甘々の騎士団生活①

 騎士団。

 誇り高い気持ちを持ちながら、鬼の稽古を耐え抜く生活がそこには待っている。

 だが、リューライトには別の意味での地獄が待ち構えていたのだ。


 ミリヤと小っ恥ずかしいデートを終えた翌朝。深いまどろみの中、リューライトはカーテンの隙間から差し込んだ日差しで目を覚ます。

 身体を起こして、鍛錬し授業に参加。

 今日は授業も初日、ということで気合いを入れていたのだが……どうにも身体が重く立ち上がれない。

 そっと布団をめくれば原因が判明した。


「……えっ」

「………むにゃむにゃ」


 天蓋付きのベッドの上にはリューライト以外にもう一人。何も見覚えのない者でない。

 可愛らしい寝言を零しながら、彼女はリューライトのベッドに忍び込んでいたらしい。

 リューライトは思わず呆けた声を漏らした。

 すると、目を覚ましたのか、彼女はこちらを見てから何気なく挨拶をしてくる。


「……兄貴、目が覚めたんだ」

「まぁな」


 悪役ムーブをかますと決めた現在、どんなことでも動じずにクールに振る舞うことにしていることにしているのだが……。

 内心ではリューライトは突っ込みたくて仕方がなかった。


(おはよう……じゃなくてさ。いやいや、なんでサレナがここにいるんだよ!?)


 大声を胸中では叫ばせるリューライト。

 無理もない。リューライトは王女直属の騎士団。サレナは聖女直属の騎士団に在籍することになったのだ。仮入団の形式とはいえ、聖女と王女の騎士団では場所も離れているし、何より立ち入りは互いの団同士、許されていないはずだ。

 と、いうのも聖女と王女は犬猿の仲だからなのだそうだが……今それは置いといて。


 リューライトは困惑を隠せない。

 するとそんなリューライトの様子を見てか、サレナは身体をもじもじとさせて上目遣いをしてきた。


「今日は私がご奉仕する日だから……」

「ご、ご奉仕、だと?」

「そう。今日は私だって聖女様が宣われたし」

「………お、俺にご奉仕なぞは必要ないぞ?」


 一体全体、自分の知らないところで何が起きているというのだろうか。

 聖女? ご奉仕?

 リューライトのいない場所で何かが動いていることだけは分かるが、嫌な予感しかしないことだけは直感する。

 奉仕について、不要だと告げるが……サレナは唇を尖らせてそっぽを向いた。


「……ミリヤとはデートしてたくせに」


 ぐさっ。

 胸に大きな穴ができるリューライト。

 そこを突かれるとどうにも太刀打ちできそうになかった。しかし、リューライトにも尋ねたいことがあったのは事実。

 サレナに物おじせずにあくまで悪役ムーブをかましたまま、口を開いてみせた。


「あれはデートではないが、なぜそれを知っているんだ?」

「ふ〜ん、あれってデートじゃないんだ。ミリヤに言おうかな」

「ま、待て……。いやデートにはなるな、しかしなぜそれを……」

「やっぱりデートじゃん……」


(どう答えたらいいんだよ……)

 思わずリューライトは、内心でつぶやき、悪態をつく。何とも複雑な乙女心はリューライトには理解ができないものだ。


「あ〜んとかしちゃってさ。あ〜んとか」

「…………み、見てたのか」

「まぁ。でも多分他の子達も見てると思う」

「………そうなのか………は?」


 ここでは思わず呆けた声が漏れてしまう。

 リューライトは頭の中が真っ白になった。


(いや、他の子達? どういうことだ? いや、聞き間違いか?)


 そう困惑するリューライトを他所に、サレナはニヤリと口角を釣り上げてみせた。


「もう私、遠慮しないことにしたから」

「………………」

「今日は授業日だけどさ。聖女様と王女様の騎士団も座学は同じだし」

「…………な、何を言って」

「兄貴……恥ずかしくて悪ぶることにしたのかもだけど、無駄だから。私、昨日のミリヤとの姿見て覚悟決めたの。もう我慢しないって」

「……………」


 思わず目を見開くリューライト。

 サレナはどこか覚悟があって、この部屋に訪れた様だった。

 遠慮すれば、出遅れてしまう。

 その焦りからの発言。殻を自分で破ったサレナは止まらない。


「今日からよろしくお兄ちゃん……」

「……っ」


 リューライトは知らない。

 これから始まる、甘々な騎士団生活を。

 もっとも、リューライトからしてみれば地獄の騎士団生活を………。

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