第139話大会決勝戦1
約10Ⅿの距離を開け、俺達二人は試合会場の上に立つ。
相手は黒い短髪を整髪料でツンツンに逆立てた長身の男。
腰に下げた得物は鞘に覆われているため判別がつき辛いが、恐らく軍刀や
ロングソードとは似ても似つかない。
なぜ刀剣の種類が絞り込めたのかというと、
もし、相手の得物がサーベルだとすれば、直刀、曲刀、半曲刀の三種類があり、刺突、斬撃、バランス型となっているため相手の攻撃方法を見極めるには、刀身を見るほかに選択肢はない。
どちらにせよ。多くのサーベルは1/3ほどに裏刃が付いており、手首を返すだけで斬り返しをすることができ、日本刀と同様に馬上での武器として発展した経緯がある。
多少調べただけのにわか知識では、どの刀剣かまでは絞り込む事は残念ながら出来ていない。
今回は野太刀の使用は辞め、今までのメインウエポンである小太刀を使用する事に決め、左手の親指で
『試合開始!!』
レフリーの手刀が振り下ろされると同時に、右足を前に擦る様に突き出し、鞘を傾けながら後方へ引きつつ腰を回し、刀と鞘との距離を開かせる。鞘引きを行う事で、高速の抜刀に移る事が出来る。
抜きの初速は小太刀であるため、相手の得物である曲刀・曲剣に比べれば数秒早い。
オマケに武器のリーチは多分俺の方が長く、例え短かったとしても野太刀に切り替える事が出来る分、俺の方が有利と言える。
日本刀を用いた剣術その多くは、両手で剣を構える。
だがサーベルは馬上で発展し馬上でその役目を終えたたため、片手で扱う事を基本としている。
左手を前に突き出し、足を前後に開き、腰を落とすといった。やや変則的な八相の構えを取っている。
両者全く違う構えだ。
相手の構えから察するに、見かけ通り攻撃的な剣術を好むようだ。
男の体から
(……来るっ!)
男が、床を蹴り出して猛然と加速した。
蹴り出した脚力によって、床の化粧板を砕く……
ザッ!
(魔力を脚に纏わせた? 《スキル》? 否、技術か? クソっ! 思考が纏まらない!!
兎に角いまは、奴の秘密を暴く一手を打たねば!)
「『
呪文を詠唱すると
音と共に酒樽の蓋が割られ、酒樽から酒が霧状に吹き出し周囲の空間に覆う。
酒の霧は、物理的に視覚を覆い呼気から体内に入り込むことで周囲の生命体の身体を汚染し、同時に自身の心身を癒す。
やがて霧の領域はドーム状に広がり、濃淡があるものの一定の領域を汚染――――もとい清め聖別する。
「なにこれ……」
「華やかで甘みのあるような、フルーティーな香り……」
「爽やかで、ナッツのような深み……熟成感のある高級な日本酒のような香りだ……」
「――――チッ!」
選手は舌打ちをするも剣を片手に斬り込んで来る。
『おっと! 加藤選手! 樽を召喚したと思ったら何かを噴き出し始めたぁぁぁぁああああああああああああああああああ』
羽鳥アナウンサーの実況が会場に響く。
『何でしょうか? ものすごくいい香りがしますね? 日本酒のような……』
解説役の男性が鋭い感想を添える。
『マジックアイテムでしょうか?』
『酒系のダンジョン産アイテムは幾つもあります。しかしこんな香りは初めてです。ほぼ間違いなく加藤選手の《魔法》だと思います』
『酒を発生させる《魔法》ですか……一体全体どのような効果なのでしょう? 立花さんは何かご存じですか?』
『あれは《魔法》です。とだけいいましょう。付け加えると効果を知っている私からすれば、あれ
脚に纏っていた『魔力』は、【
が――――
刹那。
「『
呪文を詠唱し、探索者スーツの上から着込んでいるYAMADA社製アーマーベスト(改造)、アーマーレギンス(改造)、アーマーガントレット(改造)、アーマーシューズ(改造)にたった一回の詠唱で魔法を付与する。
それは各部位にダンジョン産の合金を用いた追加装甲と、それられを結び付ける改造機構を取り入れた事で実現した。
一度の詠唱で全身に【
灰黒色の探索者スーツの上から着込んだ鎧の金属部分が稲妻のような黄金色に発光し、周囲に小さな光の粒が明滅している。
――――直後。
腕に鈍い衝撃が走り、俺は後方。
数メートル弾き飛ばされる。
幸い。受け身を取っていたお陰で直ぐに起き上がる事が出来た。
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