忍びの生徒

 リューライト・シェイド。


 彼の存在は私にとって好奇心を煽るようになった。

 最初は誰なのかすら認知していなかったが、今では一番気になっている人物と言って良い。


 学園の不良生徒が知らぬ間に王女の騎士団に引き抜かれた。


 それだけでも驚くことなのに、彼の周りには女の子達で溢れている。


 従者だけならまだしも、他の令嬢達もだ。

 洗脳でもしていなければ可笑しな話。


 そして、彼女達の実力もなぜか急にめきめきと頭角を表しだしたのだとか。


 一体リューライト・シェイドとは何者なのだろう。

 ここ最近、私の関心はその男のことでいっぱいとなっている。

 退屈を持て余していたから、私はその退屈が晴れそうな気がして気分は柄にもなく高鳴ってしまっていた。


 そのためだろう。


 学長から騎士団に監視役として派遣されることが決まった際は表情には出さなかったけれど、内心では歓喜に打ち震えていた。


 私は忍びに長けている。


 何せ諜報専門の家系で暗躍を任されることも多い家柄だ。

 この大事な任務で私は出世も目指しながら彼の正体も暴ける。


 ああ、なんと甘美な響きであろうか。


 必ずリューライト・シェイドの正体を突き止めてみせる。

 というわけで、学長が手筈を整えるまで私は彼の視察をひっそりと行うことにしたのだが――。


 な、な……なんなんだ、あれは。


 そこには、彼にべったり張り付いているリューライトの妹の姿が確認された。


 私は思わず資料を確認する。


 名はサレナ・シェイド。


 たしか誰にも心を開かず本心を打ち明けることはない、と記されている。

 事実、学園でも彼女は気高く、堕落している兄を嫌っている節があったという情報は多数から聞き込み済みだ。


 なのにこれは、どういうことだろうか。


 何度見てもサレナは兄を堕落させようとしている。

 本来であればそういう人物像では彼女はないはずなのに……。


(やはり洗脳……それが一番考えられるのか?)


 断言はできないものの、そうだとしたら下郎だ。クズだ。


 だが、もしそうではない場合……彼にはとても魅力があるという話にもなってくる。

甘やかしたいほど魅力的な人物だという話に……。


(ますます……気になってきたな。騎士団に私が加入できる日が楽しみだ)


 柄にもなくマフラーで覆われた口元が緩む。

 私は木から降りて千里眼で見通すのを中止した。


♦♢♦


「そ、そんなにくっつくな……」

「やだ。ずっと側にひっついてる」


 騎士団内部、その講義室にて。


(おいおい……うらやま―――じゃなくて騎士としての誇りが足りないだろ)

(この場でいちゃつくとは、とんでもなく肝がすわっているらしいな)

(騎士団の問題児ってか)


 なるべく目立たないように、波風立てないようにしようとしたリューライトであるが、それはどう考えても無理そうなのであった。

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