第22話ダンジョン生活四日目2武装コボルト1

 

 武装コボルト団は、突然襲って来たダンジョンバットの群れに暫く浮足立ちはしたものの、暫くすると冷静さを取り戻した中央に陣取るコボルト指揮官コボルトコマンダーの指揮の下、効率よく止めを刺してゆく。



「バウバウ!」



 コボルトコマンダーは身振り手振りを交え、配下に指示を飛ばす。


「「「「ガゥウウッ!」」」」



 その指示に答えるように、武装コボルト達は短い鳴き声で返事をした。



「流石軍団って所か、随分統率が取れてる感じだな……」



 もう二桁程戦いの痕跡である死骸があるだろうか?

気配を消し、様子を伺う俺の所にまでダンジョンバットの骸が転がり込むようになると、咽せ返る銅の匂いで、ルーム内が埋め尽くされてゆく。



「さぁ……もっと殺せ! 殺し合え!」



 ただ、まだまだこれからだ! とでも言える場の空気感を感じ、更に安全な岩場まで身を隠し撤退。 独り言ちる。



「――――!」



 俺の言葉に反応したのかは分からないが、血にまみれた仲間の死体に激昂げっこうしたダンジョンバット達が次々と飛来、血の匂いに狂ったピラニアの如く、武装コボルト団目掛けて突進していく……



「なにこの狂乱具合もしかしていっちゃってる? ^^;、フェロモンとか匂い系?

 超音波が情報伝達手段だと勝手に思ってたってオチ?」



 既にルームの天井が黒く見える程、成程 ”数は力” は間違ってない。

戦力差は10倍以上、見事な連携でダンジョンバットを駆逐していく、コボルト達の動きにも陰りがみられる。

 

 俺が戦った時は50匹程だったが、今のこの様相を見るに、軽く100匹は超えているのでは?



(あれ?、結構余裕で体力を削れるんじゃね?)そう思った時だった。



「ゾボゴジョ! ギドザジャビジャジシドバシデデビゾジャビヅブゲ!」



 洞窟内にひと際輝く深紅の炎が迸り、爆炎を立て続けに生み出す。

その炎が燃え盛る音は砲撃音とまがう程、またその効果は『質量のない砲撃』そのもの、といっても過言ではないものであった。




「嘘ぉーー」



 中央で指揮するコボルト魔法指揮官コボルト・メイジ・コマンダーの放った《魔法》によって、戦局はひっくり返された。


 否、温存しておきたかった手札を切らせ、限りある魔力を消耗させた。と考えれば、お釣りがくる。


 コボルト・メイジの砲撃を合図に、他のコボルト達も一転、攻勢に打って出る。

 


「「「「ウォォオオオオオオオ!!」」」」



 コボルト達の声は戦場に轟く。

 号令、怒号、慟哭どうこく、悲しみ、そう言った負の感情を、大鍋でグツグツ煮詰めたような地獄からの叫び声だった。



「【戦場の歌ウォークライ】か……」


 戦士系の《スキル》の一つで、相手を委縮させ、歌う者精神を高揚させる勝ちどきを上げる。



「超音波と血の匂いで耳も鼻もイカれてるハズなのに……ここまで戦えるのか……」



 俺は自身の《スキル》【禍転じて福と為す】の与える、障碍しょうがいの効果を甘く見ていたようだ。


 オニキリカスタムを鞘から払い、剣を構える。


 ダンジョンバットの群れが倒され切る前に、一匹でも多く倒す!


 覚悟を決め、岩陰から頭を覗かせる。

一番近くにいるのは、無防備に長槍を振うコボルト・スピアマンだ。

穂先は薙刀状の刀剣が付いており、刺すよりも斬る事に向いていそうだ。


 これは欲しいな……


 乱戦の中、足音と気配を消して背後に接近すると、コボルト・スピアマンの右肩を斬った。


 確かに肩に切っ先が命中し、骨を折るまでは成功したものの次の瞬間には、コボルト・スピアマンは腰を捻り、盾を持った左腕を突き出すように動かし長槍による突きをを試みる。


 ……がしかし、袈裟斬りからの斬り返しによってより柔らかい脇側から、槍を持った右腕を斬り飛ばす。



「――――ヴォウ!?」



 何が起こった? と言わんばかりの表情を浮かべ、腕を斬り飛ばされた衝撃で右に飛ばされていく……


 これで右側にいる二匹から俺を攻撃するには、コボルト・スピアマンを巻き込む可能性がある。

 このまま数歩の距離にいるコボルト・メイジを倒す!


 俺が狙っている事を察したのか、一目算に踵を返し背後に走る。

 『敏捷』のステータスが低いのか、思いのほか速度は出ていない。


 《魔法》は先ほどコボルト・メイジが使ったように詠唱と呼ばれるチャージ時間が必要になる。

 弓矢で言えば、矢籠から矢を抜き、矢を番え弦を引き絞るまでが詠唱であり、ポンポンと高速で放てる《魔法》は数が少ないと聞いている。


 詠唱される前に、コボルト・メイジを叩けば、司令塔兼最高火力はいなくなり、戦いやすくなる。


 刀を袈裟斬りに振いコボルト・メイジを杖事一刀の元に切り伏せる。


刹那。


 背後から迫りくるコボルト・ソードマンの凶刃を紙一重でかわし、何とかプロテクターの表面が斬られる程度で済む。



「あっぶねぇ! やっぱり追いつかれるよね……」



 三半規管が超音波でイカれているのか、ややおぼつかない足取りではあるものの、ロングソードを正確に叩きこむだけの技術があるようだ。


 即座に手首を返して、抜刀術のように横なぎに刀を振るい、コボルト・ソードマンの毛皮を切裂く……



「ちっ!」



 どうやら切り裂く事が出来たのは薄皮までであり、致命傷を負わせるまでには至らなかったようだ。


 コボルト・ソードマンは、腹を片手で抑える。


 仲間を守るように二匹のコボルトが駆け寄って来る。



「流石に不味いね……」



 一度戦線から離脱し、挟み撃ちのリスクを減らす。


 コボルトの戦力は2匹の怪我なし、と二匹の大怪我に死亡一匹……二匹が連携して襲ってくるなら戦い辛いけど……手にしている得物は、ナイフと、大剣。随分と間合いの違う武器が残ったものだな…… 

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