第102話ダンジョン攻略十一日目3



「それもそうね……でもコータローが無理をする必要はないわよね?」



 確かにそれはそうだ。

 師匠は続けてこう言った。



「銃やクロスボウ、弓矢にスリングショットを使っている可能性が考えられる……クロスボウの所持は2022年から許可制になっているのよね……」



 立花さんの説明によると約5m離れた地点から発射すると合成樹脂製ヘルメット、アルミ製フライパンを貫通する威力を持つらしい。

 正直その威力か強いのか弱いのか分からないと思っていると……中原さんはスマホ片手に検索を始めた。



「警視庁によると6.6J~13.8J。

弦を引き絞る重さは12.7~22.6㎏30~48.7m/秒との事なので、拳銃の弾として有名な9x19mm NATO弾の約500Jと比べればおもちゃみたいなモノですね……ライフルの弾なら1500Jぐらいあるそうですよ?」



 75分の1~227分の1とは言え、殺傷性がある事には変わりはない。



「だけど一般人なら当たり所が悪ければ死んでしまうわ。コータロー達は私が先行するから、証拠を集めるために後ろから付いてきて、動画だけ取ってくれればいいのよ?」


「俺がやりたいからやるだけです。汚れ仕事……って言う訳じゃないですけどそう言う事を押し付けるのは気が引けます。あくまでも俺の我儘エゴですから、二人積極的に巻き込むつもりはありませんよ。まぁ見ててください俺に策がありますから」


「分かったわ。



 ――――と意味深に語る。

 何というか。いつもなら処理しているというようなニュアンスだ。

 俺の表情の変化を察してか立花さんは、言葉を紡ぐ―――



「海外だと良くある事なのよ? 日本国内だと件数自体は少ないんだけど、ダンジョン犯罪事態はそう珍しい事じゃないの、年に数十件は強盗や恐喝はおきているし。自分たちよりも先に進んでいるパーティーを邪魔したいっていう、動機で私も何度か仕掛けられた事あるし……」


「それで経験があるって事ですか」


 俺の言葉に師匠は「そういう事」と短く返事を返した。

 映像や音声などの具体的な証拠がなければ、警察も動けないだろうから探索者が自力で救済する事も中級以上からは必要になる技能なんだろう……



「まぁ今回は、得体の知れない相手に殺す気で真剣を向けるという練習にはちょうどいいわ。トモエちゃんはどうする?」


「私も経験しておく必要事態はあると思いますが、今はコータロー君の強化が最優先。それにコータロー君には秘策があるようですから、私は大人しく後ろでスマホでも構えています」


 少しだけ残念そうな表情を浮かべる。


「ばっちり激写しますから……」と付け加えた。


「これを付けて行きなさい」



 立花さんはヘルメットとジャケットのようなモノを渡してくれた。



「これは?」


「カメラが搭載できるヘルメットとジャケットよ。数日前、私東京に呼び出されたでしょ?」


「ええ」


「その時にスリーフットレーベンズ う ち の事務から押し付けられたのよ」



 面倒臭そうに答えた。

 恐らくは7月31日の焼き肉屋で決まった声優、月壬麻那花つきみまなかとの撮影の為だろうと推測する。



「例の撮影の機材ですか……」


「そう。面倒なことに撮影のテストしてこいってね。ご丁寧に国内メーカーのを準備してきたわ」


「例の撮影ってなんの事ですか?」



 俺と師匠は顔を見合わせると事のあらましを説明する事にした。



「面倒な事にコニコニ動画で探索者向けの講座番組をやることになったのよ。声優さんと」


「そういうヨゴレって若手の人がやるイメージなんですけど」


「若手よ。彼女、私とそう年変わんないもの。コータローが知ってるからメジャーじゃないかもしれないけど……」



 ――――と前置きすると声優の名前を告げた。 

 


「えええええええぇぇぇっ! あの月壬麻那花つきみまなかさんですか? 凄い『聖女様』の声優さんじゃないですか!」



 『聖女様』とは1クールほど前のアニメで人気のある。甘々系の恋愛作品だ。



「そ、彼女と仕事する事になったんだけどその過程でどれぐらい映像が動くのか? を確かめておきたいって言われていたのよ」


「棚から牡丹餅ですね」


「じゃ装着して行って来なさい。危なくなったら叫びなさいそうね何がいいのかしら?」


「セリフとして唐突な方がいいと思います。勘違いとか言い間違いとかの可能性もありますし……」



 俺は海外でロケをしていた番組で痛くて耐えられなくなったら言ってください。と決められていた。セーフワードを思い出した。



「ハンバーグとかどうでしょう?」


「師匠か抱かれたくない男№1のどちらが元ネタなんでしょう?」


「まぁなんでもいいわ。ほらさっさとこれを身に着けて行きなさい」



 師匠に促されて、俺はジャージの上からジャケットとヘルメットを被ると、罠を仕掛けた連中が居ると思われる十字路の方へ歩みを進める。

 

 直線の通路を足音を殺し、注意して歩いていくと近づくまで薄暗くて気が付かなかなかったが、隧道と言うよりは煉瓦のような材質の壁には刀剣で付いたと思われる刀傷が幾つも散見され、中には緑の血の痕跡と赤い血の痕跡があった。

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