第50話ダンジョン七日目5

 擦り足でゆっくりと後退しながら、刀と購入したばかりの短剣を駆使して触手の猛攻をなす。短剣ってけっこう使いやすいんだな……


買って良かった! 職員のおねぇさんありがとう。


 右手の刀で袈裟斬り→逆袈裟りと、手首を軽くひねり剣を振う。

左手の短剣はその補助に専念する。


 流石に10本以上の数になると、迎撃しきれず触手による突き刺し攻撃が当たり、防具の装甲や肌を斬り裂く。

 ただそんな些末さまつな事を気にしていれば、あっという間に悪循環に陥ってしまう。



「うぜぇンだよっ!」



 短剣を突き立てる。


グサリ!


 触手は緑色の血を噴出す。


 だがその程度で終わることは無い。


 首を振り周囲をよく観察し、触手に優先順位を付けていく……あそこの触手は数がまだ残っているから動かし辛いだろうな。

 など何となく朧気おぼろげながらに理解出来てくる……否、感覚を掴めてくると言うべきなのだろうか?


もう一度立花さんの言葉を反芻する。

『視点は広く! 安易な決めつけはダメ。死角も作っちゃダメ! 安易な決めつけはダメだけど相手の立場になって考えて考える!』


視点は広く。


決めつけず。


願望を混ぜず。


客観的な事実を元に思考しろ!


相手ならどうするのか? その考えを常に持てば……



「見えた!」



 俺は事実と予測の上で導き出した攻撃の空白地帯を、縦横無尽じゅうおうむじんに繰り出される触手に攻撃を刀や短剣で防ぎながら進撃する。



「――――ッ!」



 一見、奇想天外きそうてんがいな行動に見えた、そのば回転の横薙ぎ払いも、今ならなぜやっていたのか理解できる。

 視野を確保して状況を正確に判断するためだ。

 徒手空拳としゅくうけんを織り交ぜつつ、短剣と刀で確実にダメージを蓄積させ相手の攻撃手段を奪っていく様はまさに、攻めの将棋と受けの将棋。

 一手差し間違えれば一転攻勢に打って出られてしまう状況で、完璧な受けを成立させているような所業だ。


 俺は猛攻をい潜り、尻尾付近から背中へと移動していく。

 斬り付けるために腕を振り上げたかと思えば、直後その場所を触手が通過していく。短剣を置けば触手の速度を利用して二つに別たれて行く……


 極限の集中状態ゆえに出来る神業だろう。

だがその性能を制御し、乗りこなそうとしている。

 痺れを切らしたのか、降り終えろされた触手の一撃を短剣をひらめかせ、受け流パリィし一進一退の攻防戦を繰り広げる。


 お互いに一歩も引かない、真剣勝負の殺し合い。

 カンカンと言う金属音がダンジョン内に響き渡る。

 圧倒的な『ステータス』による暴力と、そのレベルにしては恵まれた『ステータス』だが相手には及ばない。だからこそ技術で底上げをした。

 そんな両者により繰り広げられる応酬は、見る者が居れば目を止めるだろう。

 だが生憎と観客は居ない。だからこそ、みにくもがき苦しんででも恥ずかしくも何んともないっ!!


 不安定な柔らかで硬い肉と骨を感じる背中を蹴り、首をもたげた蛇のような状態になっている【形容し難きモノ】の首を狙う。

 オークの首を斬り飛ばした時に死ななかったのは、恐らくは既に頭の部分は胴体に収まっていたのだろう。

 まぁオークの体内のどこにこんな大きさが仕舞われていたんだ? と言う疑問はファンタジーさんが何とかしたのだろう。

 だから死ななかったと考え、多くの生物の弱点である頭と心臓を狙う事にした。


 だがそれを察し、【形容し難きモノ】は暴れ俺を振り落とす事に成功する。


それによって【形容し難きモノ】は姿勢を崩す。


今だ!


 刀に強化魔法を施し、よろめいた【形容し難きモノ】の脚を一本切り飛ばした。【形容し難きモノ】は反撃のために短剣を振り上げ、袈裟斬りに振り下ろそうとするが、即座に逆袈裟斬りで打ち上げアクションゲームで言う“崩し”をする。


今だ!!


 短剣やくつにも魔法を付与し、隙を許さぬ追撃を繋ぐ――――



「せやぁぁあああああああああああああッ!」



 刀と短剣、異種の二刀流で息を付かせぬ怒涛の連撃を叩きこむ。

 縦横無尽に繰り出さす連撃の数々。袈裟斬りからその遠心力を用いた左後ろ脚によるかかと落しや、短剣による刺突。拳や蹴りを織り交ぜた連携攻撃コンボを叩きこむ。

 不格好でも奇想天外に見えても、不思議と隙や違和感を感じさせない。


 だがそんな怒涛の連携攻撃コンボを叩きこんでも絶命させるには至らない。

 俺の猛攻ラッシュにも疲れの色が見え始める。

 貪欲にこのまま張り付いていも、決定打にならないので一度距離を取る。



『ギュパデンバサバセサングゲビゴゴビバギギ。

バリボゾンゴゾズサギ、ザバシジャビギダスラゼゴグギダロボザバサ、グダセデギンザロボボバズザデビボグンゼギグヅスぎゼボソギダロボボバズジョシロゴゴブゴセザギュンズブギュグゼガダダ』



 まるで意味が分からない。バルバルとしか聞こえない奇怪な言語で、《魔法》の呪文のようなものを唱えながら【形容し難きモノ】は、短剣を逆手に構えるとそれを地面に突き刺した。その姿は何かの儀式のようにもみえる。

 次の瞬間、【形容し難きモノ】の背後に魔法陣が描かれた。

 不味い。と直観的に理解出来た。



「――――ッ!」



 脇目も振らずに一目散に駆け抜けて、魔法を回避するために走って、走って、走って距離を取るために最善を尽くす。



「進化したからって火炎魔法使って来るのかよぉぉおおおおおおおおおおおおお!」



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