第2話
「良い夢はみれたか」
起き抜けに毛ほども興味がないような声色で尋ねられたものだから、うまく聞き取ることも難しかったが、何かを言われたことはわかる。
「起きたばかりで、まともな返答は期待するのは、・・・暖簾に腕押し」
「それは良かったな」とこちらもまともな返答が返ってこなかった。
左右の壁と中央に本棚が配置されたいつもの風景。
前方の閉じられたシャッターは鈍い銀色を放ち、寒々しさを感じさせる。
本棚にはこれまでに買い取った古書が所狭しと整然と並んでおり、あらゆる配色の背表紙の統一感のなさが内装のアクセントだ。
大きく息を吸い込むと、読み古された本の匂いが体に蓄積していくようだ。
壁の掛け時計を一瞥すると、時刻は十時三十二分、営業開始までまだ時間がある。
苦味で眠気を覚ましたかった。
「マンデリンか、キリマンジャロがいいんだが」
「」沈黙を返答とすることにした。
朝食を済ませ、洗面所へ入ると、のっぺりとした鏡が出迎えてくれた。
洒落っ気の欠片もないわずかな固定具が四隅に付けられている。
鏡は時には見たくもない自分の姿を映し出す。
けれども、僕らは日常的に容姿を整えるために鏡という道具を利用する他ない。
いつの間にか、右手の中指と親指を擦り合わせていたことに気づいて止めた。
営業開始。
階下へ下り、鈍色のシャッターを両手で押し上げると、陽光が鋭く差し込み、眩しさに目を細めた。
「眩しいな、今日は天気がわるい、運がわるいな」
普通は逆だろうと指摘せざるを得ないような文句も聞き飽きてしまったことに、一瞬、居心地の良さを覚え、若干の後悔も覚える。
脇を見ると、紙のようなものを手で摘んでいる青年が、突如開けられたシャッターに驚いた様子で、横目で目が合い気まずい空気感が漂った。
勘が外れたな、と気まずさをかき消すように会釈をした。
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