第3話

「今日はいい天気ね」


カーテンを開け放し、叔母が独り言のように呟いた。

声のトーンが高い。嫌な予感がした。


「実は、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


やはり。

先程の言葉は、頼み事をしたいときのつかみでもあるからだ。

そうではない場合もあり、判断に迷うが、ヒントはある。

「構わないよ」と返した。

返答が来るや否や、縁側の窓を全開にして、庭の倉庫へと微笑みながら手招きをしている。

倉庫の後片付け程度であれば大した手間ではないので、是非そうであってほしい。


手入れが行き届いた雑草が生えそろう庭へ。

僅かに残った萎れたキンセンカの花が風にそよめいている。

叔母が植えたが、ほとんどが枯れ始めている。

飛石の道を進み、倉庫の入口で立ち止まる。

何も言わず、開錠して中へと誘導した。

衝撃のせいか視界に少し埃が漂っているのがわかる。


「これこれ」と指し示した先には、段ボール箱が六箱、中には本がぎっしりと詰め込まれている。


「これは、古本?」

「そう、これをね、処分したいのよ」


微笑んだ叔母は紙を手渡してきた。

あらためてメッセージが端的だと思いながら、ひらひらと眼前で振るう。


「いやね、読み終えた小説ばかりたまっちゃって、どうしようと思ってたら、はみ出してて」


叔母には、母と共に小さい頃から世話になっているので要望にはできるだけ答えてあげたいが、一抹の疑問を口にした。


「でも、このチラシ、怪しくない?シンプルすぎて本当にあるのかな」

断れるように誘導できないかとも考えたが、無駄だった。

両手を軽やかに広げ「何事もやってみないとわからないもんさ」と云う。


この前向きな考え方は僕に良い影響を及ぼしてくれたと思うが、気になるのは情報の少なさだけではない。

<所有者が大切にしていた>とは、どうやって店主は判断するのだろうか。

その一文が胡散臭さを助長させている原因だった。


しばらく、返答に迷っていると、

「結果ばかりを想像するのもわるいとは言わないけど、只の御使い。好物を作って待っておくよ」と僕が損得勘定しているのを見抜いているかのように云った。

「徒労に終わったとして、途中で喫茶店に寄ったりして、行きつけの店になるかもしれない」と追撃してくる言葉に折れて承諾することにした。

前向きな文句にさらされ続けることになるだろう。

「わかったよ、行ってくるよ」と返すと、叔母は先程よりも嬉しそうに微笑んだ。

口元の皺が優しく緩やかに刻まれている。

ただ、行動へ移す前に、一つ尋ねることにした。


「・・・この中で大切にしてた本ってある?」

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