黒田郡探偵事務所

KKモントレイユ

第1話 降臨

 そこは、この世とは思えないような空気に取り巻かれていた。部屋の四方、天井に無数のお札が貼ってあり、その部屋の東西南北と表鬼門おもてきもん裏鬼門うらきもんには盛り塩が置いてある。

 部屋の真ん中では一人の女性が苦しそうにうなされている。そして、その周りには霊媒師れいばいしと呼ばれる人が何人か呼ばれていたが、何が起こっているのかわからず、ただその場でおろおろするばかりだった。部屋中のお札というお札がバラバラと音を立てて激しくはためく。盛り塩もそこら中にばらかれたように散っている。


『貴様が葉山はやまというものか』

空気に響き渡るように、あるいは地の底から響いてくるように、どこからともなく、得体えたいのしれないものの声が聞こえてくる。


「何者! この者に取りいている邪悪なものと聞いて来たが、悪霊や物の怪もののけたぐいではないな」

態勢を整え、もう一度、九字くじを切る構えを取る。


『面白い。面白い。もっと強くなって再び私の前に現れるがよい。その時は仲間と共にな……』


「……神族かみぞくのものか?」


『この者には悪かったが、お前を試させてもらった……』


 まるでけむりが消えるように……そのどこからともなく響いていた声は消えていった。


 部屋のざわめきが消えた。はためいていたお札は静かになり、部屋に立ち込めていた異様な空気も落ち着いたのがわかった。

 部屋の真ん中でうなされていた女性は、まるで何事もなかったかのように目を覚ました。

 先程までこの部屋に立ち込めていた何者かと対峙たいじしていた葉山はやまは乱れた髪を整え女性の方に振り返った。

「大丈夫ですか?」

女性は何が起こっていたのかわからず、下を向き首を振る。

「わからない。何が起こっていたんですか?」

部屋の状況、その異常さに驚き、両手で顔を覆って泣き出した。

「もう大丈夫ですよ。もう何も起こりませんから」

葉山はやまは女性をやさしく抱きしめるようにして言う。


しばらくして、女性も少し落ち着いて来た、震えていた体がゆっくり落ち着きを取り戻した。

 葉山はやまは女性を抱きしめようとしたとき、自分の手の中で水晶がくだけているのに気が付いた。

『神族か……』

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