第130話大会六回戦3

 


 俺が《魔法》を発動させた事で利根川の表情、身体が強張ったのを感じる。

 さらに《スキル》【集中コンセイトレイト】を発動、移動速度を上げ会場の床を破砕し、その粉塵を巻き上げ両手で持った野太刀を上段に振り上げながら接近する。

 


「きえええええええええええええぇぇぇぇえええええええっ!」



 俺の袈裟斬りを盾で受け流し、剣による攻撃を試みたようだが、《スキル》【集中コンセイトレイト】を発動させた俺は難なく躱し、距離を取る。



『先ほどの掛け声はなんですか? まるで剣道などの武道で発するような声でしたが……』


『恐らく猿叫えんきょうでしょう。

薩摩藩(現在の鹿児島県)で広く学ばれた剣術流派、薬丸自顕流やくまるじげんりゅう示現流じげんりゅうの掛け声で、空手などにも影響を与えています。

 近代スポーツでは、卓球やハンマー投げで有名になったスポーツオノマトペやシャウト効果を利用したもので、相手に威圧効果を与えるとともに、筋力等が瞬間的約10%ほど上昇すると言われています』


『なるほど……いがいと合理的なものなんですね』



「ちっ! クソ陰キャ! 俺の盾が削れちまったじゃねーか!!」



 武器防具の損耗にマジ切れしてやがる……俺と同じかそれ以上に、金に余裕がないようだな。


 ならそこをついてやろう……



「お前の盾は柔らかいな……本当にⅮ級装備か?」


「この異常者が! ぶっ殺してやる!」



 そう吠えると盾を前に突き出し、下段に剣を構えた姿勢のまま走り込んでくるが、田中選手や新見選手のような威圧感は全く感じない。

 田中選手のような生き汚さも、新見選手のような速さもない


コイツに負ける通りはない。

 

《スキル》【集中コンセイトレイト】による下駄を履くことなく、太刀を振るう。

 

 繰り出された黄金の刃を利根川は、ご自慢のⅮランクの盾で防御する。

 だがこれでご自慢の盾を持った左腕は、袈裟斬りの衝撃でしびれて使い物にならなくなったハズだ。

 お返しカウンターの一撃を、左足を軸にして後退する事でかわす。胸元の空を利根川の剣が斬る。

 最速の斬り返しをお見舞いする。

 利根川は一瞬思案するような表情を浮かべると、高速でボソボソと何かを呟いた。

 恐らくは、《魔法》を発動させるべく呪文を詠唱しているのだろうがそのまえにこの攻撃を当ててやる!



「『煙の出ない火、砂漠を吹く熱風より生まれ出でし天使と人間その間に存在せし漆黒の巨人よ汝のかいなを貸せ』」



 刹那。


 左下段から放たれた逆袈裟斬りに向けて、誰も手を触れていない剣・・・・・・・・・・・が、十分な加速を伴って袈裟斬りの軌道で相殺させにくる。

 が、黄金の刃には無意味だ。俺の野太刀の刃を斬る事なく、まるでコンニャクでも斬っているような斬り心地で、利根川の剣を斬り割くと、そのままの勢いで利根川の探索者スーツの胸元を切っ先が斬り割いた。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! い゛だい゛! い゛だい゛!! い゛だい゛!!! い゛だい゛ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!」



 利根川は剣を捨て、盾を捨てのたうち回る。

 どうやら痛みに慣れていないようだ。


 利根川から少し離れた場所がドンドンと揺れているのを見るに、どうやら先ほどの《魔法》は念動力サイコキネシス的な能力ではなく、奇妙な冒険に出てくる幽波紋スタンド的な能力のようだ。


 不可視の腕を操る《魔法》かぁ……便利で対人戦では強い《魔法》だけど利根川のおつむでは、使いこなす事は出来ないかったようだ。

 俺ならここぞというところで、相手の首を絞めるか足を摑んで転ばせたり金的を殴ったりするのに……



『一体全体どういう事でしょうか? 利根川選手! 武器を捨て床を転がり回っているようですが……』


『……』


『利根川選手が痛みに弱いだけじゃないでしょうか? 一回戦、二回戦は、事を極端に恐れる参加者も多かったですし、利根川選手もそうだっただけだと思いますが……あ、そうだ。立花さんは加藤選手とお知り合いだとか何かご存じありませんか?』


『今ここで能力を言うのは、フェアではありませんのでコメントは差し控えさせていただきたいです。ただ一つ言えることは、あの《魔法》は前回大会の参加者であってたとしても、その優勝を阻止しうる障害足りえる脅威だという事ぐらいでしょうか?』


『『……』』



 杉多は探索者として、鳥羽は番組側の人間として何人もの学生探索者を見てきたから分かるのだ。

 彼女のその言葉が事実であると……



『試合は動いたみたいですよ……』



 俺はいつでも利根川の体を床に縫い付けられるように剣を構えこう告げる。



「降伏を宣言すればその呪いを治療してもらえるぞ?」

 


 立花さんが言っていた。俺の《魔法》の追加効果である呪いは、格上になるについて効果が減衰していくと。

 ならば反対に格下のあいては効果が増大するのだろうか?

 口の端には白い泡を浮かべ、目は赤く充血し涙がとめどなく流れている。

 下半身は濡れ水溜まりを作っている。

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