第75話ダンジョン攻略八日目2
「コレが長柄武器の戦い方か……そりゃ太刀から長巻……薙刀へと武器が変遷する訳だ……」
俺は感嘆の溜息を洩らした。
「――――っ一閃!!」
腕の前後を組み替えると右脚を前に出して踏み込みながら、左翼へ左方向から横一文字に薙刀を振う。
アーマーウルフは容易いと言わんばかりに、上方に飛び横一文字を避けるが……中原さんの整ったアイドルのような顔が獰猛に歪んだ。
そのキリっとした目元も相まってその
腕を組み替え、刺すように脚を後方へ戻し穂先の重さにより加速した右袈裟斬りが対空中のアーマーウルフの一匹を切裂いた。
『キャイン!』
緑の血飛沫を上げアーマーウルフは切り裂かれた。
動揺する群れに対して、続いて手を組み替えながら持ち手の位置を変え、左袈裟斬りで着地したばかりのアーマーウルフの脚を斬り飛ばし、更に動揺した群れを右横一文字斬りで半壊させる。
止めと言わんばかりに方向を変えながら、真っ向斬りを虎視眈々と攻撃の機会を伺っている右翼側へ、重力加速が加わった一撃を叩き付ける。
その威力が凄まじく、ゴツゴツとした岩盤質の岩肌の地面は砕かれ、破砕された飛沫の小石が、雨のようにパラパラと舞った。
「あのレベルの芸当を『ステータス』が低い段階でも行えるのか……重量武器と長柄武器のの利点だな……そりゃ初心者へのオススメが長柄武器か鈍器になる訳だ……」
そんな事を喋っている間に戦闘は終了したようだ。
「何時もよりも歯応えのあるアーマーウルフ達でした。これが加藤君の体質による強化なのでしょうか? 障碍と言うのですからもっとこうボスモンスターのような強さかと思っていました」
そう言うと薙刀をブン! と振い遠心力で血を払うとアルコールを染み込ませた紙で拭っている。
「基本的には知性を含めた全ての能力が強化されるみたいなんだ。
例えばだけど、ゴブリンがホブ・ゴブリンになって頭が良くなるのが全モンスターの強化で、問題なのは障碍と言うべきなのは適正レベルがゴブリンの状態で、ホブ・ゴブリンウォーリアーとかが集団で出て来くる感じ……」
「何ですかそのロクに調整されていないゲームが売りに出されているみたいな例えは……」
最近のゲームはアップデートパッチを配布すればいいと、
昔のRPGでは稀に次の町などへ行く道を塞ぐ処理がされていない事があり、次の町で武器や防具を買うためにレベリングを兼ねて、狩場を移動した事があったなとリメイク版8の事を思い出した。
そんな背景もあってか昨今の潮流であるオープンワールドや、オンラインゲームでは進行不可能にしていなかったり、プレイヤー側のレベルで入手できる経験値を変更したりと、対策を施しているのだが……俺の《スキル》【禍転じて福と為す】にはそう言った対策措置はないようだ。
「そんな感じ、RPGで言うと常に一個後の町のモンスターと戦ってボスはそれより強いって状態かな……」
「確かにそれは障碍ですね……インドラもビックリですね」
「なんでインドラ?」
「あら、ご存じありませんか? インドラはオリエント~インド一帯で古くから信仰されていた神で、古くは紀元前14世紀にヒッタイト王国とミタンニ王国にの間に結ばれた条約にも登場する。雷神、軍神、英雄神、また仏教では天部と称される一族の王であります。
日本では、NINNJA漫画の主人公のライバルの前世や天皇の称号の元ネタ、天帝と言った方が通りはいいでしょうか? インドラを参考にしたと思われる神々の中には、龍蛇を打ち滅ぼす英雄の一面を持つ軍神が数多く存在します」
「バビロニア神話のマルドゥークとティアマト、ギリシャ神話のゼウスとテュポーン、ペルセウスとメドゥーサ、スサノオとヤマタノオロチ例を上げれば枚挙に暇がありません。まぁペルセウスとスサノオは、ペルセウス・アンドロメダ型神話として有名ですが……」
――――と付け加えた。
「インドラの場合は「足なく手なき」「肩なき怪物」「蛇族の初生児」と表現される蛇や蜘蛛の怪物とされる「障害・遮蔽物・囲う者」と言う意味を持つ『ヴリトラ』を殺した事で、
「そういうことか……」
「障害……龍蛇や魔物を打ち倒した英雄は、褒美として金銀財宝や女や地位と言う報酬を手に入れる……まさに分析心理学に影響を及ぼしたカール・グスタフ・ユングの集合的無意識……元型に通じるものがありますね……」
ユングの心理学は、ジュブナイルRPGで知った。確か……患者らの語るイメージに不思議と共通点があること、またそれらは、世界各地の神話・伝承とも一致する点が多いことを見出したユングは、人間の無意識の奧底には人類共通の素地が存在すると考え、ユングの心理学を確立していき心理学者のフロイトと決別したんだったな。
ダンジョンの中のモンスターが幻想の中の存在と似ている事も、スキルや魔法の名前が元ネタが分かりやすいのもそれが原因かもしれないな……
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