第3章 大会編 八月九日~八月十五日

大会前夜1-4

第110話 お見舞いに行こう……1

 08月09日、時刻は16時を過ぎたころ、戦士を意味し、一度も仮面ラ〇ダーと呼ばれたことのないヒーローの愛車でもあるGASGASパンペーラを走らせ、妹の入院する病院に以前約束した土産を持って向う。

 

 国立病院機構豊橋医療センターは地域病院として、他に比べ規模の大きな医療機関である。

 田舎の大病院特有の広い敷地があり、一番隅の駐車場に車を止めれば病院の建物まで10分程掛はかかるだろう。

 幸い今日は学校のある日とは異なり、バイクで来ているため程近い駐輪場が使える。

 うだるような燦々さんさんと降り注ぐ夏の陽光を浴び、汗を滲ませながら病院の自動ドアを潜り抜ける。

 一気にエアコンにより冷やされた冷風が外に流れると、一瞬 吸い込んだアルコールと漂白剤、それに少しの埃が入り混じった独特の臭気が鼻腔を刺激し、鼻がムズムズとする。

 エレベーターが混む事を理解している俺は、階段を使って妹がいるフロアを目指す。


 流石に階段までは冷えておらず、何とも言えない生暖かい空気に包まれている。さらにそれは一階昇る毎に不快さが増していき……その不快さに耐えながら、目的の階まで昇るとナースステーションに一度寄る。

 

 妹は大部屋ではなく個室に居るため、誰に気兼ねする必要もない。


 ブーツの床鳴りが、塩ビシートのフルフラット廊下に響く。

 軽金属で出来た吊下げ式の引き戸に軽くノックすると、いつものコツコツと軽い音と、割と元気そうな声が響いた。



「はい! どなたですか?」



 良かった今日も元気そうだ。


 俺は内心で安堵の言葉を呟いた。

 祖父から様子を聞いており、自分自身もSNSでメッセージのやり取りをしているので、妹の状況を何となく知ってはいるものの目にするのは約一か月振りの事だった。

 俺は少し緊張し震える右手に左手を添えると、深く深呼吸をしてこう答えた。



「俺だよ、俺。愛しのお兄様だぞ?」


「なんだ。薄情者のコータローか」

  


 好奇心と言うか退屈さ故の期待から一転、いつも会いに来るノーマルキャラが来た、と言わんばかりの興味の失い方だ。

 心なしか声音にも落胆の色が見える。


 この猫のように感情が真っすぐ態度にでるツンデレ感がたまらない。

 引き戸を開けると、病院独特の消毒液と漂白剤それに薬品が入り混じったような独特の臭気が鼻を付く。一瞬顔を顰めそうになるが、最愛の妹に不快な思いをさせないためにも気合で耐える。

 白いシーツの上には、白と黒のツートンカラーのPZ5コントローラーが置かれており、先ほどまで“ナニカ”のゲームをやっていたのだと推察できる。


 元気そうでなによりだ。


 しかし、彼女の衣服は彼女が病人である事を示している。

 大きなクリクリとした瞳が印象的な、ショートカットの少女で、顔立ちやベッドから起こした上半身を見る限り、まだ幼い印象がぬぐえない。

まぁ中学生の平均からもそう大きく外れてもいないだろう。



「そんな事を言っていいのか? 今日は約束のお土産を持ってきたんだぞ?」



 わざともったい付けるような言い方で、ももかの興味を引くように振る舞う。



「探索者になるって言って本当に探索者になったコータローの行動力には脱帽モノだよ。どれだけ女の子との出会いを求めてるんだか……あ、おじいちゃんが言っていたけど最近オシャレして出かけたらしいじゃん。しかも泊りで! 誰とどこへ行ってきたの?」



 どうやら以前とは異なりゴキゲンである。

将棋に凝っていた時分なら「中飛車でも使うのか?」と言いたくなる程で、親戚の姐さん(お姉さんを過ぎたすべての女性に対する言い方)共と同じく、病院に引きこもっている中学生でも他人の色恋に繋がるような話には興味津々らしい。



「探索者になって約一週間はソロだったんだけど、途中で師匠が出来たり、女の子を助けて、その子とパーティーを組むことになったり、クラスメイトと遊びに行っただけだ」


「コータローに友達だなんて……4G、5R、5Sみたいな煌びやかな夏休み過ごせるといいね」



 どうやら最近発売したDL移植版のシリーズ作品をやったらしい。1と2はPZPへの移植版以降でてないので、3,4の移植版よりもグラフィックは悪い。



「俺は4Gの悪魔コミュをあげに病院にきている事になっているのか? それとも5Rの死神コミュか?」


「ナースと女医だけど、女医の方は地域密着型の病院じゃない?ここなら4Gの悪魔コミュの方よ」


「俺は番長ほど忙しくはないぞ?」


「まぁコータローは番長と違ってモテないもんね。でもよかったね。3Fみたいな同僚感の強い仲間じゃなくて……」


「確かにそうだなあのギスギスとした雰囲気は胃が耐えられない……キタローはなぜ耐えられるんだ?」


 路線変更のため色々なシステムが詰め込まれた意欲作だった3は、終始重いテーマのせいで暗かった。

が、 嫌いじゃないわ!  と俺の中の京水が言っている。

 

「主人公だからじゃない?」


「それもそうか……あ、そうだ。はい、お土産」



 そういって渡したのは約束通りの回復薬ポーションだ。



「それって……」



 妹は何かに気が付いたようだ。

 





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