第6話
悪態をつきたくなる気持ちを抱えながら店外へ出た。
空全体を薄く覆う雲が、気分を曇らせる。
接客業としてどうなのだと未だに疑問に思うまま、足取りを早め運転席へと乗り込み腕組みをする。
買取額に文句があるわけではなく、むしろ高額で査定してくれた。
それには納得していた。
初対面の占い師に、情報を与えずに幼少期の渾名まで当てられたようで、店主の宣言に反応できずにいた。
どうして、と言葉が喉先から出かかっていた。
旗を掲げる指導者と言わんばかりに発せられた言葉に、数秒間静止してしまった僕に、店主はそそくさと査定表・金銭を手渡し、「またの御来店を是非お待ちしてます」と云った。
心なしか、彼は出会う前よりも、僕の全身を細かく観察し、最後には瞬きも少なくなった暗い目で見つめていたのだ。
モルモットのように観察され、居心地のわるさから、挨拶も早々に店を後にした。
お客様にプレゼントしていると、ある手紙も渡された。一体、何なんだ。
僕の秤は、今は損と得どちらに傾いているのか。
視線を前方、アクセルを落とし、道沿いのツタ状植物が垂れ下がる喫茶店<アッカー・カフェ>に入ることにした。
「いらっしゃいませ」と店員が快活な笑顔で出迎えてくれた。
<おすすめ珈琲豆>イラストが描かれたポップが掲示されていた。
どうやらお喋りが好きな店主のようで、尋ねてもいないのだが次々と雑談を繰り出してくる。
「では、ごゆっくり」と銅製のカップに淹れられた珈琲を差し出した。
絵画が飾られた窓際の席につき、息を吹きかけて温度を下げる。
長い金髪の女性と手を胸にあてた黒服の男性が描かれた絵画が掛けられている。
「お客さん、よければこのカードを」と、そばに来ていた店員に渡されたカードには<ダイアン・カフェ>と記載されている。
「さっき話した兄の店のカードです、うちと負けず劣らず味は保証しますよ」
確かに、風味豊かで美味しい。
「味に惚れ込んで行きつけになる人も後を絶たない。悔しいですがね」と頭を掻く。
「そうそう、この絵画は兄の店にも飾られているんですが、その席を特等席にしている常連がいたらしく、独身の兄は羨ましかったみたいですよ」とからからと笑う。
「ここは違うでしょう?」
「ええ、全席平等です。席は指定しない方が賢明かもしれません。というのも、三年くらい通ってくれていたそのカップル、彼女だけが来るようになったんですよ」
もし、僕に相手ができてもこの席には座らないようにしよう。
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