第131話大会六回戦4


「だれ゛がッ! 降伏ごう゛ぶぐだぁんでずるがァ!! ごんだぁ! ごんだぁがだをじでう゛れ゛じい゛がァ!!」


――――と吠える。

だが俺にはそんな事はどうでもいい。



「俺の目的は綺麗な勝ち方でも何でもない。優勝賞品である回復薬ポーションを得るただそれだけだ。

それ以外の些末な事に意味はない……今日と言う日を迎えるまでストレスの毎日だったからな……お前の頭を割るような激痛ももう少しギアを上げてやれば落ちるか……」


「だに゛をずるずもりだ! やめろ! なにをずる! あ゛っ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! い゛だい゛! い゛だい゛!! い゛だい゛!!! い゛だい゛ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!」



「早く意識を手放した方が楽になれるぞ?」



 まるで子供に優しく諭すように言うと、また切っ先で軽く刺す。



(降伏を宣言するか致命傷判定を喰らって場外に出る以外負けにしないのはガバガバルールだよな……)



 現に今俺はこうやって降伏を促す事しかできないん。

 妹に回復薬ポーションを与えようする俺の邪魔をすると言ったんだから多少・・は痛め付けてやるつもりだったけど、ここまでやるつもりは微塵もなかった。

 戦闘中・・・の怪我や傷なら「相手が強かったんだよ」などと対外的な言い訳ができるけが、今やっているのはただの弱いモノ虐めに近い。


(はぁ……夏休みが終わったあとの二学期から俺はどんな顔をして教室クラスにいればいいのだろう? あ、俺は四月の妹の病気暴露事件で気を使われ、教室クラス内に場所なんてほとんどなかったから、より教室で腫物に触るような扱いをされたところで無問題モーマンタイと言えなくもない……)



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! い゛だい゛! い゛だい゛!! い゛だい゛!!! い゛だい゛ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!」


 

 痛みに耐えかねたのか、ピクピクと痙攣すると意識を手放したようだ。



『しょ、勝者加藤選手!』



 審判である男性は、一瞬言葉に詰まるものの勝者を宣言する。



「やばいぞ、救護班を急げ!」

「「「了解!」」」



 などと檄を飛ばす声が聞こえる。

 俺は追撃をすると思われて屈強な男性達が出てくる前に、距離を取る。

 胸元から取り出したアルコールシートで切っ先に付いた血を拭うと鞘に納刀する。

 その横をタンカーを持った男女が通り過ぎると、利根川を運んでいく……



『何が起こったのでしょうか! 加藤選手の野太刀が利根川選手の胸元を斬り割いた途端、武器を手放して転げ回りそのまま試合が決しました。一撃で試合が決まる事はあってもここまで一方的な試合は極まれです。是非有識者のお二人にはコメントを頂きたいのですが……』


 

 TV局側としては、初出場で三回戦まで突破されたのだ。

 例え四回戦で番組が用意した優勝候補に負けるとしても、今の俺は十二分に夏季大会のダークホース枠足りえる存在だ。

 俺を倒す選手の為にも、俺が降した優勝候補達の為にも出来るだけ俺の株を上げておきたいようだ。


 つまりは、出来るだけ取れ高と言う奴が欲しいのだろう。



『最初にあの《魔法》を見たときには雷系統の付与魔法かと思ったのですがどうやらその予想で正解のようですね……』


『どういうことですか?』



 杉多は正鵠せいこくを射たと、言わんばかりに持論を述べる。



『私は始め、あの黄金の稲妻を付与する《魔法》は二種類あるものだと考えました。

 恐らく多くの探索者はそうでしょう……武器と防具その両方に付与できる《魔法》なんて、米国探索者のフランク・フレッチャー氏の【加重操作】が有名なぐらいですから、一つの《魔法》でそこまでの事が出来るとは考えていませんでした。

ですが電気を操る《魔法》であれば、金属に帯電させてればいいのですから、防具でも剣でも付与できるます。オマケに藻掻くような動きは、電気ショックと考えれば辻褄は会います』


『なるほど、それならばあの発光も説明が付くという訳ですね……立花さんは正解を知っていらっしゃるようですが……宜しければ詳しい部分を教えていただけないでしょうか?』


『個人情報ですので私の口からはなんとも……』


『自分の教え子だからと依怙贔屓えこひいきするのはよしたらどうだ? この俺の推測が正しいから正解とも不正解とも言わず。そうやって煙に巻く事で優位を崩さないようにしているのだろう?』


『……ではお答えしましょう。杉多さんの推論は間違いです。

固定観念に囚われず柔軟な発想で、天才が閃けば1%ぐらいは答えにたどり着けますよ』


『――――っ馬鹿にしているのか!?』


『いえ、事実を述べただけです。もし本当に効果が気になるのなら、治療している現場に立ち会うといいでしょう。良く刑事ドラマでは言うでしょう? 『現場百回』とか『事件は会議室で起きてるんじゃい、現場で起きてるんです』とかってね』


『強情な女だ』


『……では次の試合になるまで少しお時間を頂きます……』



 と険悪な雰囲気の解説者二人をクールダウンさせ、過密で過酷なスケジュールをこなすための時間を空けた。 

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