第12話

私は一羽の鴉。

道案内しかすることができない。


「まどろっこしくてムズムズした」

お前は見る目がないなと思う。

「上出来だったじゃないか」


「叔母の表情をみたか、一種の病ってやつか」

完成させたのは妹のためだけではないだろう。

「そうかもね」と適当に相槌を打つ。


「賭けがあたって、内心、安堵してるだろ」

「甥に持たせた手紙、彼らの意見と合ってたからな」

「可能性の問題、だから渡しておいた」


訪問することが正解なのか、いや、彼らにとって損と得のどちらかわからなかった。今でもわからない。

人間は、秤を持って、選択し続ける他ない。

「上々出来だったな」


車は赤信号で停車した。

小説の最後の頁を読んでみる。

砂丘の喫茶店。

青年が優しい笑みを浮かべ、幼子に食事をあげている妻と楽しそうに、他愛もない会話をしている。


「ありがとう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私達は鳴けない鴉 ナツ @sem1sh1gure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ