ダンジョン攻略十一日目アフター1-4

第106話考察とステーキ


 なんであんなに事情聴取って、同じこと聞くの?

取り調べに近いんじゃない?ってことで無駄に疲弊した俺は、気分転換を兼ね、ガッツリ塊肉の討伐に向かう事にした。


 まぁ、ステーキなんですが……

ステーキハウスと言っても、サラダバー等が存在するタイプのチェーン店ではない。新機軸系の店で以前YoutubeShortsで、グルメ系の何人かがレビューしていた事を思い出したからだ。


 パンペーラを飛ばす事、数十分。反対車線にある入りにくい店に入ると、店内は肉の気化した油で少し煙っぽい。


 券売機で「やわらかヘルシー! ハラミステーキセット」のダブル360ℊ税込み1700円を注文し、我儘にもシート席を占領する。

ちなみにセルフサービスではあるが、肉以外のおかず・味噌汁・ご飯はお代わり自由だ。自由って最高だよね。



 俺は一口で水を飲み干すと溜息を付いた。


 犯罪者を捕まえた事で探索を早め切上げて、聴取に応じアイテムを換金した時には既に、21時を過ぎていた。

 新型感染症によるパンデミックは、一応の落ち着きを見せているものの未だにその余波は大きく、深夜時間帯に営業している店の数はそう多くない。


 ラストオーダーが21時30分のこのステーキハウスは、正に俺にとっての救世主と言っていい。


 ステーキが焼きあがるまでの間、俺はスマホで今日知った情報を調べる。

 辿り着いたのはWEB上での新聞記事だった。



「探索者への規制強化を提案しているのが、与党の過激派とコミュニスト達による超党派議員団体か……その一環としてカメラの装着の義務化を推進しているって言った所か……」



 記事によると、探索者の入退場の管理体制を厳格にした功績が既に、この超党派議員団体にはあるという訳だ。

 

 俺としては、探索者への規制強化をするのなら先ずは、異邦人などのダンジョンに潜る事への制限の方が優先度が高い問題だと思うんだけどな……


 現在、参議院本会議で検討されている。探索者特区構想に便乗するかたちで、カメラ装着の義務化が検討が進められているらしい。

 先ずはアメリカなんかと一緒で、警察に装着義務化してからにしろよと思わないでもない。


 まぁ一番の問題は、そんな綺麗で高い描画数を出せるビデオカメラを装備させるに一体幾らかかるのか? と言う問題だ。

 立花さんが、余り危機感を感じていなかったのは、長ければ一週間以上もダンジョンに潜る。彼女らのビデオカメラをどうやって、電源と記録媒体を確保するのかと言う問題だろう。


 記事には、筆者の感想として『確かに、ダンジョン内での犯罪抑止には必要であると考えられるが、乗り越えるべき課題が多く極めて実現性に欠ける。今や資源を生み出すダンジョンの内部で起こる犯罪などについて議論を重ねる事は大切だが、世界中で最も簡単に外国人がダンジョンに入れる国の一つと言う極めて、防衛意識に欠けている状況を改善する方が先決ではないだろうか?』と締めくくっている。


 実際問題、世界197カ国+13の未承認国家を含めた210カ国の中で、ダンジョンが存在する国家は20カ国にも満たない。

 その中の一つが日本である。

 ダンジョンがない国から出稼ぎ労働者が来るのは必然と言える。


 事実、特殊地下構造体武装探索許可書 ラ イ セ ン ス を取得した時もアジア系、中東系、南アメリカ系の顔を良く見た。

 日本人が日本で稼げなくなることが一番の問題である事を考えれば、真っ先に是正するべき問題の一つともいえるだろう。


 ……そんな事を考えていると、合成音声が食券の番号を読み上げる。


 配膳口で熱々の鉄板に乗ったハラミステーキとご対面する。

お盆の上に乗ったそれらを受け取ると米を丼によそって、一つ無料の生卵を頂くと席に戻る。


 あんなしみったれた事考えてちゃぁメシが不味くなりそうだ。

前期のWEB小説が原作のアニメか、アイドルアニメでも見ようかな……月壬麻那花つきみまなかさん出てるし……


 配信サービスを使って、アニメを流しながらメシを食べる事にした。

 当然、ワイヤレスイヤホンを付けた状態でだ。


 鉄板が冷めやすいので、あらかじめ肉を端に避けてから生卵を鉄板に落とす。


 熱々の鉄板に落ちた生卵は、牛の脂を吸いながら目玉焼きになっていく……この裏技は以前ここに来た時に、ツナギを着たオッサンがやっていたの見てやってみたかったのだ。

前回は鉄板が冷めてしまってできなかったので、リベンジを兼ねて今回試したと言う訳だ。


 卵かけご飯は平気で食べられるが、カラザだけがどうしてもだめなので、焼く時も出来るだけカラザを混ぜて火を通すか、取り除いている。

 

 カラザを出来るだけ取り除くと、白身だけパリパリに出来上がった目玉焼きにステーキソースをかけて一口で頬張ると米を掻き込む。


 甘じょっぱいステーキソースと卵黄が絡まってめちゃくちゃ美味い。


 粒のブラックペッパーを振りかけてから、小皿にステーキソースとおろしニンニクを入れてよく混ぜ特製ソースを作る。


 それを厚めのハラミステーキに付けて食べると今日の苦労も報われるような気がする。

 なんやかんや自分に言い訳をして、犯罪者を捕まえたけれどその後の拘束時間を考えれば、捕まえなければ良かったと後悔した。が、こんな美味いステーキを食べるためと思えば我慢も出来ると言うモノだ。


 ガツンとするニンニクと黒コショウの香りが、甘めのステーキソースと合わさるとが本当においしい。

 

半分ほど食べ進めた所でお代わりしたご飯の上に肉を乗せ、ステーキソースをそのままかけて、丼の淵にワサビを乗せる。

 こうするとステーキ丼になるのだが、生卵は一人一つまでなので白身だけ焼けばよかったと少し後悔してしまう……次回だ次回やればいい。でも生玉にステーキソースを入れてそれを絡めて食べるスキヤキ風も捨てがたい。


 やはり自由度の高い店はいい……

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