第129話大会六回戦2

『ルールを説明させてい御ただきます。ルールは単純明快。相手を倒せば勝利となります。なおダンジョン内では発動できない救命の魔道具を用いているため、死亡するダメージを受けた場合強制的に場外に吹き飛ばされます。

 刃物を用いているため、最悪の場合死亡する可能性もありますが、回復魔法を使える探索者と潤沢な回復薬を用意しておりますので、安心して戦ってください。なお不正が発見された場合は即時失格となります。両者よろしいですか?』 


「はい」

「……」


「俺はお前を倒す! 前から気に食わねぇんだよ!

お前のその、自分が世界で一番不幸だってつらがよ」


「だろうな……俺もお前の事が嫌いだったよ」 



 ――――と俺は冷静に返す。



「その点でだけは、お互いに同じ思いだったって訳だ。

俺はお前に勝つ! それがお前の希望を砕くとしてもだ」


「……粋がるなよクソヤロウがっ!」


「おー怖い、怖い。おい陰キャ!俺に土下座して乞え!

そうしたら目当ての回復薬ポーション入手の邪魔をしないでやるよ!」


「妹の為なら泥水で口をゆすいだり、足を舐める事ぐらい大した事じゃないけどよ……お前にこうべれる必要がない事ぐらいは分かる」


「はっ! 精々減らず口を叩いてろよ陰キャが!」



 幸いマイクに俺達が口汚く罵った声は乗っていないだろうが、映像だけは乗ってしまっている。

 定められた位置にスタンバイしない俺たちに、さすがに業を煮やしたのかスタッフが近寄ってくる。



「ちっ……結果は試合で示してやる」


「吠えてろ! 三下が」



 互いに「捨て台詞」を吐くと、定位置に付くためきびすを返す。

 これがゲームなら、「こうげき」と「とくこう」を一段階ずつ下げオマケに手持ちに戻れるというのに……



『両者舌戦を終えスタート位置に付くようです』


『どんな言葉を交わしていたんでしょうね? 互いの健闘を称える話でしょうか? 立花さんはどう思います?』


『えーっ、意外と罵り合いかもしれませんよ』


『え?』



 驚きの声を上げ、暫く停止する鳥羽アナだが、彼もプロ、放送事故にならないように直ぐに言葉を紡ごうとするが……



『それはどういうことですか?』


『コータロー……加藤選手とは面識があるんですけど、どうも彼は敵視されているみたいで、もしかしたらそういう・・・・関係かもしれませんよ』



 ――――と明言せずに関係を匂わせる。



『因縁の相手って言う事ですか……』


『両者定位置に付いたようです』



 約10Ⅿの距離を開けて俺達二人は試合会場の上に立つ。

 約10日ほどまえ、ヤツはレベル1だった。

今も恐らくレベル1で、俺が全力を出すまでもない。

 今回も小太刀の使用は辞め、これからのメインウエポン野太刀を使用する事に決め、左手の親指でつばに指を掛け押し出して鯉口を切り、

 軽い力で手首を緩めて、下から軽く柄を握りその時を待つ。



『試合開始!!』



 レフリーの手刀が振り下ろされると同時に、右足を前に擦る様に突き出し、鞘を傾けながら後方へ引きつつ腰を回し、刀と鞘との距離を開かせる。鞘引きを行う事で、高速の抜刀に移る事が出来る。

 

 抜きの初速は野太刀であるため、利根川の得物であるブロードソードに比べれば数秒遅い。但し、武器のリーチは圧倒的にこちらの方が長く有利と言える。

 今回の選手もブロードソードに盾と言う、デフォルトスタイルはもしかして流行っているのだろうか? 某ゲームの公式曰く片手剣が初心者向け装備らしいので、そういう影響があるのかもしれない。


 逆袈裟斬りの軌道で野太刀を振るい、手首を返して両手で柄を握り、刀を構える。


 切っ先を利根川に向けるだけで威圧感を与える事が出来るので、俺にはこの10メートル互いの間合いの合計を抜いた空白の距離は、5メートル程度。

 成人男性の平均的な歩幅は、0.7~0.8メートルなので走って斬りかかったとしても、六、七歩は必要だ。

 素直に初手で斬りかかってくれる相手ならば、対処がしやすいんだが……利根川の戦闘スタイルはガン待ちだ。

 相手の攻撃を受けて、受けて攻撃を返す。と言う単純で簡単で強い戦術を好んで使うようだ。



盾役タンク見たいな戦い方だな……)



 一撃でも入れる事が出来れば、【皇武神の加護ディバイン・ブレス】の効果で『頭を割るような激痛の呪い』を相手に付与する事が出来る。

 痛みは思考を鈍らせる。

 痛みに恐怖心を抱かせる事が出来れば、利根川の動きは鈍り隙が生まれる。

――――となれば、俺の取る手段はたった一つ。


「『無南八幡大菩薩なむはちまんだいぼさつ』!」


 呪文を詠唱することで、光輝く刀身が生まれる。


『で、出たぁぁああああああ!! 加藤選手の付与魔法だぁああああ』


 観客の声が聞こえまるで、サヨナラホームランで打った時の歓声のようだ。

 

『立花さんは、あの《魔法》について何かご存じありませんか?』


 探索者でもある杉多は、立花に探りを入れる。


『名前、効果、すべてを知っていますが、今この場で明かす事は彼にとってもフェアではないでしょう……ただ一つ言わせて頂くと……あの《魔法》は強い、、ですよ……』

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