第12話 天神様と初めてのクエスト③

 名付けとは、文字通り名を与えること。


 私が天神だと呼ばれていた時は……名のなかった、付喪神などに与えたりもしたが。飼い猫だったあれの名は、あの世の官吏だった頃に……閻魔大王が名付けたものだと言っていたが。


 とにかく……この大福のような精霊に名を考えてやらねば。


 付いて来る気持ちにあふれ、私を気に入ったのか酷く懐いてくれている。こちらの世界に通じる名の方が良いだろう。



「う〜〜ん……」



 トビトの場合は、呼び名があったからこそ名付けやすかった。だが、この子の場合は特にない。私が単純に大福のようなイメージを持っただけだから……悩むのも無理はない。


 だが、そこに行き着いた時に……幾らか候補が出来た。



「……フク……フクト……フータ……」



 どれがいいか、口に出してみると……精霊はあるところで反応を示してくれた。



「フータ……でいい?」


『う、ん! フータ!!』



 名付けが完了すると……『フータ』となった精霊は、瞬時に紫の光を帯びていく。


 消えた頃には、真っ白だった身体が紫苑色のような薄い紫の大福になった。あちらでは……ブルーベリー大福と呼ばれていたようなあれに似ている気がした。



(……フータ……風神や風伯のような感じだが)



 この子の属性、と言うのは何なのだろうか?


 私やトビトの場合は植物の精霊なので、世界樹からは『木属性』だと告げられていたが。



『マスター! マスター……ぼく、フータ!!』


「うん。これからよろしく」



 とは言え、旅の供が増えたことは喜ばしい。私はフータを持ち上げ、軽く抱きしめてあげた。ふわんともちもちしていて、やはり大福に似ていた。



「我らも精霊であるが、それはわかるか?」


『うん! けど、なん……で、ヒト、のフリ……を?』


「驚かないで聞いてくれる?」



 他に人間などの気配がないが、簡潔に経緯などを告げれば……フータは納得したのか、もともとある黒豆のような瞳を輝かせてくれた。



『す……ごい! 世界、樹様……からの、使命!』


「君も……手伝ってくれる?」


『うん!』



 これで、改めて旅路を続けられる。


 それと、シトゥリへの冒険者ギルドへ採取依頼の任務を持ち帰えらなければ。


 治癒草はたっぷり摘んだし、フータを抱えて戻ることに。


 はじめはトビトが抱えようかと提案があったが、私の方がいいだろうと自分で抱えた。重さは綿のように軽いし、何より触り心地が良い。


 これが、人間がダメになる素材と言うものかな?


 それは置いておいて、トビトには治癒草の袋を持ってもらうことにした。


 街に戻れば、検問所でフータのことを聞かれたので冒険者カードを見せれば、職業で納得してもらえたよ。これは実に便利だね?

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