第2話 天神様と世界樹



【……その通りです、若人わこうどよ】



 何処からか、声が聞こえてきた。


 辺りを見たが、誰も話しかけに来ない。


 よくよく見ても……同じだった。


 となれば、考えられることはひとつ。



「……あなたかな?」



 私は根から立ち上がり、樹の方に向き直った。


 声をかければ……キラキラしていた葉などが呼応するように、さらに輝いて見えたのだ。



【……ええ、私です】



 樹が話すなど、普通ではあり得ないが……私とて、普通の存在ではないのだからね?


 それくらい、特別驚くことでもない。



「……私は菅原すがわらの道真みちざね。ここでは無い場所で……一応神だった存在だったが」


【ご丁寧に……私は世界樹と呼ばれるもの。ヒトは『ユグラドシル』とも呼んだりします】


「……世界樹」



 そのような存在は……日本どころか、外の国にもたしか存在していなかったはず。


 おまけに、樹が話すなど……やはり普通ではあり得ないからね?



【……ミチザネ。あなたをこちらに呼んだのは、私です】


「……樹が、私を?」


【あなたに……ある意味ゆかりのある存在が私だからです】



 世界樹が枝を揺らしたのか、何か上から落ちてきた。


 勢いよくではなく、ゆっくりと。


 私の前にきたので、手を差し出せば……それは、見覚えのある果実だった。



「……梅?」



 私には縁の深い、樹の果実。


 世界樹とやらをもう一度見上げると……枝ぶりなどが、たしかに大きさは違えど、これは『梅の木』だと納得が出来た。



【ええ。私はそちらで言うウメの大樹。そして……今あなたは、神ではなく……私の樹に宿る精霊へと転身しています】


「……神では、ない?」



 それで、梅の実を持つ手などに感触を感じたのか。


 と言うことは、私は今……異世界転生とやらを成してしまったのか?


 これはこれは。



【無礼だとは重々承知。しかし……成したのは私ではなく、こちら側の神です】


「……そうか」



 異なる世界とは言え、神の成せる業であれば……下位程度の私では何も出来まい。


 なので、世界樹に恨み言を言う必要はなかった。

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