侍女とのデート?

 翌日。

 その日の天気は快晴で空はどこまでも青く澄んでいた。

 侍女であるミリヤに休息をとってもらうべく、リューライトは今日彼女と外出することとしたのだが……。


「ミリヤにしては珍しいな」


 待ち合わせの時刻になっても、ミリヤは姿を現さなかった。

 時間に厳しく自分を常に律している彼女。その彼女が遅刻なんて、と物珍しさにリューライトは首を傾げる。

 どこかで座って待っておこうかと考えた矢先のことだった。


「……リュ、リューライト様。気づいてくださらないとは少し傷つきます」

「えっ。お……お、おおいたのか」

「ええ。私の方からお声がけしようかとも思いましたが、その……リューライト様からお声がけしていただきたいな、と思いまして」

「すまん……あまりに雰囲気が変わってたからな。気づけなかった」


 ミリヤはあまりに女の子らしい服装で身を包んでいた。

 普段はボーイッシュ気味で言動や振る舞いからも女の子といった感じはしないのだが、今のミリヤはまるで初めてのデートで浮かれている女子の様に煌びやかな恰好をしていたのだ。

 白のワンピース。

 それが、リューライトがミリヤに気づけなかった原因であった。


「……雰囲気が変わった、というのはそれはどういう意味なのでしょうか」

「………それは、まあなんだ。いい意味でだ」


 さすがに、可愛くなってて気づけなかった、なんて悪役ムーブをかましている現在、口にだすべきではないだろう。

 そのため、思わずリューライトはたどたどしく頷く。

 ミリヤは表情を変えることなく、リューライトの服の裾をきゅっと摘まんだ。


「……リューライト様、答えていただけると嬉しいです」

(いや、なんで……!)

 と、反射的に脳内で突っ込むリューライトだったが、ここではっと何かに気づいた様子。


(……ひょっとして、ミリヤは今回の誘い。デートだと捉えているんじゃないか?)


 そんなつもりはなかったがそうとしか考えられなかった。

 あくまで休息を取ってもらおうと一緒に外出することを決めたのだが、男女が二人で外出……デートととらえられても何ら不思議なことではない。

 だが、だとするなら……である。


(……服とかもデートだと思って張り切ってくれているなら、俺もその気でいた、ってしないとだよなぁ)


 そうしないと、女子に恥をかかせた、といった評価を受けてしまうだろう。

 悪役ムーブをかましているため、評価を落とすならそれでもいいとは思うのだが……何というかそれは嫌だった。


「……まあ、可愛いからだな。あくまで客観的に見るならではあるが」

「……っ、リューライト様。ありがとう、ございます」


 顔を熱くさせ、ミリヤは自分でも聞いたにも関わらず顔を俯かせる。

 それから、リューライトの手をトントンとミリヤはたたいてきた。


「どうにも……男女が二人で外出する際は手をつなぐ伝統があるのだとか」

「……えっ」


 初耳だった。

 そんな伝統があったとは。

 ひょっとすると、この設定というのも裏設定なのかもしれない……。

 表情を崩さず、自然とミリヤはそういったが、いざ繋ぐとなると、恥ずかしさが襲ってきたのか顔を真っ赤に染め上げた。


 それは、リューライトも同じで柔らかい手に思わず女の子と手をつないでいる、と実感させられドキドキと心臓が高鳴ってしまう。


「……リューライト様。お顔が赤いです」

「今日の天気は快晴だからな。仕方があるまい」

「……ふふっ。そうですね」


 主人の照れ隠しを察知すると、ミリヤは思わず頬をほころばせた。


♦♢♦



(あら? リューライトはどこいったのかしら。部屋にせっかく来てあげたのにいないなんて)

(お兄ちゃん……部屋に私が行ける日は……覚悟しててね)

(リュー君、今日は外出? いないみたいだけど。なんか嫌な予感がするんだよね)

(リュー。私が稽古をつけようと思ったのにいないな。どうしたというんだ?)


 その同時刻。

 それぞれのヒロイン達は皆がリューライトのことを探し、求めていた。


 ――絶対に見つかってはいけないデートが始まった。

 

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