侍女の休息?

 聖女の直属騎士団に加入することになったはずのミリヤ。

 説明では、王女と聖女の騎士団とでは……寮と稽古はそれぞれ場所が違っていて離れていたはず………。

 もっとも、座学の時には合同になるらしいが。


 そのため、寮が離れているはずなのに、この場にミリヤがいることには困惑が隠せないリューライト。


「……………」

 呆然とするリューライトにじっと魅入るミリヤ。

 おそらく主人の言葉を待っているのだろう。


(……ここは、クールに振舞った方がいいよな)


 今後、甘やかされることのないように悪役ムーブをかましていくことを決意しているため、リューライトは平静を装った。

 悪役貴族たるもの、動揺など見せてはいけないだろう。


「……ま、待っていた。ミリヤ」

「はい。リューライト様のお帰りお待ちしておりました」

「そちらの進捗はどうだった?」

「聖女様の騎士団のことですか?」

「あ、あぁ」

「はい。良い気づきを得ることができました。私が今こうしてリューライト様のお部屋にいられるのも聖女様のおかげなのです」

「……な、なるほどな」


 内心で思わず苦笑を零す。

 あの麗しく律儀な聖女様なら申し出そうなことだ。

 原作ではあまり出番の多くないキャラクターであるのが、聖女。

 もっとも、彼女が抱えている問題については原作で知っていたため、助けはしたのだが……彼女の本質についてリューライトはあまり把握していない。


 それは、聖女の出番が少ないからだった。


(まあ、十人ぐらいヒロインいたらそりゃ……出番少なくなるよな)


 主要キャラが多すぎて……あまり出番がなかったキャラ、それが聖女なのだ。

 もっとも、なぜ出番が少なくて人気もあまりないキャラだったのかは謎なのだが……。

 ともかく。

 助けてもらったことに恩義を感じた聖女様は、特例で従者のミリヤを……初日ということもあって稽古で疲れた自分を労ってもらうためにこうして部屋へミリヤを招かせたのだろう。


 部屋には良い匂いが充満としていて、風呂も沸いている。

 リューライトの視線に気づいたのか、ミリヤが翡翠の髪をなびかせながら口を開いた。


「……お食事、お風呂。どちらも準備できております」

「いつも、ありがとな」

「……はいっ」


 悪役ムーブをかますと決めた手前、感謝を伝えるのが恥ずかしくなってしまっているが、聖女は何もわかっていないようだ。


(ミリヤだって、初日の稽古で疲れてるだろうに……)


 それを終えたうえで、自分のお世話。

 いくら聖女のめいだからといって、ミリヤにだって休息が与えられるべきだろう。


「……ミリヤは疲れてないのか?」

「私がですか?」


 尋ねられるとは思ってもみなかったのか、ミリヤは首を傾げてみせた。

 それから、ゆっくりと首を横に振る。


「……いいえ。私はリューライト様の専属侍女ですので」

「………」


 疲れていないはずがない。

 だが、主人を前にして疲れている、とは到底申し出れないのだろう。

 リューライトは悪役ムーブをかましながら、口を開く。


「休息をとってもらうのも、俺のためだ」

「……っ、私は疲れてはおりません」

「そうかそうか」


 素直になれないのだろう。

 仕事熱心なミリヤには、一緒に外出してもらうなどして休息をとってもらうしかなさそうだ。

 そう考えたリューライトはミリヤの肩に手をポンと置く。


「では、いつが空いている?」

「……リューライト様のお側にはいつまでも」


 即答し胸に手を置くミリヤには苦笑いを浮かべざるを得ないが……明日はちょうど休日である。

 騎士団が違うとはいえど、休みの日は一括されているに違いない。


「……明日は空いているか?」

「はい、空いております」

「だったら、その日。外出するぞ」

「……またお困りの令嬢様でも?」

「いや、普通に外出だ。ミリヤを連れてな」


 そうでもしないと、休息とらず貴方ずっと仕事しそうじゃん……。

 と内心で零しながら悪役ムーブを表ではかますリューライト。

 その発言を受け、ミリヤは耳をなぜか赤くし……俯く。


「……私が、でも……よろしいんでしょうか?」

「当然だ。侍女だからと遠慮することはないからな」


 休みを取るのは誰しもに認められる権利。

 それを誇張するかの様にミリヤに伝えると、ミリヤはなぜか瞳を揺らして切なげにうなずいた。


「……はい。ありがとうございます!」

「……お、おう」


 なんだか勘違いが起きていそうな気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。

 うん、気のせいということにしておこう。


 そう思い込んでリューライトは次の日を迎えるのだが……。

 その日。リューライトは軽く中心街のドライズでミリヤの好きな物でも食べてもらおうと考えていたのだが………ミリヤは言い方が悪いかもしれないが、柄にもなくとても女の子らしい服装で姿を現すのだ。


(いやめっちゃ気合い入ってるし。可愛いけどさ……これデートだと思われてないか?)


 そう思えてならなかった。


♦︎♢♦︎


(私はリューライト様を望んでもいいのですね。リューライト様は遠慮することない、っておっしゃってくださいましたし………)


(聖女様のおっしゃっていた通り、リューライト様は私の望む答えを導いてくださいます。他の方々も間違いなく導かれるでしょうが……少し妬いてしまいますね)


(ですが、リューライト様はその私の寂しい気持ちをも、見抜いておられたのでしょう。だからこそのデートのお誘い。あぁ……リューライト様以外、私は見えません)


 内心で心酔しきったミリヤであるが、リューライトにそのことを知る由はない。

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