第4話 ここは探偵事務所でございます

 さやかの実家に着いた優一達は、さやかの両親たちに出迎えられた。気さくな感じの両親で優一達が来たことをとても歓迎してくれた。さやかには高校に通う、さゆみという妹がいた。さゆみは高校二年生で普段は高知市内の高校に通っているという、市内で下宿をしているそうだが、今は夏休みで帰ってきているということだった。

 さやかが帰ってくると、さゆみも玄関まで出てきた。仲のいい姉妹だと思った。さやかをそのまま高校生にしたような感じだが、色白のさやかに対して、日焼けした感じが、さやかより活発な印象を与えた。


 今日はちょうど花火大会もあり普段より人出が多いのだという。「せっかくなので花火大会を見に行ったら……」と、さやかの両親からも勧められ、夕方から四人で行くことにした。

 花火大会は大規模なもので、近隣の人だけでなく、遠方から泊り掛けでくる人もいるという。また、そういう人の中に毎年ここを訪れている人もたくさんいるらしかった。予定外の大きいイベントとタイミングが合い、本当にラッキーなことだと四人は大満足だった。

 その晩は町においしいことで有名な店があると紹介され行ってみた。なるほど地元の人が紹介するだけあって、いろいろな料理が本当においしい。この辺りはその店ばかりでなく、どの店に行ってもかなりレベルが高いということだった。

 夜、さやかの家に帰ってきたとき、隆一が「少し熱っぽい」と言い心配したが、その日は疲れていたので皆それぞれ倒れ込むように寝てしまった。


 次の朝、優一は早く目が覚め、その辺りを少し散歩したいと思った。台所の前を通ると、さやかも起きていて、母親と一緒に朝食の準備をしていたようだ。「この辺は、なにもないとこだけど空気はおいしいとこだよ」と言われた。「朝食までに帰ってきてね」と言われ、少しだけ散歩することにした。


 さやかの家の近く数軒は、普通の民家が並んでいたが、少し歩いたところに、きれいな神社があった。蝉の鳴き声、それ以外何も聞こえない。

『きれいな神社だな』と思った。

 その隣の建物の前で掃除をしている女性がいた。

何かこの辺りには似つかわしくない気品のある女性。三十歳くらいだろうか、長い黒髪は前髪をそろえ、肌は透き通るように白い、この暑い夏に黒い服に黒いスカート、黒づくめの服装……

『なんてきれいな女性だろう……』

と思ったが、『服は黒いが、こんなところで夜見たら幽霊だと思うな……』とも思った。

女性は優一の方は見ず下を向いて、ほうきで掃除を続ける。


優一は、もう一度、その建物を見た。何やら看板のようなものがある。


『黒田郡探偵事務所』


……なんだろう? こんな場所に探偵事務所なんてあるのか?


「くろたぐんたんていじむしょ?」

たどたどしく読む優一。


「くろだごおりたんていじむしょ」

女性は下を向いて、掃除をしながら言う。


「え? あ……こんにちは。くろだごおり? ……地名ですか?」


女性は顔を上げ、チラッと優一を見て、またほうきで道をき始めた。


「人の名前じゃない?」


『じゃない? ……って、あんまり人の名前っぽくないけど』と優一は思いながら、

「この辺は長閑のどかでいいところですね?」

と言うと、女性は、もう一度、優一を見て少し微笑んでくれたように見えた。ドキッとするほど美しい女性だった。

「どちらから?」

「東京から来ました」

「ふうん。それはまた、随分遠くから……」


「ここは何なんですか?」

と聞く優一に、

女性は微笑みながら応えた。


「ここは探偵事務所でございます」

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