第116話大会一回戦3
「――――くっ!」
『おっと! 田中選手! 汚い! 汚すぎる!! 勝つためには手段を択ばないその姿はまさに外道!』
『加藤選手は予想通りだったようですね……斬り上げに対して近づいて攻撃を受け止めそして肩目掛けて、刃を立てるのと言う判断を即座に下せるのは異常の一言に尽きます……』
だがそんな事はよそう通り、俺はブロードソードによる切上げを肘を抑える事で防ぐと懐から抜いた短刀で、右肩に目掛けて刃を突き立てた。
ザシュ!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
田中選手は声を枯らすような絶叫を上げる。
聞くに堪えない金切り声に俺の不快感は爆増していく……
「降参しろ!」
突き立てた刃をぐりぐりと動かしながら降参を促す。
「こっ、降参するぅ――っ!」
『田中選手の降参の意思を確認しましたので、加藤選手の勝利を確定します!』
レフリーの発言を聞いてから突き立てた刃を引き抜いた。
『まさかまさかの大番狂わせ! 探索者歴一年半の猛者に勝利したのは探索者歴一カ月の新人! 加藤光太郎選手!! 会場の皆様、健闘した両者に惜しみない拍手を!』
パチパチと拍手と歓声が入り混じったような爆音が会場を包む。
会場から惜しみない拍手が送られる中、俺は俯く田中選手の様子を伺っていた。
正直この大会のレベルに拍子抜けした……というのが偽らざる思いだった。
試合前に前には緊張して水も飲めない状態だったが、一戦して理解出来た。田中選手は一年半と言う探索者
探索者として成功するために掛けた金と時間が、熱意と才覚が勝敗を分けたのだ。
「ク゛ソ゛っ! ク゛ソ゛ぉっ!!」
鼻水を垂らして田中選手は泣いていた。顔を鼻水と涎でくしゃくしゃにし、眼を真っ赤に充血させ地団太を踏みながら号泣している男子高校生の姿は哀れに見える。
勝てると思っていた相手に負けたことが余程悔しかったのだろう? 舐めてかからなければよかったと思ているのか? はたまたもっと努力すればよかったと後悔しているのか?
まぁなんにせよ。田中選手の心中は察するに余りある。
もしかしたら負けていたのは、俺かもしれないんだから……
『解説の田村さん。加藤選手の勝因はズバリなんでしょうか?』
『端的に言えば心の強さですね。恐らくですが加藤選手のステータスは田中選手とそこまで変わらない数値のハズです……まぁどちらが高いのか? はもちろん言うまでもありませんが……』
解説者の言葉に会場は笑いに包まれた。
一年半も、探索者歴があるのにも関わらず。探索者歴一か月の俺に負けるのだ。
恐らくはレベル1の後半と言ったところだろか?
『ステータスは上がるだけではダメなんです。
どれだけ良い靴や道具を用いてもその道具の癖を見抜き、使い込まなければベストな結果は出せないように、ステータスもただ高いだけはダメなんです。加藤選手はまだステータスに引っ張られている部分が大きいですが、心理戦でそれを覆したのは作戦勝ちと言えるでしょう……』
『なるほど、試合中の解説でも仰られていましたが、フェイント戦に持ち込んだ時点で、加藤選手の術中にハマっていたと言う訳ですね……』
『それにしても加藤選手は、未だ《スキル》一つ、《魔法》一つ使った形跡がありませんでした。
私たちはまだその片鱗すら見ていないのです……本当にコレからの加藤選手の試合が楽しみです。』
『他の試合に比べて《魔法》』や《スキル》の使用と言った目に見える派手さはありませんでしたが、非常にテクニカルでハイレベルな試合と言う事ですね』
――――とアナウンサーがフォローを入れる。
(ん? 何でわざわざこんな一回戦みたいな消化試合にフォロー入れるんだろう? 別にハイライトと言えなくもないか?)
――――と疑問に思っていると、武装した係りの人が俺と田中選手を引きはがして退場していく……田中選手は回復魔法の使い手と思われる女性が付き添っている。
「あらあらまぁまぁ」
などと優し気に声を掛けて魔法を掛けている。緑色の光が手から放たれ傷口に手を当てる事で傷口が閉じていく……
「全く何なんだよ! 探索者歴一カ月がなんであんなに強いんだよ! おかしいだろ! ライセンスの取得が緩い海外で経験積んでたんじゃねーの?」
「まぁまぁ、今回は負けちゃったけど冬があるでしょ? 優勝候補として番組で大々的に取り上げる予定だったのに、直ぐに負けたのは君でしょ? 全く……紹介した私の顔潰さないでよ。
まぁでもまさかルーキーがあんなに強いとは私も予想外よ」
(あーなるほどね。ルックスが良く探索者歴も長い彼は番組が仕組んだ優勝候補だったと言う訳か……そりゃそうだろう。
番組だって高価な
ネット番組は、こういうヤラセとは無縁だと思ったそう言う訳ではなかったと知ってしまった事は残念だ。
やっぱり、番組はストレートニュースとアニメ、ドラマしか見る価値はないなと俺は思った。
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