第132話大会六回戦アナザービュー



【SIDE:杉多(大会の解説役)】



 杉多は立花あのおんなと同じ空間に出来るだけいたくないと思い、解説席を抜け出し館内をふらふらとで歩いていた。

 キンキンに冷えた缶コーヒーのプルタブを開け一口、口に含む。同棲中の彼女に言われ禁煙中の杉多は、ストレスが溜まりやすかったのだ。

 缶コーヒーを飲みながら歩いていると、世話しなく館内を走り回る番組スタッフ達が視界に入る。

 あるものは大道具を抱え、あるものはビニール袋を両手に持って走っている。


 あーはなりたくない。と心の中で呟くとコーヒーを一気に飲み干し、飲み残しの匂いが漂ってくる薄汚れた缶捨ての缶よりも一回り大きな穴にゴミを捨て、少し大回りしてからトイレによって戻ろうと思い館内を歩く……


 すると、女の怒声が聞こえた。



「なんでこんな高レベルの呪いを受けてるのよ!」



 その声に聞き覚えがあった。後進育成に力を入れている女で確か……何人か子供を大会に選手として推薦し、こういった大会や育成で金を得るビジネスをしていると聞いている。

 また本人が、世界でも数少ない回復魔法が使える存在ゆえに、傲慢な立ち居振る舞いをしているとも聞いている。



(呪い? 呪いだと!)



 呪いとは、死霊系と分類されているモンスターが主に使う《魔法》で、他には亜人系の中に含まれる悪魔系や、亜人系の上位種である呪術師ソーサラー祈祷師シャーマンなどが使用する。

 状態異常系魔法の一種で、解呪薬と呼ばれる回復薬ポーションの一種を用いなければ、解除する事は出来ないとされている。


 JSUSAジェイスーサ(日本特殊地下構造体協会)がなぜ全てのアイテムの一度買い取り、希望があれば買い戻すという仕組みになっているのか? と言うと禁制品とよばれる。社会に混乱を招くような品々を封印するためであると公表しており、その中でも呪いを持つアイテムは厳しい審査を設けた上で、JSUSAジェイスーサの内部評価が一定以上でなければ買い戻せないようになっているからだ。


 学生レベルの大会で、その禁制品の一部を買い戻すための内部評価を得ている学生は一体何人いるのだろう? 大学生なら可能性はあるが……そのレベルはいわゆるプロ。自分の能力を暗に開示する、このような大会に好んで出場するとは思えない。

 プロの探索者である俺から言わせれば、闘技場で戦っている奴らは全員ダンジョンが怖くて、尻尾を巻いて逃げた負け犬だ。



 なら道具に付与されている《呪い》ではなく、《魔法》による呪いだろうか?

 


 経験則として、ステータス上昇系を覚えた奴は同じ系統の《魔法》を覚え易く、いわゆる属性魔法でもそれは変わらない。

炎は炎、氷は氷とそれ以外の系統の《魔法》の習得は数少ない。

 攻撃→付与→回復→防御→攻撃と四角形を描くように適正があると俺は考えている。

 

 付与(呪い)の両隣は、攻撃と回復となるので経験則に基づけば、攻撃魔法と回復魔法を披露したものが怪しい。

 

 立花銀雪あのおんなの教え子である加藤君は、雷を付与する雷属性の付与魔法だと思われるため、一応呪いの使い手候補であるが、俺の推測が正しいに決まっている。


 立花銀雪あのおんなの言う、『あの《魔法》は前回大会の参加者であってたとしても、その優勝を阻止しうる障害足りえる脅威だという事ぐらいでしょうか?』など宣う苦し紛れのハッタリが正しい訳がないだからな!!


 杉多は肩を怒らせ声のする方へ足を運ぶ。



「何かあったんですか?」



 女は杉多を一瞥すると懇願するような声でこう言った。  



「ちょうどよかった! この子先ほどの試合で呪いを受けたらしくて……解呪するのも難しいんです。状態異常系の回復薬ポーションを持っていないかしら? 全く……どうなっているのかしら……」


「申し訳ない。現在俺が持っているのは通常の回復薬ポーションだけだ。物理的な傷は治せても呪いなどの状態異常系を治せるモノは何一つ持っていない……」


 女性は落胆した表情を取り繕うとこういった。


「いいのよ。ダメで元々だもの……今スタッフに状態異常を回復させる回復薬ポーションを調達させに言っているけど……元々希少なものだし難病治療に使われる事もあってその入手性が輪をかけて悪いわ」


「他の解説してるプロ探索者に提供を要請しては?」


「今スタッフに当たって貰っている所よ。まぁ立花銀雪あのおんなが素直に供出するとは思えないけどね」



 あのおんなと言うのは、恐らくは立花銀雪の事だろう。普通のプロは通常あんな用途が限られるものは携帯していない。



「どうしてですか?」


「それは呪いを受けた子が、あの女……立花銀雪の弟子の対戦相手だからよ……」


「加藤選手以外にも居たんですか?」


「はぁ……その加藤選手がやらかしたのよ」


「はぁ? 加藤選手の《魔法》は雷の付与ではないんですか?」


「あれはそんな生易しいものじゃないわ。呪いを付与しているのよ」


「まさか!」


確かにそれならこの大会の優勝経験者にも届きうる武器となる。


「……なら加藤選手に解呪を依頼しては? 多くの場合呪いはそ呪いをかけた本人であれば容易に解呪できるはずですが」


「あれだけ必要な攻撃を加えた相手に治療のためとはいえ、怪我人に近づけるのはちょっと……」


「そんな事を言っている場合ですか! 仮にもプロである俺と貴女がいるんです武器がなければ取り押さえる事ぐらいは可能でしょう……」


「……分かりました加藤選手に助力を乞いましょう……」


 渋々と言った様子で回復魔法使いは承諾した。




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