私達は鳴けない鴉

ナツ

第1話

<小説は高額で買い取ります。所有者が大切にしていた小説であれば増額検討>


ポストに投函されていたチラシを手に青年は考えた。

チラシには簡潔にその一文だけが記されており、右下端におそらく古本屋であろう、住所が記載されているだけだった。重要な内容のみを書くとしても、ここまで簡潔に作れるものだろうか。

白地の紙に余計なイラストもなく、住所は黒字、キャッチコピーは赤字で、一見するとただの悪戯で作成した不審者が近隣一帯にばらまいたのではないかと疑う出来栄えである。

少年がつい目をひかれ、内容を見るに至ったのは、それが本の栞のように縦に細長く、感触が独特だったからだ。単なる白紙ではなく、裏面がざらついており和紙のようでもあったが、適度な固さがある。


<ブックマーク>

記載された店名と住所を確認すると、隣町の旧市街で、旧市街の郊外のここからは遠くない距離だ。

物珍しさからなのか、玄関脇にある保管箱へ収納しておくことにした。


<ケード>と彫られた表札が、朝日に照らされている。

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