第140話大会決勝戦2

 恐らく相手の攻撃のからくりもつかめた。

西洋の剣の護拳ごけん(いわゆる鍔の部分でサーベルなどの湾曲したアレ)は、剣の中でも最も頑丈な部分だと何かで読んだことがある、たぶんその硬い部分で殴られたのだろう……

攻防一体の【皇武神の加護ディバイン・ブレス】がなければ良くて骨折ひび、悪ければ粉砕骨折と言ったところか……


 まぁ、俺の《魔法》【神便鬼毒酒じんべんきどくしゅ】を嫌い片手で口元を押さえた状態から、身体能力低下デバフが発生した上でこの威力、恐らく『魔力』を用いた身体能力の強化手段があるのだろう。


 俺は師匠に教えてもらってないけど……


 防具に付与された【皇武神の加護ディバイン・ブレス】は光の巨人よろしく、鎧全体が明滅しあと少しで《魔法》が解除される事を示してくれている。


「硬いな……探索者歴一か月で決勝まで上がってこれるのは、強力無慈悲な《スキル》と《魔法》あってものだろう? 

事実、俺の技を知らなかったようだしな……」


 『俺の技』と言うのは恐らく、魔力を四肢に纏わせていた技術のことだろう。


「……例え位階レベルが同程度だとしても、魔力纏いアムドの体得の有無は、その格に一線を引くものだ。

お前が俺に勝てる通りはない!!」


「お前の魔力は俺の《魔法》で霧散させることができる。

そんな理屈俺には関係ないね!」


「その減らず口! 叩けないようにしてやるのも先輩の務めだよなァっ!!」


 値踏みするような表情が、嗜虐しぎゃく的好奇心を孕んだ何とも形容しがたい下衆げすの表情に変わる。

 男の体からにじみ出る殺気を感じて、俺は重心を低くし相手の攻撃に備える。


 魔力を用いた技術……『魔力纏いアムド』には疑似的な強化系の《魔法》や《スキル》のような効果があるようで、新見選手に迫る勢いで加速力していく……


 だが俺には切り札がある。

 腰にあるポケットに手をツッコミながら呪文を唱える。


「『南無八幡大菩薩なむはちまんだいぼさつ』!!」


 呪文を唱え終わったと同時に俺は幾つものパチンコ玉を投げつける――――



『あれはなんでしょう……黄金に輝く玉でしょうか? あれは魔法道具マジックアイテムなのでしょうか?』



 羽鳥アナは、会場にいる言葉は一般人の疑問を代弁したものだった。

 ダンジョンにも《魔法》にも詳しくないモノからすれば、アレが《魔法》なのか? はたまた魔法道具マジックアイテム皆目見当もつかないからだ。


 大会のルールに沿えば規定内の魔法道具マジックアイテムの使用は認められている。

 だが多くの選手の場合は、武器や防具であったり戦闘中の回復アイテムの使用となる。

 それ故に攻撃能力を持った道具の使用は、大変珍しいことなのだ。


魔法道具マジックアイテムであれば、電気玉の可能性が高いでしょうが……かなり効果なアイテムですのでまずありえないでしょう』


『ではなんでしょうか?』


『決まっているじゃないですか《魔法》ですよ……』



――――黄金に輝くパチンコ玉は、アニメ作劇における板〇サーカスよろしく。

 パチンコ玉としての『性質』である、『当たる』ことと『外れる』ことが《魔法》【皇武神の加護ディバイン・ブレス】によって強化付与されているため、出鱈目に放りなげたパチンコ玉でも『概念的性質』が強化されているおかげで良く当たるのだ。


 金色に輝くパチンコ玉の弾道は、放物線を描くようにして最短距離で飛んでいくものや、他のパチンコ玉に跳弾し軌道を修正・見出していくもの、地面に跳弾しながら目立つだけの奴などバライティー豊かだ。


「驚かせやがって! たかがパチンコ玉で何が出来る!」


――――と絶叫を上げる。


「はい。かかった」


 あり得ない軌道を描いてパチンコ玉が一発、また一発と連鎖的に命中していく……


(ラッシュ……いや確変、継続詳しくないから分からないが多分そういう状態なのだろう……)


 そんなことを考えている間にも命中する玉は増えていく。


「なっ! なんだこれはぁぁぁぁああああああああああああ!!」


 さらに俺の《魔法》【皇武神の加護ディバイン・ブレス】には、素肌に触れると感染する呪い効果がある。

 良く探索者スーツの上に当たっている間は、想像よりも痛いパチンコ玉でしかない。

 もしそれが露出せざる負えない指や顔に、運悪く・・・当たれば呪いカースに分類される頭を割るような痛みに襲われることとなる。



『アハハハハハハハ!! これは面白すぎるって何か隠してるだろうなって思ったらコレかぁ! アハハハハハハハ!! お腹痛い! 笑い過ぎて死んじゃう! 性質と運をこう使って来るとはおねぇさん予想外だわ』



 解説席の方から師匠の爆笑が聞こえてくる。



『立花さんはアレの原理がお分かりになったんですか?』


『《魔法》と《スキル》、《ステイタス》の組み合わせのただのギャンブルだよ。高確率で勝てるね……』


『それはどういう……』


 羽鳥アナの言葉を遮るように観客席から歓声が上がる。


 ぼうっ! と燃焼音を立てて焔が膨れ上がり爆ぜた。

 先ほどまでの緻密な魔力制御とは無縁なそれは、まるで……燃え盛るような業火だった。

 それは自然の発火現象などではない。魔力が制御出来ずに漏出する事で起こる現象であり、中位以上の探索者が見れば未熟さの証とも呼べるものだった。



『……』


『ミスか?』



 プロと元プロの反応は似たようなものだった。

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