第37話ダンジョン六日目5稽古2


「んんっ、まぁ詳しく追及すれば、お互いが傷つくだけだだし!俺は物理的にですか?

こう見えてアタシはおねぇさんで、偉大で尊大で寛大だから、今回は特別に・・・見逃してあげる」( *¯ ꒳¯*)テレカクシジャナイワヨ



「何の事だか甚だ理解できていませんが、ありがとうございます。

と、お礼を言わせて頂きます眼福でした!。」 (*^∀゚)ъ


 俺がそう言うと、フンっと鼻を鳴らしそっぽを向いた。


 ほんと、猫みたいな女性ヒトだな……



「でね、戦い方を教えてあげる! って言ったけど実はアタシ、人に教えるのって初めてなんだよね……。

今もショージキなに教えればいいかわかんないし、 

斬り合えばなんかの勉強になるでしょ?」


 謙遜と言うには傲慢に、バトルジャンキーがそう言い放つと、彼女の双眸そうぼう獰猛どうもうに大きく見開かれる。

すると纏っていた雰囲気、オーラ、気迫……そう言ったモノが一瞬で変質した。


 これが第一線で活躍する探索者……


 彼女は、鞘に納められたままの両刃の直長剣を両手で構える。

 危険は少ないはずなのに、俺の第六感が危険信号をビンビンと鳴らしている。失礼だと思う以前に、咄嗟に腰に佩した愛刀の鞘と鍔の上に左手が乗っり、親指で既に鯉口を切っていて、右手も柄を握り締めている。

 いつでも抜刀できる状態となっていた。


「――――っ!?」


 自分ではなぜ構えを取ったのかすら理解出来なかった。


 捕食者と被食者。


 そう言う絶対的な力の差を感じた故の行動なのだろう。


「いいねー。今ので殺気を感じられるぐらいには、経験積んでるんだ……

コータローはその強さを得るために戦って、戦って、戦って来た訳だ。

大丈夫だよ……“死なない”ていう保証付きで、そのエンチョー戦をするだけだよ。

大丈夫、死にはしないよ多分ね……大丈夫」



 大丈夫がバーゲンセールで、ちっとも大丈夫に聞こえない!

 彼女の声音には、虐めがいのある玩具を手に入れたような、そんな好奇心と嗜虐心の入り混じった雰囲気を感じた。

 




 彼女の構えは剣道で言う中段の構え、切っ先どの部分に向けるかで、五つの字の違う『せい眼』になると言う話を剣術漫画で読んだのだが、残念ながら彼女の中段がどれに当てはまるのかは分からない。


「やぁぁああああああああああ!!」

 

 八相に構えながら接近し放つ。立花さんは斬撃を軽々と避けると、身を翻して放つ横なぎが腹に命中し、俺は数メートル吹き飛んだ。


 ドン! と言う鈍い音がして、ダンジョンの岩肌のような壁に叩き付けられた。


 痛い。背中とお腹に激痛と言うより熱のようなモノを感じる。


「悪くないけど、『もし袈裟斬りを避けられたら?』って考えた方が良いと思うよ。袈裟斬りに特化したいなら、薬丸自顕流やくまるじげんりゅうでも習えばいいけど……君の強さは貪欲なところを潰しかねない。

 剣術って言うのは技だけではなく、信念や理念・哲学を内包した当時のドートクキョーイクだから技にもその考えが出るのさ……」


 失敗の原因を丁寧に説明してくれる言葉も、痛みのせいでろくすっぽ頭には言いてこない。右から左へ聞き流しているようでもったいない。

 

 痛みに悶えながらも怒りの力で、闘志を滾らせてぶるぶると震え嗤う膝に手を突いて立ち上がる。

 血の混ざった唾を吐き捨て、一瞬たりとも目を離すまいと思い。相手をギロリと睨み付ける。


「おお! 頑張るね。 男の子はそうでなくちゃ」


 可愛い子猫がじゃれて来た! ぐらいの軽いテンションではしゃぐように喜ぶと、掛かって来いよ? と言いたげに手をクイクイと曲げるジェスチャーをした。


 今度も攻める。彼女の攻撃を防ぐなんてのは、土台無理な話だからだ。

 足をハの字にして前後に開くと、半身をとって腰だめに構え刀を胴の横に付く程密着させる。見よう見まねの居合術で、左下方から右上方に向かって逆袈裟斬りを放つが……


「見え見えで遅い」


 逆袈裟を避けると、がら空きになっていた左半身向けて何かが叩きこまれた。俺には長剣なのか、脚なのかはわからない。

 ただ見えたのは長い何かが、一瞬でブレただけと言う事だ。


 再びダンジョンの岩肌のような壁に叩き付けられた。


ドン! 


 痛い。

 叩き付けられた場所と、攻撃を受けた所が痛いと言うより熱い。


「芸が多いのは良い事だけど、知り合いに居合を使う人がいるから教えて貰った事があるし、体感してる事を教えると……居合は一度放てばその間合いや剣速を覚えられてしまうと対処されやすいの……型の最初の位置が常に一定だから、複数の構えを持つ他の流派に比べてどうしても、手の内が限られてしまうと言う、分かりやすいデメリットが存在しているから……それに左下段からの攻撃は、右手で構える剣術に利がある。と考えてのようだけど、それが通じるのは実力が一回りから二回り程度までよ」


 服装を見るにズボンの脛の部分に泥が付いているから、廻し蹴りかなにかで蹴り飛ばされたのだろう。

 地面に手を突いて、揺れて平衡感覚が麻痺した脳内で対策を考える。

痛みは酷いもののアドレナリンが分泌されてきたのか、少しはマシになって来た。


「へぇー、予想よりタフだね……『耐久』が高くても感じる痛みは変わらないんだけどねぇ……よっぽど強く何かに執着しているのか……それとも痛みに馴れているのか……まぁどっちでもいいや、やる事は変わらないしね」


 再度八相に構え、剣を振る……が容易に躱されて鳩尾みぞおちに一撃拳がめり込む。


「――――がはっ!!」


吹っ飛ばされ、再び壁に叩き付けられた勢いで、肺の空気が絞り出された。 肺は新鮮な空気を求めるが、痛みの余り呼吸が上手く出来ない。


「呼吸は規則正しいリズムでする! 痛みも苦しさも隙も減るからゆっくりと整えて、私の呼吸のマネをしなさい。すーふーすーふー」


 言われた通りにマネをする。

呼吸が整うだけで、焦燥感も痛みも少し鈍くなった気がする。


「そう、それでいい。君は痛いのが嫌みたいだけどそれでいい。痛みに馴れている人間なんてロクでもない。だけど痛みを恐怖してはだめ! 体が動かなくなった瞬間、あなたは死ぬ……だからどんな時でも一縷の望みを探しなさい。心に希望がある限り人は立ち上がれるから……」

 

 顔をあげると車に跳ね飛ばされたのか? と言いたくなるほど距離が離れていた。


 どんな馬鹿力なんだよ……加速距離のないショートパンチであれだけの威力を出せるのは、『力』によるものなか身体的な技術によるものなのか? 聞きたい事は多いけど、怒りの前にはそんな些末な事はどうでもよくなってきた。

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