第49話ダンジョン七日目4


 そんな俺を気にも留めず、急激に痩せたオークの皮下では芋虫のような何かがうごめいている。 更に変異するとでもいうのか!

 少し距離を取りながら、回復薬ポーションを片っ端から飲んで利き腕を癒す。

 それはまるで、蝸牛かたつむりに寄生する寄生虫ロイコクロリディウムが眼球内でドクドクと拍動はくどうしている姿に似ており、見ているだけで気持ち悪い。

 脱皮とは違うのだが、オークの皮を脱いで中からい出て来たものは、まさに形容し難い生物だった。


 尖った耳に牛のような一対の角、目は吊り上がり赤く充血しており、口元にのみオークの面影を残す

 タウル型(主に上半身が獣人または人間、下半身が四つ足のケ獣のキャラクターの事で海外のケモナーが発祥の概念)で、芋虫のような節その全てに爬虫類と百足のあしを合わせたようなものが生えている。


 また芋虫と違うのは既に蝙蝠コウモリのような翼が生えており、飛行能力を想起させる部分だろう。また粘液に塗れた触手が生えており、生物としての“歪さ”を強調している。


(まるでクトゥルフだな……)


 現在の体勢は、下半身で体重を支え上半身を起こしている状態を想起させ、先ほどまでのような近接戦闘能力が高いようには見えない。


先ずあれはなんだ? 寄生虫が変体を遂げた姿なのか、オークが進化した姿なのか? それすら分からない。ただ分かっている事は、コイツを倒さなくては明日は無いと言うことだけだ!!


 俺は覚悟を決め金色に輝く刀を振るう。



「せやあああああああああ!!」



 袈裟懸けに剣を振うが、五本の爪を器用に使って持ち上げた小丸盾に防がれる。



「不味! 南無八幡だ――――ッ!!」



 付与魔法【皇武神の加護ディバイン・ブレス】を防具に付与し防御力を上昇させようとするも、詠唱の途中で【形容し難きモノ】の反撃が炸裂さくれつする。

 付与魔法【皇武神の加護ディバイン・ブレス】を付与した刀で、 ピュン! と言う風切り音がなる尻尾をムチのように使った薙ぎ払い攻撃を受け止める。


パリン!


 衝撃で防具の外装が破壊され、全力で踏ん張っていたと軸足が一瞬で宙に浮き、そのまま身体を猛スピードで後方へ持って行かれ、クルクルとボールのように回転しながら壁まで吹き飛ばされる。



「――――ッ!!」



 咄嗟とっさに「間に合わない!」と、覚悟を決めて防御の姿勢を取らなければ、腕が折れていたかもしれない。


 壁につく頃にはだいぶ減速しており、余力をを持って壁を蹴り、態勢を立て直せた。大丈夫、許容範囲内だ。

 【形容し難きモノ】の尾を見ると、先が斬り飛ばされているのが確認できた。


 刀で防いだ時に斬り飛ばせたのか……それにしても何て力だ。


 恐らく蜥蜴トカゲのように自切したのではなく、速すぎる速度で刃に当たったから切断出来た。と言ったところか……視線を動かし切り飛ばした尾を探すと、生きの良い餌に見せるためかピクピクと痙攣けいれんしている。


 【形容し難きモノ】は切断された尾を一別する事もなく、蜥蜴トカゲのような足を動かしてショートソードと小丸盾を鋭利な爪で拾い上げ、頭部付近にある立派な腕で掴んで構えた。


 【形容し難きモノ】は、ショートソードを袈裟懸けに振るう。


 ビュン!


刹那。


 数十mの範囲の地面をえぐり取るほどの剣圧が発生した。

 来ることが分かっていれば避ける事は容易い。


『視点は広く、こう来るって安易な決めつけはダメ。それと死角は作っちゃダメ! 安易な決めつけはダメだけど相手の立場になって考えて考える!』――――と言う立花さんの教えを思い出し、視点を広く相手の立場になって考えれば、おのずと次の選択肢が見えてくる。


 斜め前方への飛び前転で剣圧を回避し、下段に剣を構え砂煙に紛れ接近する。

 剣を振り下ろした格好で前に屈んでいる【形容し難きモノ】の側面に回り込む。相手にとっての死角、つまり安全に攻撃を気かけられる場所だからだ。



『――――ッ!?』


「この勝負、もろたで――――ッ!!!」



 金色に輝く刀を振う。逆袈裟が這うようにうごめく長い胴に入り、緑色の血が噴き出る。だが、【皇武神の加護ディバイン・ブレス】の効果の一つである痛みを感じていないのか、【形容し難きモノ】は、動揺することなく機械的なぐらい冷静に、先の斬れた尾を大きく振るい周囲一帯を薙ぎ払った。


 だが、俺は宙がえりをして【形容し難きモノ】の背中に乗りこれを回避し、背骨を攻撃するつもりで刀を真下に付き刺した。



『ギャャャャヤヤヤヤガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァ!!』



 耳障りな絶叫を上げ暴れまわるが、背骨を損傷したためか尻尾による振り回し攻撃は飛んでこない。



「よし!」



 絶望的な状況が一つだけ好転した。

 まるでギミックを解かなければ攻略できないボスキャラのようだ。


 安心していたのも束の間。

 今度はローパーのようなウネウネとうごく触手が一斉に俺に襲い掛かる。

 幸か不幸か? 俺は以前にもこのような経験を積んでいた。

 そうダンジョンバット先生である。


 先生の場合、飛行速度は遅いものの、数の多さと全方位から攻撃する自由度が高かった。だがこの触手はそれに比べると幾分か自由度が低い。

 そう、生えている場所から動けないのだ。

 似たようなカエルの舌がだいたい体長と同程度伸びる。つまり触手の長さの倍程度離れれば避けられる、と予想を立てる。

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