閑話 聖女の誓い

 聖女の姿は今日も教会で確認された。

 彼女の瞳に映るのは、リューライト。

 実際に彼女が、視界の中でリューライトを捕らえているわけではない。

 ただ、精神で彼女はリューライトの偶像を見ているのだ。


 言わば妄想。


 聖女——ルクシアはどこまでもリューライトに心酔しきっている。


 それは、彼女の心の病を彼だけが気づき、彼だけが頼りになったからに他ならない。

 ルクシアは内心で"リューライト教"を立ち上げることとなった。


(……アリエスの望む通りにはなりません。誰かが独占することだけはダメなのです。リューライト様はその器には収まりません……)


 アリエス王女の考えは見抜いていた。


 どうせ、自分の団に入れれば命令だからだの上司だからだの、とパワハラで彼に迫るに決まっている。


 リューライト様はお優しいから断れない。

 それに他のメンバーの方々も。

 近寄らないで、自重して……!

 と、アリエスが他の者に命じれば彼女達は従わざるを得ない。


 だからです。それは公平ではありません。

 だから、私は私の団に入れるように仕組みました。リューライト様以外の女性の方達を。

 抜け駆けはダメです、アリエス。

 彼は誰からの寵愛も受けるべきお方。

 アリエスだけのものになってはダメなのです。


 聖女と王女の権威性は同等。

 そのため、聖女の団に入ってさえしまえば彼女達(シューラやサレナ、ミリヤ)に命令をアリエスは下せない。


(あぁ……アリエスはきっと悔しがるでしょうね。今はさぞ悦楽に浸りなさい……)


 黒い笑みを浮かべて悦に浸る聖女——アリエス。彼女は自分の団に入れた新人達には導きを示していた。


 それこそが———"リューライト教"。

 彼をどう敬愛しどう尽くすのか。

 私の教えに彼女達は驚愕を示しながらも理解を得ていました。


 彼は貴族だけの器にとどまりません。

 一夫多妻制で問題ありません。いや、そうでなければ。

 誰かが独り占めしてはならないはずです。


 初日はミリヤ。

 彼の従者に、リューライト様の部屋にいくことを命じました。

 また別の日には、他の者を。

 そして、また別の日には他の者を……。


 そうして、リューライト様は楽園エデンを築いていくべきなのです。


 目の奥底。

 そこはハート型となっており、彼女は俗に言うところの"ハーレム計画"を始動していた。


 原作で聖女が可愛らしい容貌であるにも関わらずあまり掘り下げられないのはこの盲信ぶりにある。


 異常なまでの愛。

 盲目的でこじらせた恋心。


 それが裏設定として設けられていたため、彼女は原作では登場回数が少ないのだ。


 そんな設定を知らなかったリューライトは彼女の大きな心の問題を解決してしまうことになる。


 その結果……リューライト教が生まれることになってしまったのだが、そのことをリューライトは知る由もなかった。

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