高知市内の学校に通い、大学は東京の大学に行った。大学では民俗学などを専攻し、いろいろな地方の文化風習などを学んだ。国内だけでなく海外の伝承や文化なども学び、その方面でかなりの知識を習得した。

 大学を卒業してから少しの間、都内の会社で働いたが何か合わないと感じ、高知に帰ってきて、小さい頃から育てられ祖父母の家の近くにあった神社でいろいろな手伝いをしながら生活していた。

 小さな頃から霊的なものの話に触れることが多く、彼女自身も体験してきたこともあり、学生時代も含め、その世界で有名な師匠のもとで数年間修行をした経験もある。そういうわけで『邪悪なもの』や、『よくないもの』をはらう作法は身に着けていた。

 その後も人々の間で『何かにかれた』ときは彼女がはらってくれる……という噂がついて回り、そんな用事でいろいろなところに呼ばれることがあった。

 そんなとき彼女はインチキ霊媒師れいばいしのように「〇〇がいてます」などと適当なことを言って、いい加減な除霊をするようなことはなく。そこはきちんとはらい。いたものを取り去った。


 岡山で高知に向かう列車『南風なんぷう』に乗り換える。高知市内に着いたのは夜の十時頃だった。

 葉山には高知市内に住んでいる二つ年上の兄がいる。数年前に結婚した奥さんと一緒に喫茶店『峰岸』を営んでいた。

 義理の姉にあたる香保子かほことは仲がいいばかりでなく、香保子が葉山の師匠の一人だった。

 その日は夜遅くなったこともあり、いきなり兄夫婦の家に押し掛けるのも迷惑だろうと思ったし、葉山自身も気をつかうので、市内のホテルで一泊することにした。

 次の日、土佐清水に着いたのは昼過ぎだった。見慣れた風景を見て、やっと日常を取り戻したような気がした。


 いつものように神社の前の掃除をする。『今日は穏やかな一日になりますように……』そんなことを思いながら拝殿はいでんに手を合わせた。

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