章完結 侍女とのデート②

 ミリヤと気恥ずかしさを覚えつつ、二人でドライズにまで足を運ばせた。

 中心街で何でもそろっているこの場所は誰しもに愛される。

 ミリヤはあたりを見回しては、心なしか瞳を輝かしていた。


「……苺フェアが今日はされてるんですね」

「えっ……」


 確かに、苺のイベントが今日行われているのか、各店舗には苺の看板が張り出されていたり、苺のメニューの宣伝なのか、チラシを配っている店員が散見されたが……正直言って、単なる偶然でしかなかった。


 ミリヤは大がつくほどの苺好き。

 それは、幼い頃のリューライトと二人きりで交わした約束だったらしいが、当にリューライトはそのことを忘れていた。

 だが、ミリヤは勘違いを起こしており……リューライトが自分のために、『苺フェア』が開催されているドライズにつれてきてくれた、と誤解を招いてしまっている。

 もっとも、ドライズに行けばとりあえず場所に困ることはない、との判断から訪れたわけであるが……。


「事前に調べてくださってありがとうございます!」

「いや、ま、ま……まぁな」


 嘘をついてしまう罪悪感で胸の中がいっぱいとなるが、こんなに晴れやかな笑みを向けられては否定することができなかった。

 嫌な汗が額、それから背筋を伝っていく。


「どれが食べたい? 苺パフェの看板がやたらと目立つが……」

「そう、ですね。では私はあちらを食べたいです」


 そう言って指差したのは、特大苺パフェ。

 値段が高いのが目につくが……普段、よくしてもらっているし、何なら今は貴族の身。リューライトは迷うことなくその店へと向かった。

 ―――と、そのときである。

 商品を頼み終えて、テラスの席についたところで―――。


「リュ、リューライト様っ!」

「リューライトさん……?」


 少し離れた席でルクスと側にいる女の子の二人の姿を確認することができた。

 どうやらルクスも付き合っている彼女と一緒にデートをしている最中らしい。

 手を軽く振ってにこやかな笑みを向けてくる。

 リューライトはその場ではごまかして早めの退散をしたかったが、こうして姿を先に見つけられては誤魔化し様もなかった。

 リューライトとミリヤも軽く応じるように手を振る。

 そして、リューライトとミリヤはルクスの席まで行くことに。


「……リューライト様もデート中ですか?」

「ルクス。もうやだ……『もっ』て、私たちがデートしてるみたいな言い方……」

「だってデート中だろ? 俺たち」

「ルクス………」

 そう言って、ルクスとその幼馴染みは向き合った。

 そして、心なしか熱っぽい瞳でお互いの顔を見あっている。


(あの……惚気るのやめてもらっていいですか?)

 と、思わず細めてその光景を見ていると側にいたミリヤが目を丸くして何やら頷く。


「……なるほど。異性とはああいうスキンシップを取るのですね」


 心なしか耳をほんのりと赤らめ呟くミリヤ。

 きゅっとリューライトの裾を掴んでくる。

 どうやらルクスたちと一緒にパフェを食べたいらしい。

 リューライトは内心でため息をつきながらも同意した。

 だが、それは盛大な間違いだったとリューライトは気づくことになる。


「デートではどのようなことを、お二方はなさっているのでしょうか……」

 経験と知識がないミリヤが開口一番にルクスたちに問いかけたのだ。


「えっと、まずはですね――――」

 そう言って、ルクスたちはイチャイチャを開始しだす。

 パフェをお互いに食べさせあう、いわゆるあ~んというやつだ。

 リューライトはルクスの甘々にむずがゆさしか覚えなかったが、ミリヤは興味津々といった様子でずっとそのイチャイチャを見つめていた。


 そして、自分のパフェに視線を落としてスプーンで一口すくうと。

 こちらにルクスカップルと同じ様に、向けてきて……。


「リュ、リューライト様。あ、あ~んです」

「……い、いやな、なんで……」

「デ、デートの基本はこれと教わりましたので」


 それはあくまで付き合っている前提の話で、絶対に間違ってる。

 と、リューライトは指摘しようとしたが先にルクスがそれを止めてきた。


「女の子に恥をかかせちゃだめです、リューライト様。ミリヤさんがこうして勇気をだしてらっしゃるんですから」

「そうですよ? 食べませんと……」


 ルクスカップルにそう言われてしまうと弱かった。

 リューライトは悪態をつきながらも、ミリヤのあ~んを受け止めた。

 すると、ミリヤは柔和な笑みを浮かべて体をもじもじとさせる。


「リュ、リューライト様。その……恥ずかしいですが、これは悪くないです」

「……そ、そうか(悪くあってくれ)」


 リューライトとミリヤは初々しいカップルかの様に周りには映っていただろう。

 お互いに顔を真っ赤にさせていたのだから。

 でも、だからこそ。この場を見ていたヒロイン達はスイッチをオンにしだすのだ。


「(見つけたと思ったら、リューライトのやつ何してんの!)」

「(お兄ちゃん……私も絶対甘やかしてあげる)」

「(リュー君。楽しそうみたいね……ふふふふふふふふ)」

「(リュー、私が稽古をつけてやるというのに何をしているのだ)」


 それぞれがそれぞれの手段でリューライトを見つけたヒロイン達は、このミリヤとの甘いひと時でスイッチを入れた。


 遠慮しない、と。


「(ああ、私の計画がうまくいきそうです……リューライト様)」


(……なんでだ。なんだか、すごく嫌な予感がする……)

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