第47話ダンジョン七日目2
「うん。いい感じ」
そんなこんなで準備をしていると、スマホが震え通知を知らせてくれる。
「誰からだろう……」
スマホを見るとLIMEの通知で、相手は
立花銀雪『了解』10:02
立花銀雪『今日の12時30分とかどう?』10:02
立花銀雪『行きたいお店あるんだよね』10:02
立花銀雪『良かったらコータローもどうかなって思って……』10:03
ふむ、
10:05『わかりました。ちょっとダンジョンに潜って来るので、少し遅れるかもしれません。待ち合わせはどこにしますか?』
立花銀雪『そうねダンジョン通りの正門でどう?』10:05
10:06『わかりました』
そう言うと俺はスマホをしまい、更衣室を出た。
………
……
…
通勤感覚でゲートを越え、ダンジョンに入る。
相変わらず内部は、岩肌が視界一杯に広がり圧迫感や、息苦しさを伴った閉塞感を感じさせる。 あれ? こんな感じはダンジョン初日以来だ。
まるで黄泉路への入口のようだ!
逃げ出したいような不安感を払拭するため、抜き身の刀と共に歩み始める。
もはや慣れたはずの洞窟が、今日に限って何かおかしい。
光る鉱物や
岩盤質の壁に囲まれ、凹凸の激しい足場を走り抜ける。
僅かに堆積した砂を踏むと、硬い岩と柔らかいゴムに挟まれ『ジャリ』っと言うと音に加え、疾走による呼吸音が反響している。
嫌な予感が的中したかオークが、今度は武装して徘徊していた。
「不味いな……」
2メートルに迫ろうとする大柄なオークだ。
剣闘士が被っているような兜に、羽のような装飾が付いており、それが大変に目を引いた。
胴体は、複数の金属片を組み合わせて作られたと思われる
武器は一振りのグラディウスに小さな丸盾バックラーと、まるで紀元前頃の古代ヨーロッパの兵士のような格好をしている。
「共和政初期のローマ軍か、
と現実逃避をする。
「でもこれが嫌な予感の正体か? それにしては少ししょぼいな……『
短文呪文を詠唱し、《魔法》【
速やかに金色に輝く
「よし、やってやる!」
岩盤のような地面を蹴りだして、武装オークに接近する。
武装オークはその時既に、しっかり構えていた。
飾り兜の間から真っ直ぐに俺を見据え、
だが、武装オークにはその戦闘スタイルのため弱点がある! そこを付くのがいいだろう……
流石にコレは、防ぎにくい・よ・なっ!
右下段に構えた刀を左下段に構え直し、逆袈裟に斬り付ける。
「――――っ!?」
兜の隙間から見えるオークの表情は、驚愕、動揺、迷い、驚き……と言ったモノで対処しあぐねているように見える。
だが身体が覚えているのか、
正直ここまでは予想通り、
刀の刃が
兜のあいだから僅かに覗いた醜いオークのブタ鼻が僅かに膨らみ、「フヒっ」とも「ブヒっ」とも言えない不気味な嘲笑が、鼻から洩れるように聞こえ、口角も上がり目元が緩む。
それを見て“嗤っている”と認識できたのは、そう言う見下した視線を俺に向けて来た、クラスメイトを見たと事があったからだ。
「はい。釣られた!」
刀の柄を持っていない左腕を前に突き出しながら、両足で力強く地面を蹴り、古武術か何かの動画で見た、体重を乗せたパンチをお見舞いする。
パンチと言うよりは、
ドン!
「グハ……」
衝突の衝撃で
「案外、上手く行くものだな……」
高い『力』『技巧』『敏捷』故か、数度だけ見た立花銀雪の技術を、ぶっつけ本番で模倣する事に成功した。
攻撃の威力とは、『重さ』と『速度』に基本的には比例する。
なので多くの格闘技では腰を捻るなど工夫を、拳にできるだけ体重を乗せるようにするものだが、この技でもそれは変わらない。
『あのショートパンチを覚えたいんですけど、どうすればいいですか?』
―――とLIMEで聞いた時の返答は、実に彼女らしい物だった。
『文字通り全体重を乗せなさい!!
探索者とは言え女である以上、純粋な筋力で男に勝てないの。
だから関節や筋肉の柔軟さと、技でその差を埋めてるのよ。
この方法で華奢な私でも、トラックに跳ねられたような威力が出るのよ』
つまりは、弾丸と同じで8gの重さしかない9 mm ルガー弾が大きな衝撃(
だが今回の技はその真逆の『遅い』が『重い』。
立花銀雪さんの体重は知らないが、女性の平均体重は平均52㎏と弾丸の6500倍はある。だから彼女よりも『重い』俺が拳と言う一点に体重を集中させ、一気に放てばその威力はより絶大となる。
とどめを刺すために、数メートル吹き飛んだオークに迫る……が、突然オークに異変が起こった。
病的なまでに白くなったオークの、その肌の下で“ナニカ”が
「緑色の血だから
そう言って俺は剣を振って首を落とした。
だがソイツは何事もなかったかのように直立すると、たるんでいた腹や腕が急激にしまり、脂肪の下に埋まっていた筋肉が表出し、パンプアップする。
更に『キュポン』とでも音がしそうな様子で、全く別の首が生えたのだ。
数舜の間にそんな異常な光景を目撃し、俺は初めて心の底から恐怖し、
そして逃げた。
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