第74話ダンジョン攻略八日目1

 預けていた短剣を受け取り、荷物を二階更衣室の鍵付きロッカーに仕舞って、買ったばかりのジャージ上下で3000円に身を包む。


 コインロッカーに100円硬貨を入れ、スマホを認識させ施錠し外の椅子に座る。

 およそ10分を過ぎた頃中原さんが女子更衣室から出て来た。



「すいません。おまたせしました。」



 戦闘前の高揚からか、薄く紅が入った顔で明るく笑う姿は一瞬ここがJSUSAジェイスーサ豊橋ダンジョンの二階廊下なのを忘れさせる十分な破壊力があった。

相変わらずラインを強調する探索者用のスーツはいい仕事・・・・しており、ぺこりと頭を下げたことで、お椀型の双丘が強調される。



「べ、別に大丈夫だよー。じゃぁダンジョンに行こうか……」



 助けた時に一度でも見て居なければ、正直俺の中のリビドーを抑えきれる自信がなかった。

 俺は意識を逸らすためにも、ダンジョンに行こうと提案をする。



「本当に防具なしでいいんですか?」


「大丈夫だよ。基本躱かわすし……かわせなくても、多少出血するだけだしね……」


「気を付けて下さいね。……」



 ――――と顔を寄せ、耳元で囁かれるとASMRで調教された俺の耳にゾクゾク来るモノがある。



「分かってます。中原さんも……石橋を叩いて割るぐらい」


「なんですかそれ……一休宗純いっきゅうそうじゅんじゃないんですからそんなトンチはしません!!」



一休宗純いっきゅうそうじゅんって絵本で有名ないっきゅうさんの戒名だった気がする。流石お嬢様学校、学があるんだな……



「早く行きましょう! 右ルートでいいですよね?」


「あ、うん。任せるよ……」



 今日はパンツが白色ベースだったから、右に行こうと思っていたので丁度いい。


 駅の改札口のような場所に、ライセンスとスマホをかざす。

 ピッ! と言う電子音が鳴り、何時・誰が入ったかを記録してくれる。



「じゃぁ行きましょうか……」


「そうだね……」



 こうして俺達はダンジョンの中に潜って行った。

 初見さん達がいるスライムエリアを抜け、分かれ道を右に進んでいくと四つ足のモンスターが多く出現するエリアに辿り着いた。



「えーっとどうしようか? 先ずは連携の練習でもしてみる?」


 

 ソロ探索者の俺は、集団で動いた経験がないので経験者の中原さんに聞いてみる。



「そうですね……先ずは私の実力を見ていて下さい。私は一度だけですが加藤君の戦い方を見ていますので、行き成り“合せる”のは難しくても邪魔にならない戦い方なら出来ると思いますので……」


「それもそうだね。俺とは違って武道の経験がある人の戦いを見るのは初めてだから目を皿にしないと」


「緊張してしまいます……」


「あ、来たみたいだよ……」



 小道の影から飛び出して来たのは、狼型のモンスター名前は確か……



「アーマーウルフですね! 加藤君の体質の調査も兼ねてこの子には実験台になってもらいましょう!」


「無理なら言って下さいね。加勢しますから……」


「心配無用です! ――――ァぁぁぁあああああああああッ!!」



 元手を後ろ足側の顔の横におき、刃筋を上向きにして前足の脛を守るように構え――――恐らくは下段の構えで、地面を蹴り一瞬で数メートルの距離を詰めると、両手で持った薙刀を振った。


 《スキル》【戦車チャリオッツ】を発動している為か、現在は『敏捷』と『技巧』が向上していると思われる。さらにもう一つの《スキル》【怪力】を使用すれば、体力を消費する代わりに『力』を強化されるので、彼女は実質三つの『ステータス』をほぼ楽に強化できると言う訳だ。



(四足歩行の獣型モンスター相手にすね狙いって……結構ガチな感じがする……当たれば機動力が削げるし、外れても『横なぎ』から『斬り上げ・逆袈裟斬り』に軌道修正すれば、首を狙えるんだから殺意をマシマシって感じだな……)


ビュン!


 しかし、白銀の刃は空を薙ぐ……アーマーウルフは後方へ飛ぶ事で、中原さんの下段薙ぎ払い薙刀道で言う所のすね打ちを避けると、伏せるような態勢になったアーマーウルフが襲い掛かる。



「――――!」



 危ない! と言いかけるのを気力で黙らせ、事態の行く末を見守る事にした。

 だが何時でも加勢できるように、腰に下げた短剣の柄と鞘には手をかけて、準備しておく……


 腕を返しながら左手が持つ柄の位置を素早く変え、襲い掛かる魔狼に対して斬り上げ攻撃で、跳び掛かり攻撃をけん制すると、間髪入れずにそのまま手首を回転させ、横一文字に薙ぎ払う。



ザシュ! 


『キャウン!』



 アーマーウルフは、硬質化した皮膚のない腹側を刃先で一撫でされると、赤色の血飛沫をまき散らしながら数メートルを飛ばされ、壁に叩き付けられる。

 追い打ちと言わんばかりに、穂先側の肘を曲げ耳程の高さに持ち、反対の手は軽く腰に付けて固定する。

 恐らくは八相の構えだろう……構えながら走り寄ると「エイ! ヤァ!」と掛け声を上げ、脚で踏み込みながら力一杯に薙刀を振り下ろし、アーマーウルフの首を断つ。

 その姿はまさに武家の女……女武者として有名な板額御前はんがくごぜん巴御前ともえごぜんのようだ。


 仲間の危機を察知してか、七頭のアーマーウルフが通路から走って来る。



「体質の性でしょうか? 狼が群れパックで行動すると言う知識はありますけど、ここまで大きな群れは初めてです!」


「加勢はいる?」



 俺は一応確認を取る。



「大丈夫です! 薙刀は戦国の世までは戦場の花形武器だったんですよ? 一対多は得意分野です。それに……障碍を乗り越えられるって証明しないとパーティーメンバーとしてはお荷物ですから……」



 そう言うとブンと薙刀と振い遠心力で血を払い中段に構える。



「はぁあああああああああッ!!」



 疾風の如き一突きが魔狼の群れを割る。

 アーマーウルフは左右に飛び退き一閃を避けると、扇状に広く展開して中原さんを囲い込むように包囲する。

 頭を動かさず睨み殺すような視線だけで左右展開する魔狼をけん制し、腕の前後を組み替えながら左袈裟斬り、右の斬り上げと絶えず薙刀を振い。正面から迫る魔狼を絶えずけん制する。


 《スキル》【戦車チャリオッツ】の効果が、条件を満たした事で変更され、『敏捷』と『技巧』が向上から→全能力が上昇し・・・・・・・・さらに『力』と『耐久』が向上すると言う、まさに一騎当千のつわもの、一人〇〇無双ゲー状態になる。

 またもう一つの《スキル》【怪力】を発動する事で、体力を消費する代わりに更に『力』を強化する事で、恐らく薙刀の一撃がかすれば恐らくアーマーウルフ程度なら一撃死するだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る