第115話大会一回戦2


(コイツ……本当に強いのか? 中原さんはこんなフェイント引っ掛からないぞ?)



 鞘を握り締めたり、脚の筋肉を僅かに動かしたり、視線や息遣いを調節するだけでその全てに反応する様子は、正直に言ってレベルが低く感じる。



(堅実な探索しかしてこなかったんだろうな……基礎に忠実なのは良いことだとお思うけど、柔軟さが足りないように感じる)



 アナウンサーが解説者に質問した。



『両選手の得物は、ブロードソードと刀でしょうか? 解説の田村さん』


『いえ、正確に言えば加藤選手の得物は、太刀と言うべきでしょう。通常の刀……打刀や小太刀に比べ刀身が長い……鎌倉時代以前の馬上の武器ですが身長が伸びて来た昨今では、馬上の武器でも問題なく使える武器です。現にプロの探索者にも太刀や野太刀の愛用者はいますので、加藤選手が太刀を採用した理由もビジュアル重視と言う訳ではないと思います……』


『なるほど……では実践向きの長物と言う事ですね……しかし両者一歩も動きませんどう言う事でしょうか?』


『二人も警戒している状態ですね。……流石の私でも一撃は見ないと有利不利は何とも言えません……』

 


 玉のような汗を額に浮かべた田中選手は、息遣いを荒くさせる。

 どうやらここまでストスを与えられた経験がなかったようで、我慢の限界を超えたようだ。


「フン」


 俺は思わず鼻を鳴らした。


「――――ッ!!」


 その音が聞こえたのか盾を前に突き出した状態で、ブロードソードを大振りに構えると猪のように突き進んで来る――――



『おっと先に仕掛けたのは、田中選手!! どうしたのでしょうか? 盾を持っている分待ちの方が有利だと思うのですが』



 アナウンサーと会場は、「なぜ? 仕掛ける必要があるのだろう?」と全く理由が分かっていないようだ。



『簡単ですよ。“耐えられなかった”からです』


『耐えられなかったとは?』


『後の先……いわゆるカウンター型の戦い方は、もの凄くストレスを感じるんです……いつ敵が攻撃してくるかわからない中でその間ずっと警戒していないといけないんですから、その心労は想像を絶するモノに成るでしょう……その心労はやがて焦りや不安感へと変化し、大きなミスに繋がると言う訳です』


『なるほど……』


『それに加藤選手は探索者歴が……『一カ月未満です』そう、一カ月未満とは思えない程、嫌らしい戦術を使う策略家です。

恐らく何かしらのスポーツか武道の経験があるのでしょう。

その経験を活かすに至っている事に、正直私は恐怖を覚えます』


『そこまでですか……』



 ――――《魔法》や《スキル》を使用したような素振りはないが、流石に一年半も探索者歴があるだけあって高い『ステータス』を使いこなしている。


 そろそろ、カチカチと手首を返して刃をを動かしてどこを狙っているのか分かりずらくする。嫌がらせフェイントをやめ迎撃に集中する。



「すぅ――――っ」



 息を吸い込みながら構えを取り時を待つ……

 相手が俺の間合いに入った瞬間俺は太刀を振り抜いた。



「ぬん――――っ!!」


「――――!?」



 ドン! と何かを破砕するような衝撃音を立てて、太刀が田中選手が構えていた盾に吸い寄せられるように命中すると、そのまま田中選手ごとブッ飛ばした。



『何という馬鹿力! 凄い力を 発揮して相手を選手攻撃するぅ! さぁ今、反撃する事が出来れば油断している加藤選手に大ダメージを与える事が出来るが!』


『《スキル》でしょうか? 凄い『力』ですね……あれだけの力で斬りつけても曲がったり折れていないあの太刀も相当な業物でしょう……』


 

 今回は人間あいてと言う事もあって、大きく振りかぶった横なぎ払い攻撃(バッティング剣法)はかなり手加減をしたが、盾を砕き3,4メートルは田中選手を吹っ飛ばしてしまった。

 まぁレフリーの言う事が真実であれば、『死亡するダメージを受けた場合強制的に場外に吹き飛ばされる』と言う事なので安心して、倒れたフリをしている可能性のある田中選手に追撃をかける事が出来る。

 ボクシングや、そのほかの格闘技やアクションゲームとは違い復帰阻止やハメ殺しは禁止されていない。

 妹の為にも勝たなければいけない俺に取っては必要な事だ。



『おっと加藤選手レフリーを呼び出した。一体どういうつもりなんでしょうか?』


『……何を話しているのでしょう。私気になります!』


「レフリー回復魔法やポーションの効果はどの程度ですか?」


「? なぜそんな事を聞くんですか?」


「いやちょっと確認したくて……」


「骨折しても直ぐに治るていどと聞いていますが……」


「じゃぁ大丈夫そうですね」



 俺は笑顔でレフリーを見た。

 レフリーは俺が田中選手の心配をしていると勘違いをしたのか……「大丈夫ですよ」と続けた。



『おっと加藤選手、太刀を納め田中選手に近づいて行きます』


『ダウンした田中選手を助けに行くつもりでしょうか?』



 俺は約5メートル離れた田中選手に近づく――――


刹那。


 影で俺の接近に気が付いた田中選手は、飛び起きるとブロードソード片手に襲い掛かって来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る