第36話ダンジョン六日目4稽古1

 

くだんの立花銀雪は有名人である。

ダンジョンが出来て、幾ばくもない頃から活躍している一線級女性探索者で、ググれば誰もが『彼女のこと』を知る事ができる。

大学生ということもあり、フラフラと色んな所に出向いて問題を起こす、バトルジャンキーとして有名なのである。


 いわゆる問題児だ。そんな彼女、なぜ俺に会いに来たかがタゲられたかは知らないが、ぶっちゃけコレはチャンスだ。

一流どころにご指導いただける機会などもう来ないかも知れない。

思わずネガティブな言葉が口をつく。



「本当に、いいんですか? 俺なんかで……」


 冒険者になって半月程度のLv1探索者が、最前線で活躍するエースの手を煩わせてよいのだろうか? と言う迷いもあるが、全ては妹を助けるためだ。多少ワガママになってもよいだろう。



「そんな暗い顔しないの。そのためにわざわざ遊びに来た・・・・・・・・・って言ってるでしょ? それとも何? アタシには教わりたくないって言うの?」


 口を尖らせ、少し拗ねた感じに見える女性の仕草には、こうなにかグっと来るものがある。

視界の隅で職員さんが青い顔をして俺を拝んでいる。)ドウシタノデショウカ?

 


「そんな事はないです。ただ恐れ多かっただけです」


「そ、ならいいけど……あ、探索者になったわけ理由とか、目標とか聞かせてくれる?

そこらへんがしっかりしてると、ギリギリの時に違いが出るから…

まぁ私の周りだと……目立ちたいとか、カレカノが欲しいとかそんな不純なやつ動機が多いけど……」


 年頃の女の子のぶっちゃけトークが耳朶じだを打つ。

 今も昔も、考えは似たようなものなんだ……


「俺の場合は探索者への漠然とした憧れでしょうか。

そりゃ女の子と付き合いたいって欲も人並みにありますが、一番は妹の病気を治す薬を手に入れる事です!」


「妹さん病気なんだ……流石に薬をあげる事は出来ないけど……

うん!君は運がいいよ。アタシが鍛えてあげるんだから、棚牡丹って思いなよ」


「確かに、『勿怪もっけの幸い』、『鴨がねぎを背負って来る』って感じですねw」


「人を鴨葱扱いって酷くない? 

うちのリーダー賀茂かもさんだし、時々聞くのよその手の冗談w

君もリーダーのサイン欲しがってたのなら、確かにアタシって鴨葱だわ」



「欲しくないとは言いませんが、そんな事頼みません。

サインが欲しかったら、自分で貰いに行きますし」



「確かにね。サイン貰って何になるって感じはショージキあるよね。

アタシは私は○○さんに会った事あります! って証明でしかないし……」


 流石にそこまでは思っていないんだけどな……


「じゃ、ダンジョン行こっか? 人が居なくて訓練に使えそうなところ教えて」


職員さんが端末を操作すると、彼女が取り出したスマホに地図が送信されたようだ。


「ここね、了解。約束通り滞在期間中はスタンピードの対処に協力してあげる。これでいい?」


「ありがとうございます」)ショクインサンハ アンドシタシタヨウダ


「じゃいこう?」


 そう言って立花さんは俺の手を引いて部屋をでる。


「剣だけ取って来るからまってて」


 ――――と言うと女子更衣室に消えていた。


 あまり時間もかからず、出て来た彼女の姿は元のままだった。

そう、完全にタウンカジュアル、お臍が出そうな程のおしゃれ着だ。

動き易さなんて二の次みたいな服装だった。



「装備持ってきてないんですか?」


「バカ言いわないで!。装備ぐらい持ってきてるよ……少しブラついて君の情報を教えて貰おうとここに来たら、非常事態で討伐に加わってくれって言われただけ。

一応軽くダンジョンも見て回る積りだったから、剣は持ってきたの! それにこんな低階層のモンスターに遅れを取るほどたるんでないわよ」


「ならいいんですけど……」


 成程ダンジョンに入ってからの、彼女の言葉は本当だった。

まるで近所のコンビニに、普段着で行くかの気軽さで進みながら、進路を邪魔するモンスターに繰り出す攻撃の数々。

 例えばその場で回転しながらの斬撃。決して正統剣術にない奇想天外な動きや、体術が織り交ぜられたそれは、不思議と隙を感じさせないものであった。



 ボンッ、ボンッという鈍い炸裂音と共に、まるでトマトの潰れ跡のような、僅かに固形物がある血だまりたけが残される。

そんな演舞にも似た剣技で起こるいたずらな旋風でカミカゼの術、立花さんの上着の裾がはためき、一瞬大きく捲れた。

 そこで覗いたのは、薄い青縞のスポーツティなブラだった。



 もっとこうなんというか、フリルとか刺繍が多く入ったものというイメージ願望が強かったが、よく考えてみればそれらは全くフリルとか刺繍機能に関係がない。逆に意図してその機能効能?を活用する手段がある、ことの方がちょっと怖い気もするが (๑´-﹏-`)オンナッテコワイ


 こういうのも悪くない気がする心の中でサムズアップした



「って一応お手本としては、こんなものかしら キャっ」


 随分と可愛らしい声をあげた立花さんは、ギュッと裾を抑えながら俺を軽く睨む。

 捲れ上がった上着の裾を抑えたのだもう遅い。俺の眼球は青ストライプのブラを目に焼き付けているのだから……


「見た?」


その時!俺の本能が、玉虫色の返事を得意とする日本人としてのDNAが『素直に答えるな』と判断を下した。

 あえて何が凄かったのかを明言しない事で、この場を乗り越えると言う高度な判断だ。


 推移や対応、反応を見守る仏の国は、懸念や強い懸念を表明し、遺憾の意や強い遺憾を示し、誠に遺憾であるとキレ気味に対応し、甚だ遺憾とキレ、朕茲ニ戦ヲ宣スと開戦するのが我が国だ。

 実に情緒あふれる東洋的な言葉使いで、西洋人から見れば玉虫色と言って間違いない。そんな脳内会議の末、口から出た言葉は以下の通りだった。


「ええ見ました。凄かったです」 ٩(๑•̀ω•́๑)۶ドヤッ

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