第107話SIDE:利根川6オーク

 

《魔法》を手に入れてから毎日、ダンジョンでそれがバレないように、解体やスリに《魔法》を使い込んだ御蔭か『魔力』が三段階、『耐久』と『技巧』が二段階、他が一段階上昇した。

 どうやら【姿なき魔精霊の魔手イヴィルインフルエンス・オブザ・サノバジン】で何らかの動作をしても、それに応じた『ステータス』が上昇するようだ。


―――――――――――――――――――――――――――――



利根川圭吾

 Lv.1  

 力:Ⅾ → C

耐久:B → A

技巧:Ⅾ → B

敏捷:Ⅾ → C

魔力:H → F


《魔法》 

姿なき魔精霊の魔手イヴィルインフルエンス・オブザ・サノバジン

・『煙の出ない火、砂漠を吹く熱風より生まれ出でし天使と人間その間に存在せし漆黒の巨人よ汝のかいなを貸せ』

・不可視の炎を纏った腕を生じさせ、自身の腕のように扱うことが出来る。


《スキル》


【鉄壁】

・地面に両足が付いている時『耐久』と『技巧』が向上する。

また『耐久』値に成長率ボーナスを与える。  


【一転攻勢】

・攻撃を回避、受け流し、防御した場合、全能力上昇。また特定の条件を満たした場合次の追加の効果を得る。

・攻撃を回避で『敏捷』を向上させる

・攻撃を受け流しで『力』を向上させる

・攻撃を防御で『耐久』を向上させる


―――――――――――――――――――――――――――――



 今日は数日前から決まっていた、特定のモンスターを狙って倒すという仕事だ。

 こういう“人数合わせ”の仕事は実入りがいいと、以前お節介な底辺探索者のおっさんに教えてもらったので、剣を買い替えようと思った俺はそれに飛びついた。


 今回のターゲットはオークと聞いている。俺のステータスでは少し厳しい相手だが、俺の仕事は荷物持ちと、他の荷物持ちバイトにモンスターが来た時の足止めが仕事で、その内容の御かげで他の奴よりもバイト代は、1.3倍になっている。


 俺はウキウキした気持ちで装備を着こんで集合場所に向かう。


………

……


 支部にある貸し会議室で行われているのは、ミーティングだ。

 上座にいる男は声を張り上げて宣言する。



「俺たち【電光石火ブラックライトニング】は、“オーク”を狩りに行く……目的はコボルト狩りと同じく奴らが持っているダンジョン産の鉱石狙いだ!」



 今回混ざるのは、フリーターの探索者チーム(いわゆるセミプロ)で、固定メンバーは10人と比較的多い。そのが全員が《魔法》と《スキル》持ちで構成されており、専業探索者になるのも時間の問題だと思っている。

 今日は“荷物”が沢山でる可能性があるという事で、バイトの募集が掛けられたというわけだ。



「“バイト”の諸君には、我々が倒したモンスターやアイテムを回収してもらう。時給は安いがあくまでもそれは最低保証金額だ。出来高次第で報酬は増額するし、俺たちの目に留まればパーティーに誘う事もあるだろう」

 


 ――――と俺を含めたバイト5名に激を飛ばす。

 するとそのうちの何名かは、ガッツポーズを取ったり、歓声を上げる。


ああ、ライブハウスで人気があるだけのバンドみたいなモノか……


 ――――と自分なりの理解をする。

 三河程度でお山の大将である。オーガーズ、三河フェニクス、豊橋天狗よりも格落ちする。こいつ等に必要以上に媚び諂う意味を俺は見出せない。

 


「では我々が先行するので、バイト達は戦闘後速やかに戦利品の回収をするように……休憩の際にはお茶や軽食の用意をするように……以上」



 その掛け声を合図に装備をしてダンジョンに潜った。


………

……



「全体止まれ!」



 リーダーの合図でパーティーメンバー+バイトは歩を止める。

 皆、何事か? と言った様子でリーダーの言葉を待つ。



「鉱脈だ……」



 リーダーは唖然とした様子で呟いた。

 

刹那。


 その場に居た全員が歓喜の声を漏らした。

その理由は単純だ。

 鉱脈とは、ダンジョン外での意味と同じく鉱物が取れる場所である。ダンジョン内において鉱脈の多くがダンジョンでしか採れない希少金属が採掘でる場所であり、鉄や銅などのありふれた金属以外が算出されれば、世界中で一番平均時給が高い事で知られるルクセンブルク大公国タックスヘイブンの聖地の約2,358円を凌駕する時給を稼げるといわれている。


 念の為にと言われて、リュックの両脇と正面に合計三本も背負わされたピッケルの出番が来たというわけだ。


 これで俺の資金問題も解決できそうだ。と俺は、ホッと胸をなでおろし全員で採掘に取り掛かった。


 カンカンと石を叩く音が、隧道内に響く……


 汗をかきそうな運動量を考えると、少し肌寒いと感じるダンジョン内は適温と言えるのかもしれない。

 

 俺は隣にいるデブを見る。

 額には霧吹きで吹き付けたよう汗が玉状にびっしりと浮かんでいる。


(ふっ、惨めだな……)


 15人全員で、ひたすらピッケルを振るう事30分。

 すると、ドタドタと言う足音が聞こえてくる。



「も、モンスターだ!」



 バイトの一人が絶叫を上げる。

 そいつはロクにダンジョンに潜った事がないようで、D級装備を買ったはいいものの、ゴブリンが怖すぎてダンジョンに潜らなくなったが、せめてD級装備代ぐらい稼ぎたいと、消極的な理由で参加しているメガネ君だ。


 メガネ君の方を見ると武装オーク集団が5匹ほど迫ってくる。

 そのうちの先頭の一匹が棍棒を振り上げ、袈裟懸けに振り下ろす。

 メガネ君への一撃を、【姿なき魔精霊の魔手イヴィルインフルエンス・オブザ・サノバジン】で受け止める。


ドン!


 衝撃を受けた事で、第三の腕は陽炎のように揺らめきながら数秒可視化される。


「えっ?」


 メガネ君は気の抜けたような声をだす。


(秘密にしておこうと思ったに咄嗟の事に動揺して、【姿なき魔精霊の魔手イヴィルインフルエンス・オブザ・サノバジン】を使ってしまった)


 後悔することは後からでも出来る。

 俺はメガネ君へ近づくと、首元を摑み引きずり投げ、距離を稼ぐ。


「うわぁぁあああああああああああああああああああっ!!」


 俺が“仕事としてメガネ君を庇っている間に”武器を準備している。

 《魔法》の詠唱が終わっただろう。氷の礫や石の礫がオーク目掛けて飛翔する。

 魔法の一撃で襲撃してきたオークその全てを殲滅した。


「これが、セミプロレベルの力……」


 俺はその光景を呆然と眺める事しかできなかった。

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