第147話俺の妹がこんなに……1

 ナダルさんとの会談の後、東京観光後の車中で、俺は突然の体調不良に見舞われてしまった。

 高熱の症状を何倍も怠くしたようなソレは、今考えれば完全に “レベルアップ・・・・・・” 症状だったのだが、俺も立花さんも二日間にわたる過密すぎる連戦で、心身が疲弊しただけだと思っていたのだが……ふとステータスを開示してみればレベル表記が昇華中となっていた。



――――――――――――――――――


加藤光太郎 

Lv.2(昇華中)

 力:SS(SSS)→ ?

耐久:SS(SSS)→ ?

技巧:SSSS(SSS)→ ?

敏捷:SS(SS)→ ?

魔力:SSS(S)→ ?

幸運:H(H)→ ?


《魔法》

皇武神の加護ディバイン・ブレス

・『無南八幡大菩薩』

・詠唱する事で金属に『鏖殺おうさつ』の特権を与える。

・『性質の強化』と、呪いカースに分類される頭を割るような激痛を相手に与える。


神便鬼毒酒じんぺんきどくしゅ

『薬師如来、阿弥陀如来、大日如来よ。人食いの大妖も惑わす神仏の美酒を与え給へ』

・『鬼種』特効。『竜蛇』効果増大。『蟲』効果上昇。

・一定領域内のステータスを低下・減衰させる。

・また魔法を弱める。


《スキル》 

【禍転じて福と為す】

・障碍を打ち破った場合。相応の報酬が与えられ、獲得する経験が上昇する。

・障碍が与えられる。また全てのモンスターの戦闘能力が上昇する。

・モンスターの落とすアイテムの質が良くなる。またステータス幸運を表示する。


集中コンセイトレイト

・力を溜め、全ての次の行動を上昇させる。


――――――――――――――――――




「『技巧』SSSSってなんだよ……『魂を救済するための特別な名前』とか? っていかんいかん。これじゃネタになってるだけだし……」



 『技巧』や『魔力』なんかは、自己流で魔力纏いアムドを発動させたり、テクニカルな戦いをしていたので凄まじい上昇を遂げている。

 反面、『力』や『耐久』、『敏捷』なんかはレベル1からレベル2の時に比べれば伸びていない。これは大会中にあまり攻撃を喰らわなかったことに加えて、付与魔法【皇武神の加護ディバイン・ブレス】で防御していたためだと推察できる。


 一日も早く妹の桃華に、回復薬ポーションを使ってやりたかったのだが、レベルアップの副作用で三日三晩。高熱と激痛で悪夢にうなされていたので、祖父に回復薬ポーションを渡してくるようにお願いしたのだが……



「これはお前が勝ち取った戦果だ。幸い病状も安定している。

お前が持っていってやれ……」



 ――――と言ってくれた。


………

……


 今日はいつものバイクではなく、撮影などで使われるバンに乗る。

 あのあとテレビと交渉して撮影を認め、出演料を辞退する代わりに、誹謗中傷や盗撮などが出た際には、妹を守るという約束を取り付けた。


 師匠も中原さんも今回の撮影の絵として欲しいとの事で、中原さんと師匠はそれぞれ出演料(平均的な探索での一日あたりの収入で手を打った。)でOKを出したとのことだ。


 燦々さんさんと降り注ぐ夏の陽光が窓から降り注いでいる。



「ではお願いします」



 ADの合図でリノリウムの硬い床を踏みしめる。

 カツカツと音が院内に響く……軽金属とプラスチックで出来た吊下げ式の引き戸に軽くノックすると、いつものコツコツと軽い音と、割と元気そうな声が響いた。



「はい! どなたですか?」



 良かった爺ちゃんの言葉通り元気そうだ。


 俺は内心で安堵の言葉を呟いた。

 辛い副作用の中で見た悪夢には、俺が早く回復薬ポーションを届けなかったせいで衰弱して死ぬというものがあった。


 あり得たかもしれない。もしもの可能性ではないのか? と考える事もあっただが悪夢とは違い彼女は生きている。


 何年も何年もかかると覚悟していた。だがふたを開ければ一ヶ月弱で目的のモノを入手することが出来た。


 これは『ステータス』にある幸運の御蔭か? はたまた《スキル》【禍転じて福と為す】の御蔭か、それは分からない。

でも俺は当初に掲げた目標を果たすことが出来る。


 とても一ヶ月間の出来事とは思えない、濃密な思いと出来ごとが走馬灯のように脳内を流れ、思わず涙が零れそうになる。



「俺だよ、俺。

約束通り回復薬ポーションを持って来た愛しのお兄様だぞ?」



 失敗した。少し鼻声になってしまった。



「なんだ。優勝者のコータローか」



 二人とも平静を装っているが、兄弟だから分かる。

 今顔をみれば二人とも泣き崩れ、わんわんと子供のように泣いてしまう。



「ん」



 師匠に促され、引き戸を開けると、病院独特の消毒液と漂白剤それに薬品が入り混じったような独特の臭気に交じって、普段はしない化粧のニオイが入り混じる。

 また病人であることを演出するために、PZ5コントローラーなどは撤去されている。

 テーブルの上にあるのは「アルジャーノンに花束を」と「春と修羅」等の文庫本が何冊も扇形に置かれており、そのタイトルと内容で皮肉を言いたいようだ。

 


「中継でみたから知ってると思うけど、俺優勝してポーションを手に入れたんだ」


「ごめんね。私のためにコータローの時間を奪った挙句あげく、命を危険にして貰って……」



 棘のある言葉は台本ではなく、彼女の本心であると、共に過ごした時間から理解できた。

 なら俺も『病人の妹の居る兄』と言う仮面ペルソナ脱ぎ捨てて、本心をさらけ出すのが礼儀というものなのかもしれない。



「ああ、お前のせいで他の兄弟なら感じなくてもいい不便を感じる機会は正直多かったと思う……」


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