第3話 目の前に広がる美しい海岸

 大学三年生の川村優一かわむらゆういちは一人旅行が好きだった。よく夏休みを利用してバックパッカーのように、ほとんど荷物は持たず、一人で好きなところへ、好きな時に行く。そんな旅行をするのが趣味だった。行き先は観光地とか名所といったところばかりでなく、何処どこということのない場所にふらっと行くことも多かった。

 結構、遠出とおでをするうえ、公共の交通機関がないようなところへも行くので、自家用車で移動することが多かった。

 都内の大学に通ってはいるが、授業よりアルバイトという感じで、授業には、とりあえず出席しているが何を勉強しているか自分でもよくわかっていないような状態だった。アルバイトで貯めたお金はほとんど旅行に使っていた。

 

 高知出身の優一は毎年夏には帰省していたが、今年の夏はいつもと違っていた。大学の同級生で、同じ高知出身の山野やまのさやかに「みんな、一度おいでよ」とずっと誘われていたのと、一緒に遊ぶことが多い隆一りゅういち厚子あつこも「行ってみたい」と言い出したことで、「三人でさやかの実家に遊びに行こう」ということになった。

 そして、「行こう」はいいが、何と東京から高知まで優一の車で行くことになった。さやかの地元に行って、『足』がないと不便だということから、乗り物があった方がいいということになり、優一の車で行こうということになったのだ。

 さやかも帰省を兼ねて優一の車に乗って帰りたいと言い、皆もその方が楽しい旅になると思った。他の三人は車を持っていなかったが、一応、四人とも免許は持っているということで運転は変わりながらの車旅となった。

 距離も長く、四人の車旅はかなりきつかったが楽しい旅行になった。


 さやかの実家は高知県の土佐清水市。独特の地形が織り成す海岸が広がる、『竜串海岸』、『見残し海岸』、『足摺岬』・・・ほかにも、この地域だけで美しい場所がたくさんある。観光地としても有名であり、旅行好きな優一も以前から一度は行ってみたいと思っていた。


 長旅の末、土佐清水市まで辿り着いた。さやかの実家まで、あと少しというところに『大岐の浜』という海岸があった。

 その海岸が目の前に広がると、全員から、

「おおーー! なにこれ?」

と歓声が上がった。

 森のような道を数キロ走った後、森の中の景色から、いきなり目の前に真っ白い砂浜の海岸が弧を描くように広がる。弧を描く白い砂浜のもとには防風林なのだろうか緑の林が砂浜を囲むように弧を描く。海の青、弧を描く砂浜の白、それを囲むように林の緑・・・青、白、緑のコントラストがまるで絵に描いた景色のように美しい。

 森の中をずっと走ってきた後、いきなり目の前に現れる光景としてはインパクトが強すぎる。


「すごく景色のきれいなところだな」

車を停めて四人はスマホで写真を撮る。ここまでの車旅でいろいろなところで写真を撮ってきたが、ここは絶景だと、皆、思い思いに写真を撮った。

 隆一が駐車場の端の方で、

「このブロック塀からジャンプしてポーズ取るから撮ってくれ」

という。

 その駐車場の周りは、それほど高くないブロック塀で囲まれていた。旅行者が置いたのだろうか、塀の上に何か所か石を積んであった。隆一は、その石が崩れるのも構わず塀の上に立ちジャンプした。

厚子が笑いながら、

「子供みたい」

と言う。

そんな隆一を見ながら、『らしいな』と誰もが思い写真を撮った。


 そこから少し車を走らせ市の中心地まで、この辺りは漁師町で魚がおいしいところだという。さやかの実家は市の中心地から少し西に離れたところだった。この辺りも海が近く、後ろには山がそびえる、自然豊かで長閑のどかな場所だった。

 今日は地元で有名な花火大会があるという、ちょうどそれも見れるタイミングで帰省できたので一緒に見に行こうということになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る